短編小説に与えられる今年の川端康成賞が滝口悠生の「反対方向行き」に決まった。今はもうこの世にはいない祖父・竹春の家がある宇都宮に向かうために、渋谷駅から湘南新宿ラインに乗り込んだ三〇代の女性・なつめ。しかしその電車の行き先は反対方向の小田原で、途中で間違いに気づいたなつめは、それでも降りようとせず、南へと進むに身を任せる。その間、彼女の脳裏には竹春をはじめとする家族とのあれこれの記憶が甦ってくるのだった。 ということでこの作品は、二〇一三年に雑誌「新潮」に発表され、最初の作品集の表題作となった「寝相」の続編なのである。「寝相」は二十七歳のなつめが、宇都宮の自宅でボヤ騒ぎを起こした竹春を引き取る…