その冬、幾度か寝たきりの父の見舞いをした。 母の死以後、ふいっと人生を投げだしたように突然の認知症から身体の老化の同時進行、すべての彼の生命の力が急激に衰えて意識も失い、病院に入ったのだ。 ただ点滴で生き延びている。ベッドの上でぼんやりと水面下をおぼろに浮き沈む意識による表情。 私はしきりに春樹の「1Q84」、さまざまな桎梏を抱えたまま、NHK集金人の父の最後を見舞う天吾の気持ちのことを考えていた。私と父との関係性について、家族についてさまざまを思い出していた。 *** *** そして間もなく訪れた。予想はしていたものの、あまりにも思いがけなく早かった父の死の日である。母の死からわずか一か月だ…