周りのことなどお構いなくスマホの画面を一心不乱に見つめる人々の目には、道端に咲く花の可憐さも夜空に浮かぶ月の輝きも映るはずはなく、いずれは「情緒」という言葉も死語になる日が来るのではないか。最近はふと、そんなことを考える 本作はまさにその「情緒」で彩られたような作品だ。デュラスの書いた原作は未読のため単純に比較は出来ないが、他者との共同で彼女が脚本を担っているので全体の雰囲気は(小説に)近いと想像される フランス南西部、海沿いの街。製鉄所経営者の夫とアンヌの関係は冷え切っており、息子ピエールだけが彼女の希望だった。ある日、ピエールが通うピアノ教室そばのカフェで痴情絡みの殺人事件が起こり、犯行直…