(本書の主題やトリック等を明かしています。) ジョン・ディクスン・カー最後の長編小説『血に飢えた悪鬼』は1972年に刊行された。ちょうど50年前のことだ。翻訳出版は1980年[i]。すでにカーは亡くなっていた。一年先輩のエラリイ・クイーンの最終作が1971年の『心地よく秘密めいた場所』[ii]なので、両者とも43年間の作家生活だったことになる。年齢も一歳違いなので、どちらの作も66歳になる年の長編。どこまでも気が合う二人、いや三人だったようだ。 もっとも、クイーンが時代の変化に敏感で、作風を次第に変えていったのとは対照的に、カーは、歴史ミステリのようなスタイルの変化はあっても、むしろ変わらなか…