頭山満が支那へと渡る、玄洋社の志士五人を連れて――。 この一報に、 「ただでは済まない、何かが起こる」 朝野官民のべつなく、実に多くの日本人が同じ戦慄に苛まれ、神経過敏に陥った。 (Wikipediaより、頭山満) まあ、無理はない。 なにせ、時期が時期だった。 明治四十四年十二月下旬なのである。 清帝国の断末魔、辛亥革命進行の、真っ只中ではあるまいか。 誰がどう見ても数百年に一度の変事。トンネル長屋の日雇い人足だろうとも、道で拾った新聞片手に ――過渡期だな。 と、訳知り顔で物々しく頷いたに相違ない、漢民族の正念場。新たな秩序が展(ひら)けるか、それとも地獄の蓋が開いて混沌が溢れ返るかの瀬戸…