創発(emergence)
部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、全体として現れること。
局所的な複数の相互作用がさらに組織化することで、大域的に個別の要素の振る舞いを凌駕するようなシステムが構成される。
創発に至る過程は微視的にはあくまでも決定論的、かつ機械論的に了解可能な過程で、そこにベルクソンの「生命の飛躍」のような神秘的で了解不能な飛躍、不連続が存在するわけではない。但し、微視的な観察が困難であるケースが少なからず存在するため、現実的には完璧な予測が困難になる。
主に自然科学の複雑系の理論の概念だが、非常に多岐にわたる分野で使用される。ニューサイエンス的なマジック・ワードとして本来の意味を離れて、修辞的な効果を伴って使われる場合も多い*1。
局所的な相互作用を持つ、もしくは自律的な要素が多数集まることによって、その総和とは質的に異なる高度で複雑な秩序やシステムが生じる現象のこと。所与の条件からの予測や意図、計画を超えた構造変化や創造が誘発されるという意味で「創発」と呼ばれる。
生命は創発現象の塊である。例えば脳は、ひとつひとつの神経細胞は比較的単純な振る舞いをしていることが分かってきているが、そのことからいまだに脳全体が持つ知能を理解するには至っていない。また進化論では、突然変異や交叉による遺伝子の組み合わせによって思いもよらぬ能力を獲得することがある。進化論においては個々の個体による相互作用のほかに、環境との相互作用という側面も加わっている。創発の定義において、このような非対称な要素を認める場合もある。
組織をマネジメントする立場からは、組織を構成する個人の間で創発現象を誘発できるよう、環境を整えることが重要とされる。一般的に、個人が単独で存在するのではなく適切にコミュニケーションを行うことによって個々人の能力を組み合わせ、創造的な成果を生み出すことが出来ると考えられている。
コンピュータサイエンスの分野では、人工的に創発現象をシミュレーションすることが研究されている。代表的な例は、ニューラルネットワーク、遺伝的アルゴリズム、群知能などである。また近年、Web全体を活発な相互作用が行われる創発システムとして捉えなおす動きがある。
*1:物理学の分野では、理論系の物理学者が好んで用いる傾向がある。実験系の物理学者が使うことは稀である。