このころ、熊野別当|湛増《たんぞう》は、 平家の重恩を受けていたが、 どこからこの令旨のことをもれ聞いたのか、 「新宮の十郎義盛は高倉宮の令旨を抱いて、 すでに謀叛を起さんとしている。 那智、新宮の者どもは、 定めし源氏の味方をするであろうが、 この湛増は平家のご恩を山より高く受けている身、 いかで謀叛にくみしえよう。 まず那智、新宮の者どもに矢一つ射かけて、 その後、都へことの詳細を報告することにしよう」 と、甲冑に身を固めた兵、 一千余人を引きつれて新宮の港へ向った。 新宮では、鳥居の法眼、高坊《たかぼう》の法眼、 武士には宇井、鈴木、水屋、亀甲《かめのこう》、 那智では執行法眼以下、 そ…