水の上にパンを投げろ

id:kagakaoruさんがこんなことをはてなブックマークでコメントしておられました。

kagakaoru 英語 ホッテントリーにとんでけ〜/2009、2010は英語をがんばろうと思ってるので励まし合っていきたいもんです。戦略がまとまったら記事書こうかな。。。

はてなブックマーク - kagakaoruのブックマーク / 2009年1月15日

まとまってなくても書いていいんじゃないかな?

まず書くことで、より考えをまとめやすくなる、という側面があります。頭の中で考えているのと、文字に定着させて言語化していくのでは、少し違うようです。文字にしたほうが、思考の細部と全体の両方に渡って、追いやすいように思います。また書いて言葉にしていくところで、どこが漠然としていてどこがすでに動かしがたく決まっているのか、ということが見えてきます。

次に、書きあげることで、自分では気がつかない点が多くみえてくる、ことがあります。まず少し時間をおいて見直すことで、冷静にみることができる(場合があります)。そうして他の方の指摘があると、より違った面から、その問題を考えることができます。上のコメントがついたid:rhbさんのエントリはてな読みは、そういうエントリですね。はてなブックマークのやりとりのなかで、ご自分の勉強法を再考されていく。よいフィードバック・ループが出来上がっているのが分かります(rhbさんのエントリでは、私の過去のエントリにも言及していただいています。こういう読み方がされるのだな、というのを丁寧に教えていただけるのは嬉しいですし、またrhbさんが渉猟されている書籍の情報はわたしにも勉強になっています)。

少し話が飛びますが、ウェブ上にコンテンツを出す場合は、自分でもブックマークするのをお勧めします。「セルクマ」ですね。自己顕示的で潔癖な方は嫌がるのかもしれませんが、書いたものの分類がしやすいですし*1、いろいろなかたのコメントをチェックするのに便利です。さらに、はてなブックマークなどの類似コンテンツ紹介機能からは、未見のドキュメントを知ることができる場合も多くあります。はてなブックマークの場合、つけられたタグから推薦コンテンツを決めているようですね。ですのでタグを多くつけていただけた場合には、何度か推薦の傾向が変わります。多いときにはのべで20以上のウェブコンテンツが推薦されてきます。もっとも自分が多く扱う話題のときには自分のものがその分多く推薦されてはきますが。

ここまでは自分にとっての利益の話ですが、コメントが集まるということは他の方の物を考えるよすがになったということでもあります。なので、自分だけが益を受けているわけではありません――と希望します(弱気)。拙く思えても自分の考えを出してみることで、だれか他の人がものを考える機縁になるかもしれません。そうして未完かどうか、まとまっているかどうかの判断は案外自分と他人で違うことも多いのです。そうした他の方のコメントが、自分にとってさらにその問題を考える契機になりうる、ということは既に述べました。古書にもいいます「汝の糧食を水の上に投げよ、多くの日の後に汝ふたたび之を得ん」*2。このことばはブログや論文などの場合にも当てはまるのじゃないかな、と思っています。自分の考えを密かに暖めるよりは、可能な限り他の人と共有できる形にしたほうが誰にとってもよい、のだと思います――その考えや知識が誰かを損なうようなものでない限りは。

なので、kagakaoruさんにも、書いてみたいと思ったそのときに出してみることをお勧めしたいと思います。ていうか私が読みたいのですけども。まとまるまで、といっているとなかなか書く機会が得られなかったりしますので、タイトルだけでもメモしていつも見える場所においておくのがよいのじゃないかな。また骨格を書き付けておくだけでも、だいぶん違ってきますよ。もちろんある程度まとまった時点で、他の方からも見えるところにおくのが一番よいとは思いますが。

えらそうにいってますが、実はこれ自分ではずっと出来なくて、友達に「いいから書きなさい」「完璧主義よくない」とここ十数年来ずーっと怒られて現在に至ります。最近は呆れられたのか、生きていればいいという感じで誰も何もいわなくなってきましたが。いやあ、いつも本をいただいているばかりで申し訳ないです(献本された本を全部きちんと書評する人は本当にえらいと思います)。それはおいて、どうも思うに、書いて発表するのが、フィードバックを集める上では一番効率がよいようです。学者が金策に苦労してもやはり書籍を出したがる理由のひとつはここにあるのでしょう*3。そして、いまどきでは、職業的にものを書く方でない場合でも、ブログやウェブサイトという公開の場をもつことができます。そこでも一定の読者が得られるわけなので、これは大胆にどんどんと考えるところを露にしていくのがいいのではないかと、思います*4

追記:kagakaoruさんが、おねだりした英語学習法のエントリを公開された。http://d.hatena.ne.jp/kagakaoru/20090118/1232269455細部には異論もあるが、自身の能力と関心と方法を反省的に考察した、よいエントリだと思う。

*1:とくに複数の場にコンテンツを出している場合には。

*2:「伝道の書」日本聖書協会・文語訳。句読点は引用者による。

*3:一番の理由は単著は業績として評価されやすいので、だろうけれども。

*4:理想をいえば、学者も自分の著作をウェブで公開するのがよいと思う。ローレンス・レッシグなどはそうしていますよね。