赤福論。


赤福餅というお菓子がある。
僕の友達で、どこに旅行に行っても必ず赤福餅を買ってくるという奴もいるが、
そういうキチガイが周りにいない方でも、一度は食べたことがあるお菓子だと思う。
歴史もあり、創業以来変わらぬ味を守り続けている素晴らしいお菓子だ。


そんな赤福餅だが、この際はっきり言わせてもらうと、
明らかに"あん"と餅のバランスがよろしくない。
本当に微妙な差だが、餅の量に対してほんの少しあんが多い。
しかしながら食べ始めてみると、おかしいなぁと思いながらもなぜか二個三個と食べてしまう。


これはなぜか。
過剰とも思えるほどの企業努力を求められるこの時代に、
株式会社赤福はなぜ頑なにこのバランスを続けるのか。
そしてこのあんと餅のバランスを固持しながらも、
なぜ今日も株式会社赤福赤福餅を売り続けることができるのか。


同じように有名なお土産お菓子として、京都の生八つ橋がある。
ニッキの入ったしっとりとやわらかい生地であんを包んだお菓子だ。
こちらも大変おいしく、お土産もの業界でも赤福と並ぶ人気商品だ。
生八つ橋のあんとガワのバランスについては、僕はもう何も言うことがない。
これぞ絶妙だ、とすら思う。
それに加えバリエーションに富んだ味のものも発売されており、
ノーマル味(ニッキ皮/あん)・抹茶味・いちご味・バナナ味など、
何かここまでされるとこちらも何かしてあげなくてはいけないのではないか、という気にすらなってくる。
そしてこの時期京都は清水寺周辺の門前町をぶらつけば、秋季限定の生八つ橋(栗・さつまいも)にも出会えるだろう。
もうそんなにせんでもええやんかと言いたくなるくらいのサービス精神だ。
この味のバリエーションに加え、
極めつけには「生八つ橋のかわ」という商品がある。
これは読んで字のごとく生八つ橋の皮だけを販売しているのである。
消費者の声をくみ取って凄まじい企業努力をしたものだ。
『待望の皮だけ発売!!もう味で悩む必要はありません!!!』
なんてコピーも目に浮かぶ。


話を赤福に戻そう。


一方でここまで味の追求を行うお土産お菓子があるのに、赤福は動じない。
老舗の自信、はたまたおごりか。
単純に赤福餅の味の向上を望むなら、この現在のバランスはもう既に淘汰されているべきだ。
でも現実は違う。
ひとつ口に入れるたびに思う。
「もうちょっと餅大きくしてくれんか」と。
「もうちょっとあん少なくしてくれんか」と。


そこで僕はひとつの結論に達した。
この結論こそが真理だと思う。



"赤福餅は完成してはいけない"



もう一度言おう。



赤福餅は決して完成してはいけない。



赤福餅のバランスの改善、それは消費者の満足感につながる。
つまり大変にバランスのいい赤福餅をひとつ食べてしまうと、そこで消費者の手は止まるのだ。
二個三個と進むはずがない。
ひとつ口に運ぶたびに、
「ああああもうなんか違うねんこの感じもう少しやねんもう少し餅大きくしてッほんまに堪忍してッ」
と思い続けることによって僕たちの手は止まらなくなる。
そして最終的には「赤福餅小折箱(8個入)700円」をぺろっと平らげてしまうのだ。
頭の中がクエスチョンマークで満たされているこの状態には、理性というものは通用しない。
あと一時間で夕ご飯の時間なのに、とか、
さっきご飯食べたばっかりなのに、などという思いを超越する。
食べ始めたが最後、小折箱を食べきるまでまともな思考はできないのだ。


ここまで話せばもうおわかりかと思う。


そう、赤福餅にとっての最高の企業努力とは"完成させないこと"なのだ。
株式会社赤福は、創業当初よりこの超心理状態を呼び起こすバランスを計算し尽くしていたのだ。



古より連綿と受け継がれてきたこの赤福の秘密。
そのトップシークレットを今こうやって君に伝えることにいささか抵抗を感じる。
僕はとんでもない怪物を敵に回してしまったのではないか。
僕のすぐ背後でとてつもなく大きな力が渦巻いているのを感じる。


ははは。
おかしいだろう?
この僕が震えているんだぜ?




という話を友人に一時間強せつせつと話した。



友「そんなに思うんやったら赤福に問い合わせてみいや」


坊「お前は馬鹿かッ!
  そんなことしてみい。
 『お客様、そういういったことは決してございません。弊社は創業以来の味を守り続けることによって.....』
  なんて当たり障りのないこと言われてお茶を濁されるんがオチや。赤福だけにな。
  ほんで安心しきった二三日後、いやもしかしたら一年後かも知れん。
  兎に角こっちが赤福の話なんかすっかり忘れた頃に玄関のチャイムが『ピンポーン』や。
  玄関ドアののぞき穴から覗いてみると、
  赤福のCMの三度笠かぶったあのキャラクター*1が立ってる。
  それが俺の最後の記憶になるんや。」


友「キチガイ




食欲の秋ですね。



◆追記 その1
誤解があるといけないので一応断っておきますが、
株式会社赤福並びに赤福餅のことを悪く言っているつもりは毛頭ありません。
むしろ赤福餅がすごく好きです。
赤福餅の中に住みたいぐらい好きです。
僕に息子ができたならば、間違いなく赤太郎と命名します。
ごめん。それはない。
でも僕が赤福を見つめる姿は、明らかに我が子を見つめるそれと同じです。

揉み手リンク: 伊勢名物 赤福 http://www.akafuku.com/
◆追記 その2
調べてみたら「生八つ橋の皮」こそが生八つ橋で、
僕の言ってるあんが入った生八つ橋は「聖」というものらしいです。
だので皮だけの方が先に発売されていたくさいです。
詳しい話をご存じの方是非教えてください。

揉み手リンク: 聖護院八つ橋総本店 http://www.shogoin.co.jp/

*1:赤太郎と言うらしい。オフィシャルに詳しいプロフィールが載ってた。
◆赤太郎 http://www.akafuku.com/a_koto_akataro.htm