1937年福岡県に生まれる。福岡教育大学卒業。詩人。 62年上京し、学芸の諸先輩に学ぶ。詩、短歌、俳句、能、狂言、浄瑠璃、オペラ台本など、ジャンルを超えて創作活動をつづける。近年は古典の尖鋭な読みなおしで注目される。詩集『王国の構造』で島崎藤村記念歴程賞、詩集『兎の庭』で高見順賞、句歌集『稽古飲食』で読売文学賞を受賞。2000年度紫綬褒章受章。
陰暦十一月初四。気温5.0/17.5度。快晴。 市中にもコロナ以前のやうな人出でやつと戻つてきたやう。市街中心部のMスポなる施設で何だかスポーツイベントあり朝から子ども連れの家族がずいぶんと集まつてゐた。 日本学術会議の哲学委員会(芸術と文化環境分科会)の主催によるシンポジウム〈芸術としての風土〉が昨日から開催されてゐて本日の午後に詩人の高橋睦郎さんと村上湛君の対談『芸と老い』あり。この二人ならお話はさぞや面白いがお誘ひいたゞいてもさっと上洛といふわけにはいかなかつたがオンライン(Zoom)視聴もあり。それを見させていたゞく。 (京都大学)公開シンポジウム 「芸術としての風土」 | 日本哲学史…
高橋睦郎 高橋睦郎 (就職したのが1962年で、職場の近所の歌舞伎座幕見へ通ったことについて) だから暇を盗んでは、幕見を利用して歌舞伎を観ていたんです。当時の幕見は確か五十円、いちばん安い昼定食が百三十円のときにですよ。あれは本当にありがたかった。 (「百点対談 名優に捧げる句」『銀座百店』2022年4月 №809)
人物像 高橋睦郎 人物像 高橋睦郎 あれだけ愛嬌を持っている人はいませんでした。当たり役はいろいろあるけど、ぼくは、十八代目の女方が好きなんです。 (山川静夫 おもしろい見方ですね。) 本当に女を愛してきた人だから、心から女になりきれたんじゃないのかな。『夏祭浪花鑑』のお辰なんて十八代目を超える人はなかなか出ないでしょうね。「もし三婦さん、立ててくだしゃんしぇ」なんてね。 (「百点対談 名優に捧げる句」『銀座百店』2022年4月 №809)
人物像 高橋睦郎 人物像 高橋睦郎 徳三郎はぼくが台本を担当し、蜷川幸雄が演出した舞台『王女メディア』で、一時期主役をやってくれたんです。彼もやっぱり色気のある役者でねえ。十三世仁左衛門の仁左衛門歌舞伎で鍛えられ、歌舞伎以外でも活躍したのは、実力と芝居心があったんでしょうね。『王女メディア』をやりたいと、ぼくのところへ挨拶にこられたときに演じてみせてくれたんですが、役の決定以前にもかかわらずセリフが全部入っていて、すごい迫力でした。 (山川静夫 評判を取りましたね。) その役を失ったうえに病気になるなど、不遇な目に遭っての壮絶な最期でしたが、高潔で立派で、やはり忘れられない名優です。 (「百点…
人物像 高橋睦郎 人物像 高橋睦郎 立役では辰之助(尾上辰之助)が忘れられません。あんなに男の色気のある人って見たことがないんですよ。亡くなる直前に雀右衛門が会わせてくれて、あまりの色気に驚いて。会ったあと雀右衛門に「いやあ、あの人とだったら寝ることができるかもしれない」といってしまったくらい(笑)。 (山川静夫 ほれこみぶりがよくわかりますね(笑)。彼は色気もあるし芸も巧みで、玄人好みというか、高橋さんも含め目利きの人に好かれました。最後に辰之助の劇場中継を担当したのは『暗闇の丑松』。すばらしい出来でした。) 咲きかけて俄かに寒き昨日今日 たった四十歳で散ってしまった辰之助に手向けた句です。…
人物像 高橋睦郎 人物像 高橋睦郎 山川静夫 その歌右衛門のことを尊敬していたのが、四代目雀右衛門です。歌右衛門とは三歳しか違わず同世代といってもいいのに、雀右衛門はつねに謙虚で歌右衛門を尊敬し、指導を受けていました」 高橋睦郎 なにしろ尊敬し続けていましたね。雀右衛門にはかわいがってもらって、ずいぶんお酒も飲んだんです。酔っ払わせて歌右衛門の悪口をいわせようとするんだけど、どんなに酔ってもいわないの「あなたね、わたしがなんとかやれてるのもお兄さんがいらしたからなんだよ」って感じでねぇ。苦労したぶん、本当に優しい人でした。だから歌右衛門も自分の代役ってほとんど雀右衛門に頼むんです。朝早く電話が…
人物像 高橋睦郎 山川静夫 人物像 高橋睦郎 中曽根首相招待の会での、歌右衛門のあいさつを思い出します。(歌右衛門の声色で)「みなさん、最近はこの歌舞伎の若い方々もたいへんおえらくおなりになって、昔はちゃんと先輩方に習いに行ったんでございますけれども、最近はね、あなた、ビデオという便利なもので練習をなさるんでございますよ。でも、みなさま、やはり芸というものは手に手、足には足というふうに教わって覚えるものではございませんかしらね、ま、場違いに悠長な話をたいへんに失礼いたしました」 と声色混じりに回想している。 それに歌右衛門はお客さんというものを差別しない、どんな人が観に来ても、毎回とても丁寧に…
久しぶりに引っ張り出して読んでみる。 高橋睦郎の詩に出会ったのは、高校生の頃に読んでいた「ユリイカ」だったはずだ。 或いは、澁澤龍彦経由だろうか。 ともあれ、その世界に引き込まれたのだと思う。 十代後半に詩集を読んでいる男なんて、甚だしい時代錯誤か、薄気味の悪い童貞男だと思っても構わない、と自虐的に思うが、それをも確信犯的に詩集を読み漁っていた。 つまり、寺山修司の言う「歌の別れ」ではないけれど、詩を読むのは今だけなんだろうという気がどこかでしていた。 いつか詩歌を読まなくなり、小説も読まなくなり、本から離れて、平凡な日々の生活に埋没して行くのだろうという予感と願望があったのだと思う。 本を読…