■ 発症──演算は、終わっていた それは、唐突な発熱だった。 中杉3曹。体温38.7度。 味覚、なし。嗅覚、消失。 だがその沈黙の頭脳は、すでに演算を終えていた。 ──これは、“来た”ぞ。 翌朝、PCR陽性。即隔離。 中杉は迷わなかった。 入院記録、通院履歴、診断書、体温グラフ。 整備要領書をめくる手つきで、 それらを次々に整理し、提出した。 その手続きの速さは、 もはや病人の域を越えていた。 第一生命、明治生命、千代田生命。 医療保険、就労不能補償、傷病手当、特約見舞金── ──“あの日のパンフレットたち”が、 命を持った瞬間だった。 数週間後── 1億2,000万円。 “重迫最静音の男”が…