2017年8月号掲載 毎日新聞夕刊報道グループ記者(当時)/藤原章生 1991年春から1年間、北アルプスの麓に住んだ。安曇野の奥、大町市という街で、私は30歳だった。 当時は年齢のことなど意識していない。30歳になったんだから、といった考えはなかった。それを言えば、40歳のときも、50歳のときも、そして56歳の今もないに等しいが、若いころはなおさらない。 しかし、家族、周囲の人間との関係については、初めてというか、妙に意識した年だった。柄に似合わず、責任なんてことも考えた。そして、その分、自分で自分を縛り、人間が小さくなった。30歳はそういう年だった。 大町に住んだのは偶然だ。その2年前、私は…