私が監訳者として関わった劉美蓮『音楽と戦争のロンド―台湾・日本・中国のはざまで奮闘した音楽家・江文也の生涯』がこのたび集広舎より刊行されることとなった。同書では、台湾出身の作曲家・江文也が厦門、日本、中国と越境し、優れた作品を残していく有様が概ね時代順に描かれていく。ここでは同書の出版に合わせて、江文也のもう一つの魅力、すなわち歌手としての側面に焦点を当てたい。レイアウトの都合上、江文也ディスコグラフィは本記事の末尾に掲載した。適宜参照されたい。 1932~3年の歌手としての録音 文末に付したディスコグラフィからもわかるように、江文也はまず歌手として楽壇に登場した。一般的には、彼の最初の録音は…