井上達夫『共生の作法-会話としての正義-』(10) 今回は、第2章 エゴイズム 第2節 形式的正義の「内容」の続きである。 正義の理念を定式化する最も有名な命題は「等しきものは等しく、不等なるものは不等に扱わるべし」である。この命題は、何が等しく何が不等なのかについて何も述べていない。その意味で形式的である。しかしこの形式性の故にこそ、それはあらゆる正義観・正義感覚を包摂する正義理念の表明たり得るのである。 「等しきものは等しく、不等なるものは不等に扱わるべし」を、ここでは「正義の命題」と呼ぼう。これは何について述べている命題なのかわからないので、これだけでは「実践的な指針」となり得ない。ある…