光の場、電子の海:量子場理論への道 吉田伸夫著

まだ途中までしか読めないでいますが、これは名著だと思います。

昔、実は物理学部にいたのですが(学部だけです)、今回の南部さん、小林さん、益川さんのノーベル賞受賞の内容がさっぱり分からないので、ひさしぶりに物理を勉強してみようと思ったのですが、いや待て、もう少し基礎をちゃんと勉強したいな、と思ってこの本を図書館から借りてきました。
内容は簡単ではありませんが、「分かっている人が書いている」という感触を記述のはしばしから受けます。もっと早く、こういうことを誰か教えてくれたら物理学を諦めなかったかも、とちょっと思いました。


たとえば

こうした議論を通じて、ボーアは、自分の理論とプランクの量子仮説との間にアナロジーが成立すると主張した。
 はっきり言って、この議論はメチャクチャである。(強調は著者)

私はボーアがどうやって水素原子のエネルギー準位の理論に到達したのか謎だったのですが、やっぱ、メチャクチャだったんですね。あるいは、シュレディンガーの波束で粒子を表す話も、その波束は時間とともにくずれていくんじゃないか、と思っていたのですが、やっぱりそういう批判は当時からあったんですね。そしてシュレディンガーはこの説を撤回していることをこの本ははっきり書いています。このように私にとって目からウロコの話がこの本には多く書かれているのですが、今回、自分にとって一番収穫だったのは次の箇所です。

 光子とは、もともと電磁場の振動が持つとびとびのエネルギーを粒子であるかのように表現したものにすぎず、そもそも位置を特定できる粒子ではないのである。

そうか! そうだったのか! ランダウ=リフシッツの「相対論的量子力学」の初めのほうで立ち往生した昔の自分に教えてやりたい。でも生きているうちにそのことを知ることが出来てよかった。(私は30年もモヤモヤを抱えていたのです。) 要するに形成途上の理論を理解するのは、確立された理論について教科書で読むのとは違って大変困難である、そして本当の学者というものは形成途上のところで勝負しているんだ、ということですね。


読むのは正直大変ですが、私は声を大にして言いたい。「これは名著です。」