饅頭本(追悼本)にも当たり外れがあって、実業家のものは外れが多い。ましてや、実業家の家族の追悼本となると私が買うことはまずないだろう。今回紹介する『藤井屋壽子』(藤井健次郎、昭和16年10月)は、迷ったが同志社の女性教員だったデントンが寄稿し、編輯者の熊川千代喜が京都人なので買ったと思う。300円。目次を挙げておく。 あらためて読んでみると、意外と役に立つ本であった。まず、夫の藤井彦四郎は近江商人で、滋賀県の旧邸は今は五個荘近江商人屋敷になっている。また、屋壽子は旅行好きだったということで、北海道、朝鮮、四国、南紀、伊勢、信濃、上高地の汽車・船による旅行のほか、東海道の自動車旅行が記録されてい…