「それで、この計画全体というか、このシステムには何か名前は付いていないんですか?」と頼子は自分もだいぶこのプランを面白がっているなと思いながら、たずねた。 「ぼくはもう決めています。このシステムに、あるいはこれを管理するコンピューターに、付けるべき名前は一つしかありません。つまりですね、ひたすら、かぎりなく、話が出てくる魔法の箱に名があるとしたら、ふさわしい名は一つしかない。すなわち『シェヘラザード』です」と門田は言って、いささか得意そうに二人の顔を見た。 池澤夏樹『真昼のプリニウス』 2020年の前半はひたすらNetflixを見続けていた。2019年末にはまだ対岸の火事のように扱われていたコ…