道頓堀の喧騒の中に、時間だけが取り残されたような一軒がある。川面は夕方の光を受けてゆるやかに揺れ、そのすぐ脇で人とネオンが絶えず流れていく。その流れから、ほんの数歩外れた場所。 日本橋の芝居裏通りに暖簾を掲げる「たこ梅」である。 通りを歩いていると、ふと空気が変わる。賑やかな看板の列の中に、木の色だけで勝負している店構えが現れる。瓦屋根、格子戸、そして深い色の暖簾。赤い提灯が、ほんの少しだけ揺れている。その前まで来ると、開店直前の店先から、関東煮の美味しそうな匂いがふわりと鼻をくすぐる。急いでいたはずなのに、その香りだけで足が止まる。ここから先は、胃袋だけではなく、時間の感覚まで店に引き込まれ…