見なければよかったと思った時には既に目に入っていたわけで時既に遅く、三郎太は立派に伸びた角を握って、頸をすっぱりと切られた牡鹿の頭部を持ち上げた。重い上に臭う、が仕方ない。札は貼っていなかったが、この時期路上にある鹿の頭はまず間違いなく美津雄社行きの献物と決まっている。そして三郎太は今から三日ほどかけて美津雄の御神域のほど近くにある村落に向かうつもりだったので、黒々とした目に未だ光を宿すように見えるこの頭を社にまでお運びするのは彼の役目となる。見つけてしまったんだから役目は負う。古くからの決めごとに疑問はないが、何も今回でなくてもよかったろうにというのが三郎太の本音だ。左手で角を持って肩越しに…