靴を作りたいんですと、 10年前に現れた青年が、今ここに立っている。 あの時の記憶を精一杯、手繰り寄せながら、 薄ぼんやりと甦りつつある残像に、懐かしさが込み上げてくる。 あの時。 青年は靴作家になりたいと、悶々としていた。 私は有名になりたいと、ギラギラしていた。 あれから、いくらか少し時間が流れ、 彼は革作家となり、私はまだ靴作りを続けている。 革作家として得た利益で 森田さんの靴をオーダーすると決めてましたと彼。 続けて。 それまでは会わずにいようと思っていたら、 10年もかかってしまいました、とも。 はにかみながら頭を掻くその仕草。 それとは裏腹な、目の奥の強い眼差しが、 10年前に私…