『Yの悲劇』(1932年)は今読まれているのだろうか。 『Yの悲劇』といえば、本格ミステリの最高峰として知られてきた。日本では常にベスト10、ベスト100の上位を占め、あまりの根強い人気に「いつまでも『Yの悲劇』でもないだろう」、という声も多かったように思う。 そうした意見は、ハードボイルド・ミステリのファンのように本格ミステリを好まない人達からだけではなく、本格愛好者からもしばしば出されていた。 代表的なのは、瀬戸川猛資の「そんなに傑作ですか?――『Yの悲劇』」[i]というエッセイだろう。もともとクイーン・ファンである同氏ならではの分析で、『Y』のもっとも評価されている(と思われる)犯人の意…