前作「悲の器」で法科系エリートを虚仮にした作家、今度は組合活動家を虚仮にする。という方向で読んだ。 特攻隊になったが一命を永らえた学生は機械工学の技術を得て、地元の機械製造会社の研究員となっている。欧米の高額な特許料を払うのも片腹痛いということで精密機器の開発に取り組んでいるが、最近はようとして成果が出ない。同学年だった会社社長からは労務管理の専門家として、役員にならないかと打診を受けている。でも男が頑としているのは、3000人の組合の委員長として、昨今の不況に対処しなければならないからである。彼は穏健派としてその地方都市の組合をゆるく結合するアソシエーションを模索していて、形になりつつある。…