ビリー・ジョエル『ピアノ・マン』 *** ―Sing us a song, you’re the piano man, sing us a song tonight.― バーには古いアップライトピアノが置かれている。それはいちおう掃除されてあるのでホコリはかぶっていない。調律も定期的にされているし、ハンマーの寿命もまだだから、トーンはともかくとしてもピッチはちゃんと合う。 にもかかわらずこのピアノを弾くものは誰もいない。店内にはMacからつないだ上質のスピーカーを通して適度にエッジィなジャズが流れている。バーテンの女性はアイスピックを使って真剣な表情で氷を砕いている。ごろんとした正十二面体にす…