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Chikirinの日記 RSSフィード

2018-03-22 驚くべき思慮の深み

シリーズエントリの五回目。

今回は、なぜ陛下は「テレビで直接、国民に語りかける」といった「なにこれ、平成の玉音放送!?」みたいな思い切った行動をとられたのか −−− その背景を(私なりに)忖度してみました。

第一回 日本人としての必読書

第二回 皇位継承に男女平等を持ち込むのは変でしょ

第三回 皇位継承問題より公務負担問題

第四回 「皇室外交の大きな価値」を理解しよう


2016年 8月 8日、テレビの録画メッセージで、退位・譲位の意向が表明されました。初回エントリに書いたように、これはかなり憲法違反っぽい行為です。

国家制度としての天皇制度のあり方は、主権者である国民(国会など)が決めることであり、主権者にたいして「忖度せよ」的な発言を象徴が自ら発するなど、本来はありえない。

なのにいったいなぜ、ここまで踏み込まれたのか。


★★★


まず考えられるのは、東京オリンピックの時に、自らが病に伏せったり、国民が喪に服さねばならないような事態を決して起こしてはならない、というご配慮でしょう。

若い人は知らないと思いますが、昭和天皇が危篤に陥られた際、日本はリアルイベントからテレビまで、ものすごい長い期間「自粛ムード」に入りました。

お祝い系のイベントは軒並み中止、深夜のおふざけ番組も放送中止、企業も派手な販促を控えるなど、過剰ともいえる忖度が行われたんです。


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(崩御の日の日経新聞夕刊・ちきりん保有)


ひどいのになると、日産の CM で「みなさんお元気ですか?」の音声が失礼だと非難されたり、トヨタの販売店の「生きる歓び」というコピーが問題だと指摘されてなくなったり・・・

「まじかよ!?」みたいなことが、1988年 9月 19日に吐血されてから、崩御までの 3ヶ月半と喪に服す期間を含め、ゆうに 1年間は続きました。


こんなことが東京オリンピックの直前や最中に起こったらどうなるのか?

それを心配されたとしたら、政府の手続きにかかる時間を踏まえ、2016年の夏はギリギリのタイミングだったはず。


↓崩御の日には、旅行のキャンセル料まで無料に。

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(日経新聞)

↓当日のテレビ番組。忖度しないことで有名なテレビ東京でさえすべて追悼番組。

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(読売新聞)



もうひとつ、「ご意向表明」の中では「摂政ではなく、退位・譲位」という意向が明確に示されました。

これも憲法違反に近い。皇室典範という法律に「摂政を置く」という方法が明記されているのに、それとは異なる方法を(象徴という立場の方が)推奨されるなんてかなり踏み込んだ行為です。

なぜここまで踏み込まれたのか。

これも、下記の本を読めばよくわかります。


知られざる皇室外交 (角川新書)
西川 恵
KADOKAWA (2016-10-10)
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王族の世界は「儀礼」の世界です。

たとえば世界の王族が何かのイベントに集まる時、その席次が「適当に」決められることはありません。晩餐会でどのテーブルが割り当てられるか、どこの位置で記念写真におさまるかなどには、常に明確な理由があります。

考慮される要素は元首の年齢や即位からの年数など様々ですが、ひとつ間違いないのは「元首とその代理」では扱われ方がまったく違うということです。

前回も書いたように、日本の皇室は世界でも最古の王室です。その元首ということで、世界のロイヤルファミリーの中でも大きな尊敬を得ています。


でも!


元首じゃなくて摂政だったら?

当然、まずは他国の元首が優先です。

そしてそれでは皇室外交の価値を大きく損ねてしまいます。

エリザベス女王と同じテーブルなのか、そーでないのか、写真の真ん中に映るのか、後ろの端っこなのか、謁見の順番がどうなるのか。それらすべてに立場が影響してしまう。

陛下が皇太子様(浩宮様)には摂政ではなく、最初から天皇として活動してほしいと思われるのは当然でしょう。


さらに反対のご心配もあったはず。

自ら「昭和天皇の名代」という立場で長く活動してこられたことにより、そういう微妙な立場で皇室外交の場に立つことの難しさを誰よりも実感されていたんじゃないかなと。

たとえば「名代」の場合、(摂政ではなく)本人と同じ立場だと解釈し、そのように扱ってもらえたりもするのですが、それ自体、相手国に対してや、周りの(ちゃんと元首が来てるのに序列を落とされる)他国の王室メンバーに対して失礼すぎる・・・

そんなふうに思われた可能性もある。


いずれにせよ、「摂政」や「名代」といった代理の立場で皇室外交を担うのは、ものすごく不利かつ不適切だと実感されてらしたからこその、あの踏み込み方だったというのが私の忖度結論です。

本当はそこまで国民が理解し、「皇室外交はめっちゃ価値ある制度。摂政ではその効果が十分に発揮できないから譲位にしよう!」と提案できればいいけど、そんなこと分かってる国民はほとんどいないし、

加えて(わかってても)天皇陛下に「なので譲位してください」などと言える政治家もいない。だから自分で言うしかない。


★★★


最後にもうひとつ。

東京オリンピックに「自粛ピリオド」が重ならないようにというご配慮に加え、「この時期までには新天皇が即位しておくべき」と思われたポジティブな理由もあったと思います。

即位は新天皇にとって「世界の王族界へのデビュー」も意味しますから、即位後は順次、世界中の王家を訪問すべく、外国訪問が行われます。


でもね、これって正直、かなりの重労働です。

浩宮様は即位後、何度も何度も出張(海外訪問)を繰り返す必要があり、年に複数回、出かけられたとしても、新天皇として世界各国の元首と顔合わせを完了するまでには最低でも数年はかかるでしょう。

天皇には国内で行わねばならない仕事=国事行為や祭祀も多いので、時期調整や準備など、事務方の負担も膨大なものになります。


でも!

もし東京オリンピックの前に新天皇になっていたら?


そうです!!

自分が行く必要はない。

相手を開会式や閉会式にお招きし、東京でまとめて会うことができるから。


めっちゃ効率いいやん!!


しかも、それだけじゃない!!!


「相手国を訪問して会う」方式の場合、もし新皇后に何度もの海外訪問をこなす体力が欠けていたら・・・王族界の基本である「家族ぐるみでの親交」ができなくなってしまいます。

もちろん新皇后も、できる限りの努力をされるでしょう。

でも、東京オリンピックを新天皇のデビューイベントとして活用すべきと考えられた背景には、そういった新皇后の負担を減らしたいというご配慮もあったかもしれない。


もっと言えば!


相手国の方々に東京まで来てもらえれば、悠仁親王をもごく自然な形で各国の王族に紹介できます。

そうすれば将来、皇太子や天皇となった悠仁親王が外国訪問をした際、最初から「あの小さな男の子がこんなに立派になって!」と目を細めてもらえる。

王族同士の親交を深めるのに、こんなに有利な条件はありません。


新天皇だけでなく将来の天皇である幼い親王まで含め、世界の元首に軒並み紹介しておきたい。

そうすれば、何十年か後に彼が元首となって他国を訪れる時、「家族ぐるみの」「歴史を超えた」皇室外交のパワーがいかんなく発揮される。

これこそ「コケのむすまで」国家の繁栄を助けてくれる大きな財産になるはず。

だから世界中からトップが集まる東京オリンピックの時には、是が非でも(摂政ではなく)新天皇を即位させておかねば!


・・・いえ、すべて私の忖度に過ぎませんけど。


前回のエントリでは「皇室外交」がどれくらパワフルなものか、について書きました。

その価値を一番理解しているのは国民などではなく、まちがいなく陛下でしょう。

その大きな価値を将来にわたり、最大限に引き継いでいくには、少々踏み込んだ行動をとってでもオリンピック前に譲位を実現しておくことが不可欠だ!!


・・・いえ、すべて私の忖度に過ぎませんけど。


正直、これほど思慮深い方が世界最古の王室の担い手として存在してる国に住んでるって、どんだけラッキーなことか。

めっちゃ実利的な私から皆さんへのメッセージは、「数年後、この制度のあり方が国民的議論になる前に、とりあえずみんなこの本、読んどいて!」です。

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そんじゃーね!


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