「ジャンゴ 繋がれざる者」

一条真也です。
映画「ジャンゴ 繋がれざる者」を観ました。
鬼才クエンティン・タランティーノの最新作にして最大のヒット作となりましたが、いやあ、ムチャクチャ面白かったです! 先日授賞式が行われた第85回アカデミー賞では脚本賞助演男優賞を受賞しました。


じつは、タランティーノの名前はT.M.Revolutionの「WHITE BREATH」の歌詞で初めて知りました。1997年の歌ですが、「タランティーノぐらいレンタルしとかなきゃなんて、殴られた記憶もロクにないくせに♪」というやつです。「タランティーノって何だ?」と思って調べたところ、当時のアメリカで最もクールとされていた映画監督でした。早速、わたしは「レザボア・ドッグス」(1992年)、「パルプ・フィクション」(94年)、「ジャッキー・ブラウン」(97年)などのビデオソフトを求めて、一晩で一気に観ました。



非常に暴力的でありながらも奇抜な娯楽作品という印象でしたね。
その後はしばらく作品を発表しませんでしたが、久々の「キル・ビルvol.1」(2003年)、それから「キル・ビルvol.2」(04年)は楽しく観賞しました。寡作な監督ですが、その後も「デス・プルーフ in グラインドハウス」(07年)、「イングロリアス・バスターズ」(09年)などを発表していますが、わたしは観ていません。そして、2012年に「ジャンゴ 繋がれざる者」が大ヒットしたわけです。



骨太のアクション大作である「ジャンゴ 繋がれざる者」の舞台は、1858年のアメリカ南部です。南北戦争が起こる2年前、奴隷ジャンゴは、テキサスの森で出会った賞金稼ぎのドイツ人歯科医キング・シュルツの手によって自由の身となります。2人は協力して、次々とお尋ね者たちを取り押さえ、多額の賞金を手にします。ジャンゴは奴隷市場で離れ離れとなった妻を捜すことを決意しますが、サウスキャロライナの農園領主カルヴィン・キャンディのところに妻がいることを突き止めます。ジャンゴとシュルツはキャンディ農園を訪れますが、そこにはカルヴィンに付き従う凶悪な黒人執事スティーブンが彼らを待ち受けていました。果たして、ジャンゴは愛する妻と再会し、奪回できるのでしょうか?



主役のジャンゴをジェイミー・フォックス、ジャンゴの恩人であるキング・シュルツをクリストフ・ヴァルツ、黒人執事スティーブンをサミュエル・L・ジャクソンが演じており、まさに個性と実力を兼ね備えた俳優たちの豪華共演です。このキャスティングの過程について、タランティーノはインタビューで次のように語っています。
「キング・シュルツはクリストフ・ヴァルツを、スティーブンはサミュエル・L・ジャクソンを想定して書いた。カルヴィン・キャンディとジャンゴは、特に誰もイメージしていなかった。脚本を完成させた後、これらのキャラクターがどこに向かっていくのか、とても楽しみだったね。その後、ジェイミー・フォックスが脚本をすごく気に入ってくれて、彼と会って話をしたんだ。会った直後、『ジェイミーがジャンゴだ!』って確信したよ。ほかにも何人かの俳優に会ったけど、ジェイミーだけが本物のカウボーイだった。彼はテキサス出身で、馬も飼っている。この映画には彼の愛馬が登場するんだ(笑)。本物のカウボーイを探していたから、まさに彼が適役だったんだよ」



また、カルヴィン・キャンディを演じるレオナルド・ディカプリオが本作で初めてとなる悪役に挑んでいるのも見所です。
これもインタビューの中で、タランティーノが次のように語っています。
「実は最初の脚本では、レオナルドが演じたカルヴィン・キャンディの年齢は、もっと上だったんだ。でも、彼がこの作品に興味を持ち、キャンディを演じたいと言ってくれてね。これは面白いアイデアだと思った。彼の出演はまったく想定していなかったから。その後、レオナルドと会って濃密でクールな話し合いができた。でも、当初考えていたキャンディと彼ではかなり違いがあったから、キャラクターを少し改良することにした。最初、キャンディは『邪悪な王国の邪悪な王様』を想定していたんだけど、もっと年齢を若くして、アパッチ族の白人酋長というか、ルイ14世カリギュラみたいな『暴君』にするアイデアを思い付いたんだ。これで、レオナルドの年齢に近い、若いキャンディを生み出すことができた」
このディカプリオの暴君役が最高でした。その鬼気迫る演技力は、並みいる曲者俳優たちにまったく負けていません。未だにオスカーとは縁がなく無冠の帝王ですが、ディカプリオは本当に良い役者になりました。彼らが放つ人間関係の緊迫感、驚きのストーリー展開の連続で、とにかく度肝を抜かれました。



「これでもか」という過剰な演出には思わずニヤリとしてしまいますが、ラストシーンなどは「ここまでやるか!」と言いたくなるほどのサービスぶり。もう、究極のカタルシス映画というか、少々のストレスなど一発で吹っ飛んでしまいます。
映画評論家の芝山幹郎氏が「タランティーノは、もともと面白い話を語れる人だ。音楽のような台詞を紡ぎ、細部を濃厚に練り、癖のある登場人物を躍動させる才に長けている。のみならず、映画史とトリビアを味方につけた強力な武装が加わる。タランティーノは、さまざまな映画からパイプやチューブを通じて養分を吸い取り、無敵の度胸でその養分をリミックスしてみせる。そして見よ、映画が完成された瞬間、彼はもはやパイプやチューブから解き放たれている。『ジャンゴ』は死ぬほど痛烈で、悪魔的におかしな映画だ」と「映画.com」に書いていますが、まったく同感です。特に、「悪魔的におかしな映画」とは至言ですね。


「ジャンゴ」を観て、タランティーノがいかに西部劇を愛しているかがよくわかりました。特にマカロニ・ウエスタンをこよなく愛するそうで、一番好きな作品はクリント・イーストウッド主演の「続・夕陽のガンマン/地獄の決斗」だとか。
この映画の原題は、“The Good,the Bad and the Ugly”です。
その他にも、「明日に向って撃て!」と「怒りの荒野」、それから「馬と呼ばれた男」などを子ども時代に観てハマったそうです。



マカロニ・ウェスタンとはイタリア製西部劇のことで、1960年代から70年代前半に多くの作品が作られました。もともとアメリカ・イギリス・そしてイタリアでは「スパゲッティ・ウェスタン」と呼ばれていました。しかし、日本にセルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」が輸入された際、映画評論家の淀川長治が「マカロニ」と呼び変えたのです。これには「スパゲッティでは細くて貧弱そうだ」と「中身がない」という2つの意味が込められているとか。いずれにしても、「マカロニ・ウェスタン」という言葉は日本人による造語であるため、他国では通用しません。


マカロニ・ウェスタンの代表作といえば、イーストウッド出世作となったセルジオ・レオーネ監督の「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・夕陽のガンマン」の“ドル3部作”が有名です。それらとともに有名な作品が「続・荒野の用心棒」という1966年のイタリア映画です。監督のセルジオ・コルブッチ、主演のフランコ・ネロの2人にとっての出世作であり、棺桶を引くガンマンが登場します。
この作品の原題は“DJANGO(ジャンゴ)”といいます。そう、タランティーノの「ジャンゴ」は、この映画へのオマージュとなっているのです。映画の冒頭では、元祖ジャンゴの主題歌「さすらいのジャンゴ」がいきなり流れて、昔からの映画ファンを狂喜させました。この主題歌、ものすごくインパクトが強くて、一気に映画の世界へ観客を引き込んでくれます。ブログ「ザ・マスター」で紹介した作品は開始早々に猛烈な睡魔に襲われましたが、同じ映画でもえらい違いですな。



「続・荒野の用心棒」は1966年のイタリア映画で、監督のセルジオ・コルブッチ、主演フランコ・ネロの2人にとっての出世作です。「続・荒野の用心棒」となっていますが、黒澤明の「用心棒」を翻案したレオーネの「荒野の用心棒」の続編ではありません。あくまで配給会社によって付けられた邦題です。
この「続・荒野の用心棒」は、リンチのシーンなどの残酷な描写(各国で上映禁止、あるいは年齢制限がなされました)やダーティな映像、さらにはリアリティを度外視した演出で知られます。これらは、後に作られた多くのマカロニ・ウエスタン作品において、ひとつのスタイルとして受け継がれていきました。


さて、タランティーノの「ジャンゴ」で最も感心したのは、「黒人奴隷制度」という非常にデリケートな問題をエンターテインメント超大作のテーマに選んだことです。わたしは昔、テレビドラマの「ルーツ」を観て心を痛めたことを思い出しました。クンタ・キンテとかチキン・ジョージといった名前まで記憶の彼方からよみがえってきました。この「ジャンゴ」の中にも奴隷たちの悲惨な状況や残酷な拷問描写などもしっかり登場するのですが、それでも娯楽映画としてまとまっているのです。


思えば、わたしが映画好きになったきっかけの作品である「風と共に去りぬ」も黒人奴隷の問題を扱いながらも、不朽の名作としての地位を確立しています。もうすぐ、スティーヴン・スピルバーグの「リンカーン」が公開されます。これはもう南北戦争、そして黒人奴隷問題がメインテーマだと言えます。
リンカーン」観賞の予習というか、アメリカの黒歴史の描き方を見比べるという意味でも、「ジャンゴ」を観ておいて良かったと思いました。
タランティーノVSスピルバーグの大一番、ワクワクします!



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2013年4月7日 一条真也