国文学者、新潟大学名誉教授。1947年秋田県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。1975年同大学院文学研究科修士課程修了。神奈川県立横浜翠嵐高等学校教諭、新潟大学教養部専任講師、1984年助教授、91年教授、94年人文学部教授、人文社会・教育科学系教授。2013年定年退任、名誉教授。日本文学、口誦文藝論専攻。
和田琢磨さんの「天正本『太平記』の節略本文をめぐる一考察」(「古典遺産」71号 2022/8)を読みました。天正本は、太平記諸本の中でも最も個性のある異本です(新日本古典文学全集所収)。従来、天正本の特徴を論じるに当たっては増補改訂を中心に検討されてきたが、全巻を通じて節略された部分もあり、それを黙過して正しい評価はできない、との視点から論じています。 和田さんは複数の章段が統合された巻39「諸大名降参上洛事」と、異なるストーリーを合流させようとした巻26「洛中変違幷田楽桟敷崩事」「大稲妻天狗未来事」を例に取って検討し、天正本には複雑な過程を節略して話の筋だけを語ろうとする傾向がある、と指摘し…
鈴木孝庸さんの①「平曲からみた木曽最期」(新潟大学「国語国文学会誌」57)、②「平曲における大音声について」(「古典遺産」71)を読みました。鈴木さんは実際に前田流平曲の語りを故橋本敏江さんから習い、この10月、師の七回忌に連続演誦一部平家(30日間連続、通しで平家物語全句を語る)を完遂したそうです。 ①は学校教育でもおなじみの「木曽最期」の構成を、文章と曲の両方から考えたもの。平曲では語り出し、語り終わりの曲節がほぼ決まっていて、それを考慮すると、もし「木曽最期」の句を前後に分けるなら、「手塚太郎討ち死にす。手塚別当落ちにけり」から後半としたい、という。またツレ平家で語る時は、後半は物語の主…
鈴木孝庸さんの「平曲における感情表現―登場人物の発声とその曲節ー」(新潟大学「人文科学研究」150)を読みました。軍記物語講座2『無常の鐘声―平家物語―』(花鳥社 2020)に書いた「平家語りー声による平家物語の解釈と表現―」の続考だそうです。 鈴木さんは平曲譜本の研究と共に、近世の譜本『平家正節』を通して平曲を伝える故橋本敏江さんの弟子として、全200句を習得、自ら語りながら平曲の本質を解き明かそうとしています(中世にまで遡る概念としては「平家語り」という用語を使うのが、最近の研究動向。鈴木さんは現行の平曲から室町まではおよそ遡れる、としていますが、鎌倉期については今後の課題と考えているらし…