ブログトップ 記事一覧 ログイン 無料ブログ開設

Chikirinの日記 RSSフィード

2013-05-31 世界を歩いて考えよう! 電子書籍化のお知らせ

コンピュータ将棋シリーズの途中ですが、お知らせです。

昨年の6月に出した『社会派ちきりんの 世界を歩いて考えよう!』が、電子書籍化されました。(追記:しかも2013年12月現在、450円の大特価セール中です!)


今回の電子書籍化にあわせ、サファリやビーチのキレイ系写真を追加し、多くのカラー写真とともにお楽しみいただけるよう再編集しました。なので、できればカラー端末でお楽しみください。(文章の変更はありません。)

旅行にも持っていきやすくなるので、もし同じ場所に旅行される機会があれば、ぜひ現地で読んでみてくださいね!

iPhone, iPad, Android端末でも、無料アプリをダウンロードすれば、kindle本が読めます。(詳しくはこちらの★キンドル特設ページ★をご覧ください)


新たにキンドルタブレットを買う方は、急速充電用のプラグだけは併せて買ったほうがいいです。(ペーパーホワイトなら必要性は低いかもですが、消費電力の大きいタブレットでは必須です)



<ちきりん本リスト>

発行日単行本文庫本電子書籍オーディオブック
2011.01ゆるく考えよう文庫本なしなし
2011.10自分のアタマで考えようなしkindle版ページオーディオブック
2012.06世界を歩いて考えよう!なしkindle版ページなし
2013.06 未来の働き方を考えようなしkindle版ページなし
2013.11紙の本はありませんなし「Chikirinの日記の育て方」kindle版なし

(表は追加で更新済み)

→ 楽天ブックスはこちら


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね!

2013-05-28 暗記なんかで勝てたりしません

今日は、将棋ソフトがどのように“将棋を学んできたのか”について、まとめておきます。

今から40年ほど前の 1975年頃、人工知能研究の一環として将棋ソフトの開発は始まったそうです。

その進化の流れは、ざっくり言えばこんな感じ?


1.ルールを覚えさせる

2.金言などをプログラム化する

3.探索と駒得で手を選ばせる

4.局面評価について、機械学習をさせる


1の「ルールを覚えさせる」というのは、各駒の動ける場所を教え、“二歩”など反則となるルールを教えるってことです。

でも、駒の動かし方がわかるようになっただけでは勝てたりはしません。今の私と同じです。

ちなみに「反則にならない手」は合法手と呼ばれます。


次に「金言をプログラム化する」ってことが行われたみたいです。

将棋には勝ちやすくなるための格言がたくさんあります。

「玉飛接近すべからず」「二枚替えなら歩ともせよ」みたいな言葉ですが、そういうのをプログラム化したということです。

これはアトムみたいなロボットを創って、そのプログラムに「早起きは三文の得」といった諺を覚えさせるようなものです。

するとロボットは朝の 5時から動き出し、夜の 9時には充電機に戻っていく・・・わけです。


「ルールを守って指す」から「勝つために指す」に変わったのは大きな進歩ですが、結果としては、人間にはまったく勝てませんでした。

そりゃあ勝てないだろうって感じですが、将棋には格言が数え切れないほどあるので、当時の開発者の方のご苦労は大変なことだったろうと思います。


次に、

(1) 自分が指す手と相手の指す手のパターンをすべてリストアップ=探索し

(2) 結果として現れた局面が、自分に有利そうか不利そうかを判断=局面評価し

(3) 最も自分に有利な局面につながる手を選ぶ

という、現在でも使われている基本的な思考の形が始まります。


よくプロ棋士は何十手も先まで読んでいると言われますが、この“読み”と“局面評価”(人間にとっては形勢判断という言葉の方が適切かも)は、人間のアタマの中では一体となって行われています。

将棋以外の選択肢でも私たちは、「こうしたほうがいいかな? それともああしたほうが良さげかな?」と考えますよね。

あれは、読み(探索)と形勢判断(局面評価)を一緒に行なってるわけです。


でもソフトにとっては、「あらゆる可能性をすべて、しかも、できる限り深く探索する」のと、「それぞれの手を選択した時に現れる状況(局面)が、どれくらい自分にとって有利か不利かを判断する」のは、まったくの別の作業です。

「本当は人間にとっても探索と局面評価は別の作業なんだけど、私たちはそれを区分して意識することができてない」のか、

それとも「そもそも人間にとっては、その二つは統合された思考である」のかは、私にはよくわかりません。

コンピュータは、“人間と同じ思考をしようとしてるのか”、それとも“結果として人間と同じ思考結果にたどり着くために、人間とは全く異なるアプローチで考えている”のかは、この点に限らず興味深い点です。


★★★


探索とは、いわゆる“場合分けツリー”みたいなのを延々と展開することです。

次に局面を評価するには評価基準が必要となります。この基準を作るのが難しい。

たとえば、基準のひとつに“駒得かどうか”と言うのがあります。

コンピュータの場合、それぞれの駒に点数を振り(王将は無限大、飛車や角は 800点、歩は100点など)、「歩をとられても、金をとれる局面は有利」みたいに判断します。


相手の王将をとれば勝ちのゲームですから、王将の価値を無限大としておけば、そこに向けて最善手(もっともよい指し手)が選ばれそうな気がしますが、コトはそう単純ではありません。

まず、駒の重要性は、序盤か終盤かといったタイミングや、駒の置かれた位置、他の駒との位置関係などによって変わってきます。でもプログラムを組む上で、駒の点数を状況に応じて変えること自体が難しい。

また人間は往々にして「肉を切らせて骨を切る」的な作戦を使いますが、これも「今は敢えて駒損を選ぶのが得」と考えるからですが、これも単純に「駒得を目指すプログラム」ではなしえない作戦です、


つまり局面の有利さを判断するためには、駒得だけでなく数多くのパラメーターを設定することが必要なんですが、最初の頃はこのパラメーターを、ソフトの開発者が設定していたんです。

でもね。将棋も知らないポログラムの開発者にそんなこと期待するのは無理でしょ。

そこに、保木邦仁氏が開発した“ボナンザ”というソフトが、画期的な新手法を導入します。(このボナンザ (BONANZA) と、山本一成氏が開発したポナンザ (PONANZA) は、全く別のソフトです。)


それは、「局面の有利さレベルを判断する“式”のパラメーターを、ソフト開発者が設定するのではなく、コンピューター自身が調整できるようにする」というものでした。

トッププロの棋譜をもとに「この局面になると勝ちにつながりやすくなっている。だからこの局面は、有利な局面であると判断しよう」と、

プロの棋譜に現れる無数の局面の情報をもとに、(人間と同じ判断が、ソフトにもできるよう)ソフト自体が、自らの判断式を設定・改善していくわけです。

“機械学習”と呼ばれるこのパラメーターの自動生成方式の登場で、将棋ソフトは一気に強くなりました。(保木氏はもともと化学分野の研究者で、その分野での制御理論を応用してこの方法を考えられたそうです)


★★★


このボナンザは、2006年の世界コンピュータ将棋選手権に初出場で初優勝。従来のソフトより格段に強く、棋士からも「人間らしい手を指す」などと評され話題になります。

さらに 2009年。保木はそのソースコードを公開。他のソフト開発者もそれを利用することが可能になりました。

こうして現在の“プロ棋士に勝てるレベルの将棋ソフト”が出現したわけです。


★★★


局面評価をソフト開発者という人間が行う方式と、コンピュータにやらせる方式には、大きな差があります。

なぜなら、

・人間が、自身の局面評価の思考方法を言語化(数式化)できないと、機械に教えられない

・人間だと、せいぜい百とか千の単位のパラメーターしか考えられない


たとえプロ棋士がプログラミング能力を持っていても、「自分がどう局面を評価しているか」を言語化できないとソフトには教えられません。

昔、長嶋茂雄氏が少年野球教室で小学生に「ひゅーってボールがくるでしょ。それをスコーンと打つんだよ」って教えてましたけど・・・それじゃあ、わからんだろ、ってのと同じです。

人間は、たとえ自分ができてることでも言語化できないコトがたくさんある。特に判断基準については、それを「他人でも再現できるように明確化する」のは、めっちゃ難しいことなわけで、

それが、先日のエントリで書いた「人間は自分の考えを理解できないが、コンピュータはそれを理解できるかも by 山本一成氏の意味なんです。


コンピューターが自分でパラメータを考え始めて以来、その数は数千万とか、ソフトによっては億の単位になってるそうですが、人間がなにかの判断をする際、そんなに多数の要素を意識することはありえません。

人間はもっと少ないパラメータで正確な局面判断が出来ている、わけで、「人間すごい!」のか、それとも「何億ものパラメーターを駆使できるコンピュータすごい!」なのかよくわかりませんけど。


ボナンザVS勝負脳―最強将棋ソフトは人間を超えるか (角川oneテーマ21)
保木 邦仁 渡辺 明
角川書店
売り上げランキング: 454,796

保木氏と、2007年にボナンザと対局して勝利した渡辺竜王の共著。将棋ソフトを理解する上で、大変参考になりました。 ★楽天ブックスはこちら★


さて以上が、私が理解できた範囲での「プログラムが将棋を学んだプロセス」(もしくは、ソフト開発者がコンピュータに将棋を教えたプロセス)なのですが、

このほかに、将棋には定跡と言われる「こういう場合は、こういう手を指すのがベスト」という一連の手の流れがあり、将棋ソフトにはそういうパターンが大量にインプットされています。

私は、これも将棋ソフトが強くなった理由なのかなと思っていました。

人間は定跡を覚えたり暗記したりするのが大変だけど、機械ならすぐに覚えられ、忘れず、実際の局面で「あっ、これはあの定跡だ!」と思いつくことの漏れもありません。

だから人間より有利そうじゃん? と思ったんです。


でも山本一成氏と話した時に、「それはそんなに重要な要因じゃないです」と言われました。

理由を問うと、「だって暗記だけでは強くなれないでしょ」って。


あー、そうね。


他のことでも同じですよね。

無制限に完璧な暗記ができれば、テスト系のことなら、ある程度のところまでは簡単にたどり着けます。

辞書全部の英単語を暗記したら、英語のテストでは一定の点がとれるだろうし、受験でもそれだけで平均点がとれる科目もありそうです。

でも、ビジネスパーソンとして(もしくは社会人として)まともな判断をすることに、暗記が占める重要性は、確かに高くはありません。

今や将棋ソフトは将棋のプロと勝負するレベルに達しています。

そういうレベルにおいて、「正しい答えであるサンプル手順をどれくらい大量かつ正確に暗記しているか」が重要であったりは全くしない。

それは、将棋じゃなくても同じなんです。


暗記なんかで勝てたりしない。

大事なのは知識を頭に詰め込むことではなく、考えることだから・・


はっ! 


そういえば、あたし、そういう本を書いてたじゃん!?

★Kindle版★ & ★楽天ブックス★


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね



<コンピュータ将棋 関連エントリの一覧>


1) 『われ敗れたり』 米長邦雄

2) 盤上の勝負 盤外の勝負

3) お互い、大衝撃!

4) 人間ドラマを惹き出したプログラム

5) お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について

6) 暗記なんかで勝てたりしません ←当エントリはこれです

7) 4段階の思考スキルレベル

8) なにで(機械に)負けたら悔しい?

9) 「ありえないと思える未来」は何年後?

10) 大局観のある人ってほんとスゴイ

11) 日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ 

12) インプット & アウトプット 

13) コンピュータ将棋まとめその2

2013-05-26 お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について

第二回の将棋電王戦、全局終了後の記者会見で、谷川浩司(日本将棋連盟)会長が、「形勢が悪くなっても最善手を指し続けていくコンピュータに、精神力の重要性を教えられました」と話されました。

将棋連盟のトップが、「人間が、コンピュータに、精神力の重要性を教えられた」と言われるなんて、

学校の先生が、「コンピュータに、誠意を尽くして謝ることの重要性を教えられた」と言ったり、

演劇の監督が、「コンピュータに、豊かな感情表現の重要性を教えられた」と言ったりするようなものに思えます。


人間でも感情表現の巧い人と下手な人がいます。ものすごく感情表現が上手い人がコンピュータに抜かれるまでには、まだ時間がかかるかもしれません。

でも、「自分は感情表現があまり得意じゃない」という人にたいしてコンピュータが、「謝りたいなら、こんな声のトーンで話すといいですよ。語彙はこういう言葉を選んでください」と教えてくれる未来は、そんなに遠くないのかも。


★★★


谷川会長は「精神力の重要性」と言われましたが、より具体的に、将棋ソフトと対局した棋士が「コンピュータはココがすごい」とコメントしている点をまとめると、

・最後まであきらめない

・有利でも油断しない

・心理戦に影響されない

・先入観をもたずに、あらゆる可能性を考える

・ゼロベースで考える(常にその局面での最善手を探す)

とかなんです。


たしかにこれらはコンピュータの長所ですよね。

でもよく考えたら、これらはすべて、人間が思考訓練をする際に、「こういうふうに考えるべし」と教えられている方法論ばかりでは?

「最後まであきらめるな」なんて誰でも言われたことがある言葉でしょ。「ちょっとくらい有利に思えても決して手を抜くな」も同じです。

ビジネスの交渉ごとにおいても、「心理戦に影響されない」ことが大事だと教えられるし、「先入観を持たずにあらゆる選択肢を検討してみる」なんて、「MECE = 漏れなく重なりなく、論理的に考える」手法、そのまんまです。


「ゼロベースで考えろ」も、よく言われる言葉です。

人間は、「次はこういう局面にもっていきたい。よし、じゃあそのために、こう指して、ああ指して、こうしよう」と考えます。(将棋でもビジネスでも同じです)

ところが自分の手の後、相手が駒を動かすと、必ずしも最初に目指していた方針がベストではなくなる場合がよくあります。

そういう場合、本来であれば、最初に指した一手のことは忘れ、その時点から新たに「一番よい方法」を考えるべきなのですが、人間はなかなかそうできません。

過去に指した手、もともと目指していた方針を捨てるのが“もったいなく”思え、判断が鈍るのです。

ファイナンスでいうところの、サンクコストに引きずられるわけです。

でもコンピュータは、一手一手、その場その場で最善手を考えることに躊躇がありません。自分がひとつ前に選んだ手がもったいなくて、気持ちが揺れるということはないんです。


つまり!

人間が通常、「思考力を高めるためにはこうすればよい」と教えられている思考法とは、コンピュータの思考法そのものなのです。


★★★


もうひとつ別の観点から。

これも今回に限らないのですが、将棋ソフトと対局した棋士や解説者が、よく下記のようなコメントをするんです。


コンピュータなのに、

「それらしい手を指す」

「人間のような手を指す」

「羽生さんのような手を指す」

「コンピュータの指し手には知性を感じる」


ここでいう「人間らしい手」っていったいどんな手のことなんでしょう?

という視点で見てみると、実は“巧い手”“戦略的な手”をコンピュータが指すと、私たちはそれを「人間らしい手だ」と感じるんです。


たとえば、敢えて(強い駒である)飛車をとらせて、でも後からその意味が効いてくるとか、相手のミスを誘いがちな形にもっていくとか、“損して得する”的な、戦略的、実践的な指し方を将棋ソフトがすると、人間は「コンピュータのくせに、人間らしい手を指す」って言うんです。

「コンピュータは羽生さんのような手を指す」にいたっては、事実上「めちゃくちゃ上手だ」と言ってるにすぎません。「知性を感じる」も、そのまんまです。


・・・人間って傲慢ですよね。


コンピュータがすばらしい手を指した時に、素直に「コンピュータってすげえ賢い!」とは言わず、「コンピュータなのに人間っぽい!」と評するのは、「人間の思考のほうが賢いはず」という前提(思い込み?)があるからです。

本来コンピュータなんて杓子定規で、融通が利かなくて、まっすぐ直線的にゴールを目指すことはできても、戦略的に後退したり、相手を惑わせるために意図的に何かを仕掛けることはない、と思っているんでしょう。

だから、そういう手を指してくると、「機械のくせに人間みたいなことをする!」と評価するわけです。


にもかかわらず、自分たちの思考訓練のためには、

「最後まであきらめるな」

「有利でも油断するな」

「先入観に惑わされず、あらゆる選択肢を検討し」

「いつでもゼロベースで考えろ」などと

コンピュータの思考を真似するための練習ばっかりする。

ちょっと不思議でしょ。


★★★


インテリアの世界に同じような話があります。高級ホテルでは、凝りに凝った客室のしつらえの目的を、こう説明します。

→ 「お客様がご自宅にいらっしゃる時と同じように、快適に落ち着いてすごしていただける空間を提供したい」


その一方、個人住宅向けのインテリアの本には、こういう言葉がよくでてきます。

→ 「選び抜かれた家具とファブリックで、ホテルライクな空間を実現」


どっちを目指してるねん!?

って感じでしょ。


人間は、「機械的な思考より人間の思考のほうが、一枚上に決まってるだろ、ばーろー」と思ってるくせに、(自分の思考力を少しでも高めるためには必死で)機械のように考える訓練をする、ってことなんです。


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーねー


<コンピュータ将棋 関連エントリの一覧>


1) 『われ敗れたり』 米長邦雄

2) 盤上の勝負 盤外の勝負

3) お互い、大衝撃!

4) 人間ドラマを惹き出したプログラム

5) お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について ←当エントリはこれです

6) 暗記なんかで勝てたりしません

7) 4段階の思考スキルレベル

8) なにで(機械に)負けたら悔しい?

9) 「ありえないと思える未来」は何年後?

10) 大局観のある人ってほんとスゴイ

11) 日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ 

12) インプット & アウトプット 

13) コンピュータ将棋まとめその2

2013-05-25 新刊)未来の働き方を考えよう!

電王将棋シリーズの途中ですが、コマーシャルの時間です。

一年ぶりに新刊がでます。考えようシリーズの第四弾で、来月中旬の発売予定です。


f:id:Chikirin:20130525003811j:image:w200

 → ★アマゾンのサイト★

 → ★楽天ブックスへのリンク★



過去の3冊はこちらですね。

       


『ゆるく考えよう』は、生き方のポリシーについての本、

『自分のアタマで考えよう』は、頭の使い方、思考法について、

『世界を歩いて考えよう!』は、ちきりんの価値観の源泉ともいえる海外旅行について書いており、

次の『未来の働き方を考えよう』は文字通り、これからの働き方についての本です。


去年『ワーク・シフト』を読んで以来、私も、これからの働き方についてちょっとまとめて考えてみたいと思い、こういう内容になりました。

まだ当面は将棋とコンピュータと人間の思考についての連載を続けますが、7月くらいからは「働き方」についてシリーズで書いてみたり、みなさんと一緒にこれからの働き方を考える、インタラクティブなシリーズにできればいいなと思っています。


何かおもしろいイベントもできたらいいな。

ぜひ楽しみにお待ちください。


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね!

2013-05-24 人間ドラマを惹き出したプログラム

人間対ソフトが対局する将棋の電王戦では、昨年の第一回大会で、ボンクラーズが故米長邦雄氏に勝利しました。当時の米長氏はすでに引退後の将棋連盟会長だったので、「現役プロ棋士」ではありません。

そして今年は 5対 5 の現役プロ棋士との団体戦という形で第二回が行われました。

結果は下記のとおり、将棋ソフト側が 3勝 1敗 1引き分けで勝利しています。(ニコニコの第二回電王戦サイト


<第二回 将棋電王戦結果>

プロ棋士将棋ソフト
第一局 阿部光瑠 四段    .習甦
第二局佐藤慎一 四段    .ponanza
第三局船江恒平 五段  ツツカナ
第四局塚田泰明 九段  Puella α(旧ボンクラーズ)
第五局三浦弘行 八段  GPS将棋

(勝った方に色がついています。第四局は引き分けです)


今回の電王戦が大きな盛り上がりを見せた理由は、

1)このイベントが「人間 対 コンピュータ」と位置付けられ、

2)人間が負けるかもしれない、と思われたから、でしょう。


たしかに興行としては「人間 対 コンピュータ」と銘打つほうがおもしろいとは思います。

が、下記の第二局の予告ビデオを見てもわかるように、私にはどれも「人間と人間の戦い」にしか思えませんでした。

 → 第二局 佐藤慎一四段 vs ponanza プレビデオ


さらに、対局を重ねるごとに観客が惹きつけられた理由は

3)人間同士の対局ではなかなか見られない、プロ棋士のものすごく人間っぽい姿が見られたから。

だと思います。


私が今回の電王戦に関心を持ったのも、第二局で敗れた佐藤慎一四段が、対局後にあまりに“しょんぼり”されていたからです。

 → 第二局 局後記者会見の様子 (見るにはニコニコの会員登録が必要かもしれません)


その様子を見て「今までタイトル戦で負けた棋士って、ここまでしょんぼりしてたっけ?」って思いました。

将棋に限らず他のスポーツや勝負事をすべて含めても、ここまで“しょんぼり”してる敗者を見た記憶がなかったんです。

“悔しさを噛みしめた表情”とかではなく、「大丈夫ですか!?」って言いたくなるほどの姿を見て、「スゴイことなんだな」と感じました。


さらに、第四局の塚田泰明九段とPuella αの勝負に至っては、「こんな棋士の姿を見ることになるなんて!」と多くの方がびっくりされたはずです。

そこまでの経緯を簡単に書いておくと、

第一局では、18歳の阿部四段が、ソフトの癖を突くことで勝利を収めますが、

第二局では、現役・男性のプロ棋士に、将棋ソフトが“初めて”勝利しました。

第三局でもプロ棋士が敗れ、1勝 2敗。団体戦としては人間側に“後”がなくなります。


勝負がかかった第四局では、「絶対に負けられない」と考えた塚田九段が入玉という(プログラムが苦手といわれる)局面に持ち込んだ後、(相手の王将を狙うゲームではなく)点数勝負に持ち込みます。

そして最後は、右往左往を始めたプログラム対し、塚田九段が盤上の駒を指で数えながら引き分けに持ち込むという、(おそらく本人も含めすべての関係者が)仰天するような将棋になりました。 (参考:第四局 終盤ビデオ ←既に何のゲームなんだかわかんなくなってます・・・)

対局後、「個人戦だったら投了して(負けを認めて)いた」と話す塚田九段は、涙を浮かべていました。


みんな「人間ドラマ」が見たいと思ってるんだなーー。

って思いました。


今、将棋には、

・人間と人間が戦うタイトル戦

・人間と将棋ソフトが戦う電王戦

・将棋ソフト同士が戦う世界コンピュータ将棋選手権など

があります。


この中で、現時点で「観客を最も感動させるドラマ」を見せてくれるのは、どの組み合わせなのでしょう?

もしもそれが「人間と将棋ソフト」の戦いなのだとしたら、いまのところ「人間に、最高の人間ドラマを演じさせるのは、人間ではなくプログラムである」とも言えます。


★★★


最初に、今回の電王戦が盛り上がった理由として「人間がコンピュータに負けるかもしれないと思われたから」と書きました。けれどその一方で、大半の人はプロ棋士を応援していました。

佐藤四段、塚田九段を含め、勝ち負けを問わず 5名の棋士には惜しみない応援と賞賛の声が届けられ、その姿に感激してにわかファンになった人も多いはずです。

そして、そういった(大勢の人を魅了する)プロ棋士の、ここまでの人間らしさを引き出したものこそ、プログラムだったんです。


もし今回、人間側が 5勝していたら、ここまで話題になったとは思えません。

観客が熱狂したのは強烈な人間ドラマであり、そのためには。人間はギリギリまで追い詰められ、敗北し、、のたうち回ってみせる必要があったんです。

羽生善治三冠が“七冠”を達成した時のように、人間と人間の勝負だったら「圧倒的に強い勝者」に熱狂する私たちは、なんで人間対ソフトの戦いにおいては、「負ける人間」に興奮するんでしょう?

私たちが見たいドラマとは何なのか。とても興味深いです。


★★★


3つの種類の将棋大会があると書きました。

・人間と人間が戦う(従来の)タイトル戦

・人間と将棋ソフトが戦う電王戦

・将棋ソフト同士が戦う世界コンピュータ将棋選手権など


将棋というゲームを深く理解している純粋なファンにとっては、(今はまだ)「これが将棋と呼べるのか?」的な内容の電王戦より、一般のタイトル戦のほうがよほどおもしろいでしょう。

また、将棋ソフトの開発を手掛けている人なら、ソフト同士の戦いこそが主戦場であり、もっとも熱くなれる舞台なのかもしれません。


でも“その他大勢の普通の人たち”は、将棋の奥深さでもプログラムの完成度の高さでもなく、「衝撃と感動を与えてくれるドラマ」を求めています。(ファンの裾野を拡げたいなら何が必要かってことでもあります)

しかもこれは将棋に限った話ではありません。

「純粋に味覚としておいしいものを食べたい」ではなく、「驚くほどおいしいものを食べたという感動を誰かと共有したい」人のほうが、世の中には多いのです。


谷川浩司会長も、「 5 対 5の団体戦ということで、勝負に重きが置かれるかと最初は思っていましたが、5局すべてにドラマがありました」と言われてました。

ニコニコのプロモーションビデオも、ちょっとわざとらしいくらいのレベルで、“感動物語”を前面に打ち出してきます。 → 完全版 第二回将棋電王戦  (これもニコニコの会員登録がないと見られないかも)


電王戦の内容が、将棋としておもしろかったのかと言われれば、いろんな意見があるでしょう。でも、「人を感動させるものとは何なのか」という点については、ちょっとした学びのある大会だったと思います。


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね



<コンピュータ将棋 関連エントリの一覧>


1) 『われ敗れたり』 米長邦雄

2) 盤上の勝負 盤外の勝負

3) お互い、大衝撃!

4) 人間ドラマを惹き出したプログラム ←当エントリはこれです

5) お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について

6) 暗記なんかで勝てたりしません

7) 4段階の思考スキルレベル

8) なにで(機械に)負けたら悔しい?

9) 「ありえないと思える未来」は何年後?

10) 大局観のある人ってほんとスゴイ

11) 日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ 

12) インプット & アウトプット 

13) コンピュータ将棋まとめその2

2013-05-22 お互い、大衝撃!

以前に紹介したような流れで、第二回将棋電王戦の第二局でプロ棋士に初めて勝利した将棋ソフト、Ponanzaの開発者である山本一成さんと会うことになりました。

将棋についてもプログラム開発についてもど素人の私は、10時間ほどにわか勉強をしたうえで“聞きたいことリスト”を準備。

そして先日、カフェで 3時間、その後、食事をしながら 3時間、さらにカフェバーに移って 2時間と、合計 8時間、延々と将棋とコンピュータと人間についてレクチャーを受けました。

勉強になったことはもちろん、とても楽しかったです。ありがとうございました!


f:id:Chikirin:20130521005605j:image:w400

Ponanza 開発者:山本一成さん


この話、とても複雑なので一歩ずつ説明していきますね。まずは“完全情報ゲーム”についてです。

ゲームには「完全情報ゲーム」と、「そうでないゲーム」があります。

より正確には、二人零和有限確定完全情報ゲーム というのですが、完全情報ゲームとは、

・二人=自分と相手だけの二人でゲームをする

・零和=両者の利得の和はゼロ=自分の最善の選択肢は相手の選択に左右されない

・有限=手の組み合わせが有限

・確定=サイコロを振ったり、伏せられた牌を引くといった、偶然の要素がない

・完全情報=相手の選択はすべてわかる

というゲームのことで、将棋やチェス、碁やオセロなどがその例となります。

自分の最善の選択肢が相手の選択に左右される例としては、囚人のジレンマが有名です。じゃんけんもそうかな?

あと、ポーカーやマージャンでは相手の札やパイが見えないので、完全情報ではありません。


この「完全情報ゲーム」に関しては、二十世紀における最も偉大な数学者と言われるジョン・フォン・ノイマン氏が、「完全情報ゲームには必ず最善の手がある」と数学的に証明しています。

つまりこれらのゲームには「解=必勝法」があるんです。

ただし将棋に関しては、その解が現時点で解明されているわけではありません。

将来、コンピューターの性能がめちゃくちゃ上がると、将棋についても先手必勝か、後手必勝か、両方が最善手を続ければ必ず引き分けか、みたいなことが理論的には解明されるはずだって話です。

一方、運や偶然性が混じる=完全情報ゲームではない麻雀やポーカーといったゲームには、「完全な解」はありません。


★★★


さて、完全情報ゲームでは選択肢が「有限」であると書きましたが、有限とはいえ、その選択肢はものすごく多いです。

オセロから囲碁まで、盤のマス目数や、相手から取った駒が再利用できるか、などによって、選択肢の数は異なりますが、いずれも「想像を超える多さ」です。

ゲーム  ひとつの局面のあり得る手ゲーム中に現れる局面の数ソフトと人間
オセロ10くらい10の60乗ソフト圧勝
チェス35くらい10の120乗ソフトのほうが強い
将棋80くらい 10の226乗トッププロに挑戦中
囲碁250くらい 10の360乗人間が強い

(チェスと将棋は似たゲームですが、チェスは相手から奪った駒が再利用できません。このためチェスではゲームが進むにつれ駒数が減り、急速にコンピュータに有利になります)


局面数が(比較的)少ないオセロとチェスに関しては、既に人間がソフトに勝てなくなっており、オセロにいたっては「ソフトが指す手は人間には理解できない」=「神がかった手に見える」とまで言われています。

ところが、そのオセロでさえ、未だに「解」はわかっていません。「ゲームの解明」というのは、それくらい難しいんです。


また、将棋ソフトにとって「人間のトッププレーヤーに勝つ」のと、「将棋を解明する」というのは、まったく違う目標です。

ソフトの開発者の中には、前者を目指す人もいるかもだし、後者が目標だと明言する人もいます。


★★★


さて、山本一成さんの話の中で私がもっとも驚いたのは、彼がこう言った時でした。

将棋の完全解明は、将棋ソフトがトップ棋士に勝つのとは、全く次元が違う難しさです。

私はそれよりも、プログラムが人間の知能を超える日のほうが早いと思っています。


えーーーーーーーー!?


“あなた本気でそんなこと言ってんの? 冗談でしょビーム”を出し続ける私を説得するためか、彼は次々と言葉を続けます。

人間にしかできない聖域分野は存在しないと思ってます。


そもそも人間の生物学的な能力向上は、限界に近くなっていると思いませんか?


人間は人間の思考を理解できないけれど、プログラムは人間の思考をわかるようになるかもしれません。


ちょっと待ってくれよということで、急遽、プロ棋士の片上大輔六段を交えて焼肉を食べながら、「将棋の完全解明と、人間の知能を超えるプログラムの出現はどっちが早いか」を話し合うことになりました。


焼肉↓

f:id:Chikirin:20130521005609j:image:w400


片上大輔六段↓

f:id:Chikirin:20130521005558j:image:w400


六段いわく「そりゃー、さすがに将棋の完全解明のほうが早いでしょ?」


だよねー!!!!


山本氏は「えー、そうですか? 将棋の解を見つけるのはめっちゃ難しいですよ」


そんなこと、片上六段だってわかってるって!!!


焼肉↓

f:id:Chikirin:20130521005614j:image:w400


というわけで、ホント衝撃でした。

何も知らない人が言うのと違って、実際にある種の「考えるソフト」の開発に当たっている人が「人間の知能を超えるプログラム」がそんな現実的だと考えてるなんてマジびっくり。


しかしながら、その衝撃で頭がぐゎんぐゎんしてる私に、さらなる衝撃が待ち受けているとは、このときはまだ気が付いていませんでした。

この後、タクシーで帰途についたのですが、その中で山本氏は(私が問うたわけでもないのに)こう言ったのです。

「今日はホントに楽しかったです! でも、今日一番、衝撃的だった話は・・・」


ふむふむ。人間の知能を超えるプログラムができると思ってるあなたにとって、一番、衝撃的だった話は?


「・・・・・ちきりんさんの年齢でした!」


    


そんじゃーね!



<コンピュータ将棋 関連エントリの一覧>


1) 『われ敗れたり』 米長邦雄

2) 盤上の勝負 盤外の勝負

3) お互い、大衝撃! ←当エントリはこれです

4) 人間ドラマを惹き出したプログラム

5) お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について

6) 暗記なんかで勝てたりしません

7) 4段階の思考スキルレベル

8) なにで(機械に)負けたら悔しい?

9) 「ありえないと思える未来」は何年後?

10) 大局観のある人ってほんとスゴイ

11) 日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ 

12) インプット & アウトプット 

13) コンピュータ将棋まとめその2

2013-05-20 盤上の勝負 盤外の勝負

故米長邦雄氏の『われ敗れたり』 を読んで最も勉強になったのは、将棋の勝負は、盤上の技能だけで決まるわけじゃないとわかったことです。

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る


この本には、将棋ソフトとの対局が決まった時、米長氏がどんな準備をしたかについて書いてあります。ソフトの指し方を研究するなど、将棋の技能に関する準備もあるのですが、実はそれ以外にもいろいろと準備が必要なんです。

たとえば、米長氏は「勝負の前日から将棋会館に宿泊する」ことを希望しました。

コレ、なぜかわかります?


この勝負には大きな注目が集まっていました。米長氏が対局日の朝に自宅から将棋会館に向かえば、入り口で待ち受けたマスコミの記者たちにもみくちゃにされ、「勝つ自信は!?」「負けたらどうされますか?」的な質問を浴びせられます。

言うまでもなく、将棋の対局では精神力や集中力、心の安寧などが非常に重要なわけで、朝からそんなことで気が散ってしまっては勝負に差し障るでしょう。


これはよくわかります。でもね。コンピュータにはそういうことは起こりません。対局日の朝にメディアに囲まれれば、ソフト開発者は緊張してアワワ状態になるかもしれない。それでも将棋ソフトのパフォーマンスには全く影響しないのです。

同じことは別の形でも紹介されます。このとき、対局中や休憩時の写真撮影は禁じられていました。そういうのは勝負がついてから、という取り決めだったのです。

ところが昼休みに、部屋を出た米長氏にたいして某社の女性記者がカメラを向け、写真を撮ります。これは明らかなルール違反です。

真剣勝負の最中であった米長氏は、この女性記者に「ルール違反だから、取材を止めて将棋会館から退去するよう」求めますが、女性記者は泣き出して謝ります。


以下、『われ敗れたり』からの引用

この出来事は私にとって、実は致命的であったと考えています。このやり取りでロスした時間は約10分。そして、時間的ロスもさることながら、このやり取りの後、私が冷静さを取り戻すのにはるかに大きな精神的ロスが生じてしまったのです。(中略)


しかしお昼休みになって対局場を出た瞬間に写真を撮られた。私はそれをニコッと笑って許すことができませんでした。


怒ったら、そのことが勝負に悪影響を与えるであろうことはわかっていたのですが、それでも怒ってしまった。これは私の精神的な弱さにほかならず、また、敗着はそこにあったと思うのです。

そんな記者がいるとは呆れるばかりですが、このエピソードも「人間って大変だな」と思わせます。

何時間もの長丁場の対局。お昼には十分な休息と精神のリラックスが必要なのに、たったひとつのトラブルで人間は心乱され、大きなダメージを受けてしまいます。

これもコンピュータにはまったく起こらないことです。


この他、米長氏は「誰が実際の指し手として自分の前に座るか」についても、様々に検討しています。今回の電王戦でもそうでしたが、盤の向こうに座るのはソフト開発者ではありません。コンピュータにロボットアームが付いているわけでもないです。

なので、コンピュータの指示した手を指す代理の人間が必要なのですが、この本を読むまで私は、その人選が大事だなどとは想像していませんでした。


でも確かに言われてみれば、誰でもいいというわけにはいかないでしょう。人間二人が何時間も向き合って、高い緊張状態の中で真剣勝負を続けるのです。

自分の前に座った人間が、勝負に執着を見せず、そわそわしていたり、超テキトーな態度で駒を動かしたり、もしくは、ちきりんのお面でもかぶっていたりした日には、とても集中できるものではありません。

だから、こういうことも棋士にとっては、対局前に決めておくべき重要な条件です。でもコンピュータにしてみれば、「そんなことは超どうでもいいこと」でしょう。


その一方、コンピュータ側の環境制限としては将棋会館の電力容量の話がでてきます。

当時の会館の電力容量は4000ワット。事前の話し合いにより、建物側の容量アップなどはせず、この範囲内で(実際にはギリギリではなく、一定の余裕が持てるようその7割までの電気容量の範囲で)将棋ソフト側は持ち込むコンピュータの台数を調整することになりました。


ここまで読んで、ちきりんは理解しました。

勝負は決して盤上の技能だけで決まるわけではありません。人間と将棋ソフトという今までになかった組み合わせで対局を行うには、それぞれにとって公平なルールを決める、という点が非常に重要であり、それがまた、けっこう難しいんです。


上に挙げたこと以外でも、たとえば、

・ソフト開発者は対局前に、将棋ソフトを棋士に提供する義務があるか

・持ち時間を何時間に設定するか

・対局相手がいつ決まるか

・ランチなどの休憩時間のルールや、(ソフトのフリーズ時など)トラブル時のルールはどうするか

などは、直接的に勝負の行方に影響を与えます。


今年、5対5の団体戦でプロ棋士として唯一勝利した阿部四段は、事前に貸し出された将棋ソフト「習甦」を徹底的に研究し、その“癖”を突くことで勝ちを手にしました。

「対戦ソフトが、ある局面になると無茶な動きを始める」という局面を見つけだし、そこに持ち込んだのです。

今回、彼が唯一の勝利棋士であったことを考えると、(様々な議論はあるでしょうが)この方法は明らかに有効なひとつの戦法です。

そしてこの戦法をとるには、事前にソフトを提供してもらうことが必須となります。(今年の第二回電王戦は、事前提供されたソフトとされなかったソフトがあるそうです)


将棋ソフトはこれまで、トップ棋士の棋譜を参考に、局面評価の能力を磨いてきました。ソフトは人間を研究し尽くしてくるのに、人間側は対局当日までそのソフトがどんな指し方をするのかさえ見られない。

人と人の勝負なら、それぞれがお互いを徹底的に研究して勝負に臨むはずです。なにが公平なのか、いろんな考え方があると思いますが、こういった条件設定は「どちらが勝つか」を大きく左右する可能性があるんです。


持ち時間の長さも重要です。持ち時間の短い勝負や、早指し将棋などでは、コンピュータが圧倒的に有利です。

今回の対局では4時間だったようですが、竜王戦や名人戦では8時間以上といった持ち時間が設定されています。

電王戦の持ち時間がどうであるべきか。朝から晩まで対局していても、トイレにいく必要もないコンピュータの持ち時間は本当に人間と同じでいいのか? 部屋に同席しているソフト開発者がトイレにいく時間を、ソフト側の待ち時間から引くべきじゃないか、みたいな議論だってあり得るかもしれません。


私が言いたいのは、ルールを人間側に有利に変えろ、ということではありません。単に、「勝負の行方を決める盤外の条件は意外にたくさんあり、かつ、それらの影響は無視できないほど大きい」ということが、とてもおもしろかったのです。

もっと言えば、日本将棋連盟とドワンゴは「人間がコンピュータに負ける日」のタイミングを、相当程度、コントロールできるということです。(ちきりん的には、ソフト開発者側の発言力は、あんまり大きくなさそうと踏んでいます)


対局形式の話もあります。今回は 5人対5ソフト の団体戦でしたが、これを他のタイトル戦のように、ひとつのソフトとひとりの棋士の 5番勝負や 7番勝負に変更することもできます。

これなら、万が一棋士がソフトに負け続けても、年間に最大一人しか負けません。タイトルホルダーが 3人いれば、「コンピュータが人間に勝つ」には最低でも 3年かかることになります。

だから「人間がコンピュータに負ける日」が何年後なのかと当てる(議論する)というのは、あんまり意味がありません。

だってそれって(ある程度は)コントロールできることだから。



誰がコントロールできるのかって?

もちろん“人間様”が、です。


つまりそーゆーこと。


そんじゃーね



楽天ブックスはこちら↓



<コンピュータ将棋 関連エントリの一覧>


1) 『われ敗れたり』 米長邦雄

2) 盤上の勝負 盤外の勝負 ←当エントリはこれです

3) お互い、大衝撃!

4) 人間ドラマを惹き出したプログラム

5) お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について

6) 暗記なんかで勝てたりしません

7) 4段階の思考スキルレベル

8) なにで(機械に)負けたら悔しい?

9) 「ありえないと思える未来」は何年後?

10) 大局観のある人ってほんとスゴイ

11) 日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ 

12) インプット & アウトプット 

13) コンピュータ将棋まとめその2

2013-05-18 『われ敗れたり』 米長邦雄

前日本将棋連盟会長、米長邦雄永世棋聖の『われ敗れたり』を読みました。この本、めちゃくちゃおもしろいです。

「おもしろい」というのは、「勉強になった」とか「米長さんってやっぱりスゴイ!」ではなく(いや、それもあるけど)、文字通り、吹き出すほどおもしろかったという意味で、読んでいて何度も声を出して笑いました。

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る


内容は、昨年 2012年の1月14日、米長氏がボンクラーズという将棋ソフトに負けた第一回電王戦についての敗戦記です。(氏はその年末=去年末に他界されています)

米長氏は、トップ棋士としてのキャリアはもちろんですが、その自由で破天荒な性格でも知られており、加えて「将棋界の経営者」としても様々な実績を残されました。そのひとつが、コンピューター将棋と積極的に関わっていくという決断だったのです。

皆様よくご存じのように、電王戦は今年の3,4月に第二回が行われ、昨年以上に大きな注目を集めました。そっちについては後日エントリを書く予定ですが、今日はこの本の中から最も笑えた箇所を紹介しましょう。以下、第一回 電王戦後の記者会見でのやりとりからです。


読売新聞記者(以下、読売) 「あと一つ確認なのですが、「電王戦」は、デン「ノ」ウセンと聞いていたのですが、デン「オ」ウセンではなく、デン「ノ」ウセンでよろしいですか?」


米長 「天王洲アイル」と同じでどう読むのかわかりませんが、デン「ノ」ウセンではないかと思います。しかし、あの子(司会)が読んだのはデン「オ」ウセンですけれども」


読売 「デン「ノ」ウセンと聞いていたのですが、司会者の方がデン「オ」ウセンとおっしゃっていたので・・・」


米長 「言葉を大事にする読売新聞ならではの質問だと思うのですが、(日本)将棋連盟というところは「どっちでもええやないか」という団体でございます。」 


(青字にしたのはちきりんです。以下すべて同じ)

 おもしろすぎでしょ・・・


共同通信記者(以下、共同) 「五対五で来年やるということですが、それで終わりなんでしょうか? それとも再来年、何か考えておられるのでしょうか?」


米長 「来年五対五の団体戦を行ったあとどうなるかはわかりません。わからないというのは、そのあと、世の中のというのはどういうことが起こるのか、想定外のことが起こるのが勝負の世界だからです。(中略)」


共同 「わかりました。ということは来年までが電王戦で、そこで一応終わるということでよろしいでしょうか?」


米長 「そうじゃありません。今年は私が指し、来年は五対五でやる。そのあとは未定である、ということです。電王戦がその後ずっと続くかもしれないし、それで終わりかもしれない。わからない。あなたの結婚生活と同じです。「続くだろう」ということでやっていく、ということです


 ・・・!



これらを単に、米長氏のぶっちゃけた性格やユーモアセンスを示すエピソードと捉えてもいいのですが、この本を通して読んでいると、それだけでもないように感じられます。


言うまでもないことですが、将棋のタイトル戦の多くは、新聞社がスポンサーをしています。

・竜王戦=読売新聞社

・名人戦=毎日新聞社、朝日新聞社、大和証券グループ

・王位戦=北海道新聞社・中日新聞社(中日新聞・東京新聞)・西日本新聞社と神戸新聞社・徳島新聞社

・王座戦=日本経済新聞社

などなどです。

つまり新聞業界は将棋界の大スポンサーであり、米長氏はスポンサーされる側の日本将棋連盟の会長なんです。



それを理解したうえで、さらに別の箇所からの引用をお読みください。

「コンピュータと人間とはどちらが強いのか」「コンピュータの将棋はこのあとどうなるのか」ということ以上に、双方向性のメディアと既存のメディアとの大きな違いということを、私は今回の対局を通じて、印象づけられたのです。


記者会見ではテレビや新聞といった既存のメディアの記者と私との一問一答が行われましたが、私に対する底意地の悪い質問もいくつかありました。


それに対する当意即妙の受け答えに対して逐一、視聴者の方が「よく言ってくれた」「その答えを待っていた」というコメントをくださり、米長にエールを送ってくださったのです。

最後にでてくる「エールをおくってくださった視聴者」とは、ニコニコ生放送で電王戦を観戦した視聴者を指しています。このようにこの本には、「既存のメディア」と、ニコニコの視聴者(メディアではなくて)を対比する記述が数多くでてきます。

ニコニコ動画は双方向性です。対局終了後から約2時間で5万人増えたのもすごい。記者会見が面白かったのでしょう。私の初手△6二玉に理解を示した人が圧倒的で、翌日の新聞の紙面とは大きく違います。(中略)


しかし、負けたものは仕方がない。ニコニコ動画のファンと一部新聞記者とはずいぶん隔たりがあるようです。


あと、この本の中には「お金」の話も頻繁にでてきます。日本将棋連盟はスポンサー契約を受けて運営されてるわけですから、昨今の新聞社の業績について言及するまでもなく、そんなに懐が温かいわけではないでしょう。

だから本の中にも赤裸々に「対局料はいくら」とか、「そのうち○○円を棋士に渡した」みたいな話がでてきくるのです。羽生三冠がコンピュータ将棋と対戦するならその対局料はいくらであるべきか、という計算などは、ものすごくロジカルで納得できるものでした。

いずれにせよお金に拘るのは、日本将棋連盟の会長、すなわち将棋界の経営者であった米長氏にとって、当然のことだったと思います。


だから、今後の電王戦をどうするかに関しても「お金」の問題があると氏は考えます。

今回の対局までは、次回以降の電王戦は、一年に一局ずつ、五年間で五人のプロ棋士が五台のコンピュータと対戦するということで決まっていました。しかしながら、当日、私の対局が終わったあと、記者会見がはじまるまでの一時間ほどの間の打ち合わせにおいて、急遽これを変更することに決めたのです。(中略)


五年で五局ではなく、来年、一度に五対五の対戦を行う団体戦形式、ということになりました。これは何よりもスピードを優先した結果です。五年もの時間をかけるよりも、一気に五対五の団体戦を行う。それこそファンが求めていることではないか、ということで意見は一致しました。


しかし当然、一気に五戦やるには対局料その他の金がかかります。


これは、去年の電王戦の後、今年の電王戦の団体形式が決まった時の話を振り返った記述です。このように、米長氏の頭に浮かんだ(唯一の? もしくはもっとも難儀な?)問題は、お金がかかる、そのお金はどーすんだ? ということでした。

今年は、現役を引退した自分がひとりでコンピュータと対戦したけれど、来年は現役棋士が、しかも一度に5人も対局するとなると、相当の金が必要となる。それが彼の懸念だったわけです。


そして、その続きの文章がコレです。

私の懸念にたいして、川上会長が「お金は私が出します」という一言をいってくださった。


川上会長は、電王戦をスポンサーする株式会社ドワンゴの創業会長です。米長氏の「私の懸念」であったお金の問題は、おそらく川上会長にとっては、解くのがもっとも簡単な問題だったんじゃないかな。というか、問題であったかどうかすら微妙です。


最後に、あとがきの最終段落からも引用しときましょう。この本のほぼ最後の文章です。

当日のニコニコ動画のコメントや、後日のツイッター、ヤフーのニュースなどで、「対局しているとき、きりっと背筋が伸びていて、とてもその年齢に思えない」「かっこいい」という書き込みがたくさんあり、うれしく思いました。


自分を褒めてくれたとして、言及されてるメディアは以下の3つです。

・ニコニコ動画のコメント

・後日のツイッター

・ヤフーのニュース




どんだけ?



って、こういう時に使う言葉だったんだなと、あらためて理解できました。


そんじゃーね。


上の画像は楽天ブックスへのリンク。アマゾンはこちら→ 『われ敗れたり』




<コンピュータ将棋 関連エントリの一覧>


1) 『われ敗れたり』 米長邦雄  ←当エントリはこれです

2) 盤上の勝負 盤外の勝負

3) お互い、大衝撃!

4) 人間ドラマを惹き出したプログラム

5) お互いがお手本? 人間とコンピュータの思考について

6) 暗記なんかで勝てたりしません

7) 4段階の思考スキルレベル

8) なにで(機械に)負けたら悔しい?

9) 「ありえないと思える未来」は何年後?

10) 大局観のある人ってほんとスゴイ

11) 日本将棋連盟の“大局観”が楽しみ 

12) インプット & アウトプット 

13) コンピュータ将棋まとめその2

2013-05-14 結婚はオワコン!?

下記は先進国における、「全出生数に占める、婚外子の出生数比率」、すなわち「正式には結婚していない母親から生まれた子供の比率」です。

その比率が、1980年から2008年までの約 30年でどれほど変化したか、よーくご覧ください。


<婚外子の比率の変化>


スウェーデン  39.7% → 54.7%

フランス    11.4% → 52.6%

------------------------------------------------

イギリス    11.5% → 43.7%

オランダ    4.1% → 41.2%

米国      18.4% → 40.5%

ドイツ     15.1% → 32.1%

スペイン    3.9% → 31.7%

------------------------------------------------

カナダ     12.8% → 27.3%

イタリア    4.3% → 17.7%

------------------------------------------------

日本      0.8% → 2.1%


(ドイツは1991年→2008年 イギリスは、1980年→2006年、カナダ、イタリアは1980年→2007年、その他は1980年→2008年 データ:先進各国の婚外子の比率」)


上記データには、2つの注目点があります。

ひとつは、「西欧の先進国では、生まれる子供の半分近くが婚外子になりつつある」ということ。

日本ではまだ「結婚が出産の前提」と考える人がたくさんいますが、他の先進国では既にそうではありません。


日本ではたった 2%しかいない婚外子が、30%、40%、50%などといった比率になっているのです。

これは「西欧と東洋の違い」みたいなぼんやりした要素で説明できる差ではありません。

背景には明らかに、「結婚していない女性が子供を産む」ことへの法律的な保護、経済支援、そして福祉制度の違いがあります。


なかでもスウェーデンとフランスの婚外子比率が特に高いのは、この二国には社会的に受け入れられた「事実婚」のシステムがあり、

事実婚カップルから生まれた子供でも、結婚した夫婦から生まれた子供と同様に保護する包括的な制度があるからでしょう。

この二国はよく「少子化を克服した国」として紹介されますが、その裏には「制度的な事実婚の認知」が存在しているのです。


もうひとつ注目すべきは、1980年段階では、オランダ、スペイン、イタリアのように、婚外子比率が一桁と、非常に少ない国も存在していた、という事実です。

というか当時は、スウェーデンとアメリカ以外では「婚外子は 10人に 1人」しかいませんでした。

しかし、それらの国でも過去 30年で婚外子は大幅に増えています。

スペインやイタリアは婚前交渉さえ認めないカトリック教徒の多い国で、婚外子は宗教的な観点からも認められにくい風土です。

それらの国でさえ、状況はここまで劇的に変わってしまいました。


これって何が起こってるのか、わかります?


西欧先進国においては、すでに「結婚」という制度は崩壊しつつある、んです。


結婚は過去の制度となりつつあり、もはや 100年後に残っているとはちょっと思えないよねって感じの制度なんです。

つまり、今どき「婚姻率を高めよう」なんて、完全に時代に逆行してるんです。


みなさん、“ 3世帯同居”って聞いたら、どー思います? 

「ああ、うちも昔はそうだったよ」って感じでしょ。

「 3世帯同居が減ってるって? それは問題だ! 3世帯同居がどうやったら増えるか、みんなで知恵を出し合って問題を解決せねば!」って思います?

思わないよね。


結婚制度も同じです。時代に逆行してまでそんなオワコン(=ブームの終わったコンテンツ)である制度を、再普及させる必要はありません。

結婚がいったいいつ頃「みんながするもの」になったのか知りませんけど、今や「社会的な役割を終えつつある制度なのだ」ってことに、みんな早く気が付きましょう。


★★★


西欧先進国に比べて日本の婚外子がこんなに少ない理由は、日本女性が「ぜひとも結婚してから子供を産みたい!」と考えているからではありません。

それは単に、「結婚せずに子供を産める環境が整っていないから」です。

婚活している女性の中には、「子供を産める限界年齢が近づいているからすぐにでも結婚したい」と焦っている女性がたくさんいます。

つまり彼女らは「人生のパートナーを探している」のではなく、「自分が子供を産むために必須となる環境を整えたいから」婚活してるんです。

婚外子がごく普通になれば、彼女らの一部は(結婚をとばして)出産に向かうのではないでしょうか?

結婚相手が見つからないから、子供が欲しいのに産めない。そういう女性が子供を産めるような社会にすれば、出生率はかなり上がるはず。


ちなみにここでいう「結婚してなくても安心して子供が産める環境が整っていない」とは次の 2点のことです。

1.法制度的に婚外子は不利益を蒙る

2.シングルマザーが子育てするのは、経済的にとても厳しい


世間の目とかもありますが、それは上記が変われば改善されます。

他の先進国のように「子供の半分は婚外子」になれば、子供がいじめられるとか本人が気にするという状況も減じられます。

法律を変え、シングルマザーを経済的に手厚く保護すれば、日本でも数十年で(=みなさんの子供の世代では)婚外子が 3割を占めるようになるでしょう。

そしてその過程で出生率が上がり、少子化は改善されていくのです。

「子供を産みやすい社会」とは、そういう社会なんです。


★★★


すでに日本でも、高い経済力をもつ女性の中には自らシングルマザーを選ぶ人も増えています。

「結婚はしなくていいけど、子どもはほしい」 そういう女性は日本にもたくさんいるんです。

とはいえ現時点でそういうことができる女性は、まだまだ少数。一人で働きながら子供を育てるには相当の経済力と強い精神力が必要です。


でも上のふたつの環境が変わり、「友達はみんな結婚してる!」ではなく「友達はみんな、結婚せずに子供を産んでる!」になれば、「自分もそうしよう!」と考える女性は相当数いるでしょう。

てか、今の時点で夫と子供がいる女性でさえ、「子供がいない人生なんて考えられない! 耐えられない!」けど、「夫がいなくなっても・・・まあね」って人はたくさんいるだすよ。


もっといえば、デキ婚の増加は、日本でも同じ意識が広まっていることを暗に(しかし非常に強く)示しています。

「子供ができたら結婚するけど、(子供もできてないのに)結婚するってことの意味がよくわからない」

という感覚に皆がなってきてるから、デキ婚が増えてるんです。


★★★


それにしても、最近あべっちから出てくる少子化対策はホントにおもしろい。


彼らは

・たとえ選択制であっても、夫婦別姓なんて絶対反対である

・保育所を増やすくらいなら、3年の育児休暇をやるから、家で子供の面倒をみろ

・「女は早く結婚しないと子供が持てないぞ」と紙に書いた手帳を女性だけに配るから、よく読んどけ

とは言うけれど、


・妊娠した時点で保育所の入所希望を出しておけば、一年後までに保育所を整えておきます! とも、

・子供のいる男性の育児休暇の取得実績が低い企業にはペナルティ与える! とも

・シングルマザーでも子供が育てられるよう、経済的な優遇措置を大幅に拡大する! とも

・婚外子に関する法律的な区別を一切なくすから、結婚前提にせずに子供つくってOK!

とも、ぜったい言いません。


なぜだって?


だって彼らが目指しているのは、子どもを増やすことではなく、“昭和”に戻ることだからです。 Back to the Future or to 昭和?

下手すると、育児休暇を3年にした暁には、保育所を減らせるだろうくらい考えてそうです。

「やっぱり3歳までは、子供は母親が育てるべきだろ。その後に、どうしても働きたいというなら働けばいいけどね」って感じ?


平成の次の年号が “昭和 2.0” だったりしないことを祈りたい。

いろんな意味で古すぎです。


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/

2013-05-12 これ以上、女性の人生を計画的にしてどーすんだか

少子化対策として「女性手帳」を作って、若い女性に持たせようという話がでています。

政府は7日、少子化対策を議論する作業部会「少子化危機突破タスクフォース」(座長・佐藤博樹東大大学院教授)の会合を開き、

晩婚化や晩産化が進む中、若い世代の女性向けに妊娠・出産の知識や情報を盛り込んだ「女性手帳」(仮称)の導入を議論、委員からは異論などは出なかった。


女性手帳は「妊娠や出産の適齢期を知らない人が多い」との指摘を踏まえて検討されたもので、女性の将来設計に役立ててもらうのが狙い


作業部会の下で具体的な妊娠・出産支援対策を討議してきたサブチームが導入を提案した。


共同通信の元記事より抜粋、一部を赤字にしたのはちきりんです)


「妊娠には適齢期がある」ということは、もっと広く知られるべきでしょう。ですが、この案にはやっぱり「なんで女性だけ?」と思えます。

そもそも「少子化は、女性が将来設計をきちんと考えていないから起こってる」という発想(上部赤字部分)自体が、現実と真逆です。

寧ろ少子化は「女性が将来設計を真剣に考えすぎているからこそ」起こってる。

なのに手帳まで持たせて、これ以上、女性に人生を計画させてどーすんだか。


就職活動時だって、「仕事と家庭の両立が可能か」とか「育休の取得実績は?」、「保育サービスへの補助はあるか?」など熱心に質問してるのは、圧倒的に女子学生ばかり。

彼女らは若い時から、ものすごく真剣に将来設計を考えてる。

彼女らが、社会の現状をよくよく調べ、必死で考えたうえで出てきてるのが「まずはキャリア」であり、結果としての出産年齢の高齢化なわけです。


たしかに(年齢と妊娠力の関係についての)情報の欠如は存在してる。

だからといって新たな情報を与え、問題をより難問化した上で、更に女子にだけ「もっと考えろ」と言うなんて、ちょっと酷すぎる。

やるとしたら、「ナンも考えてない男子にこそ手帳を持たせろ」なんじゃないかと。


★★★


実際の話、たとえ妊娠のメカニズムについての知識が広くいきわたったとして、親になる心の準備がなかなかできないのは、女性よりむしろ男性なんじゃないでしょうか。

高齢になれば妊娠が難しくなるという知識が広まれば、「先に出産・育児、あとからキャリア形成をしよう」と考える女性は、結構な数いるんじゃないかな。

最近は専業主婦を 10年、15年と続けた後、ビジネス世界でゼロからキャリアを積む女性の例も増えています。

そもそも 70歳まで働く時代になりつつあるのに、「35歳からキャリアを積むなんて遅すぎる」はずがない。

育児中だって勉強は続けられる。だったら早めに子供を産み、育てながら働き始め、子どもが手がかからなくなったら本格的に働く! みたいな道を選ぶ女性はそれなりに存在するでしょう。


けれども、彼女らが「じゃあ 25歳から子供を産みたい!」と思った時、大きな障害になるのは「男性側のパパになる覚悟」です。

なぜなら、女子が 25歳から出産となると、パートナーの年齢もほぼ同じくらいというケースが多いから。

このデータを見ればわかるけど、お見合い中心時代と異なり、恋愛結婚の多い今は、夫婦の年齢が非常に近くなってます。

てか、既に 23%は妻のが年上!なわけで、若くして女性に出産させたいなら、男性も若くしてパパになってもらうしかない。


しかも若い女性ほど、パートナーの年齢も若そうじゃない? 

働き始めれば、年上の人とも知り合うけど、学生時代に出会った人とそのまま結婚、出産というケースでは、相手は同級生か、せいぜい数歳上くらいでしょ。

今、20代で子供を産んでいる人ってのは、ほとんどそういうパターンなんじゃないでしょうか。

そういう状況の中で、女性が「私は早めに結婚して子供産みたい!」と考えたら・・・パートナー男子にも、20代でパパになる覚悟が必要になるわけです。


なんだけど、20代後半、30代前半がキャリア形成のキモ(かつ、遊びたい盛り)なのは男性も同じ。

女性の出産適齢期に合わせて、自分も若くしてパパとなる! という心の準備ができる若い男性はそんなに多くない。というか、女性よりさらに少ない気がする。

なので、手帳を配りたいなら、むしろ男性に配ったらいーんじゃないかな。

大学生に男性手帳を持たせて、20代からパパになる心の準備を始めてもらえばどう?

男性の多くが「オレは20代でパパになりたい!」って考えるようになったら、自然と女性の出産年齢も下がりますよ。


まっ、それにしても・・

さっきのデータにもあったように、昔、多くがお見合いで結婚してた時代って、夫婦の年の差が今より大きかった。

これって、男性が結婚するのは「家族を養う仕事力が付いてから」であり、女性は「子供を産みやすい若い頃」に結婚するという、超合理的な制度だったわけです。

貧しい時代というのは、「生きるため」、「種を保存するため」の仕組みが、ホントにきれいに埋め込まれてるんだなって、いつも感心します。


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね!


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/


★★★ 読者の皆様からのコメント (57) ★★★




↑そういうコト


↑これは非常に鋭いと思った


↑夫婦の年齢差を大きくする方向の施策は、効果大きそう


<不妊治療について過去に書いたエントリです。ご参考まで>

不妊治療に関する課題リストアップ

不妊治療関連問題の整理

赤ちゃんが欲しい人の本を読んでみた!

こちらに書いたように私の提案は、「女性だけに女性手帳を配る」のではなく、『男女とも、高3か大学で教える」です。ただし、「男女のどちらかにしか配る予算がない」とでもいうなら、男性に配ったほうがいいと思います。


↑こういうこと(この会議の主催や女性手帳)に税金使って、その一方で消費税上げますって言われるのはせつないよね


↑だからこそ、この問題は女性の問題ではなく、社会の問題なのですよん


↑小中学校だと現実味がもてないと思うのですよね。私は大学で教えるべきと思ってます


↑おっしゃるとおりで、「妊娠には適齢期がある」という知識が普及すればするほど、それ以下の年齢の女性には役にたっても、今の時点で35歳以上の女性には、むしろ厳しい状況になりかねない、という問題もあります。


↑まさに、こういう体験談を「男性手帳」に載せればいいと思います!


↑↓この上下のコメントを見て、早めに結婚・出産・育児をすることで、早期引退含め、多彩な人生設計が可能になるという、(早期出産の)メリットについて、男女ともにもっと広めたらいいのにと思いました。


↑男性には「もっと遊べばいいのに」と言い、女性には「早めに子供産め」というのは通らないよね、というお話





↑ ちきりんはコレ、今後はマジであり得ると思ってます。


↑これは間違いなく、ひとつの解の方向


↑そのとおり。キャリアを中断しても就職・転職できるようになれば、早めに生めるようになる。男性だって、「1年は育児に専念してから、転職」がありえる。


↑これも鋭い。女性のほうがよく理解しており、考えているからこそ、肉食系的に(積極的に)動かざるを得ない。


↑でしょ! 男性がそうだと、女性だけで覚悟決めて生むなんて無理じゃない??


↑女性だけに手帳配ったりしたら、まさにこういうことが起こる!

2013-05-09 職業を創るという偉業

兵庫県の灘にある兵庫県立美術館で開催中の「レジェンド・オブ・メカデザイン 超大河原邦男展」に行ってきました。

かなーり、感動したよ。


f:id:Chikirin:20130503021155j:image:w360



大河原邦男さんは、1970年代から今に至るまで日本のテレビアニメの主要カテゴリーである「ロボットアニメ」で活躍された“メカデザイナー”です。


どんなロボットのメカデザインを担当したんだって?

オフィシャルサイトから抜粋するとこんな感じ↓ (抜粋ですよ。全部じゃなくて)、

1970年代

科学忍者隊ガッチャマン

ゴワッパー5ゴーダム

タイムボカンシリーズ ヤッターマン、ゼンダマン

無敵鋼人 ダイターン3

機動戦士ガンダム

ザ☆ウルトラマン


1980年代

無敵ロボ トライダーG7

タイムボカンシリーズ タイムパトロール隊オタスケマン、ヤットデタマン、逆転イッパツマン

とんでも戦士ムテキング

最強ロボダイオージャ

ドラえもん・のび太の宇宙開拓史

未来警察ウラシマン

銀河漂流バイファム

機甲界ガリアン

機甲創世記ドラグナー


1990年代

からくり剣豪伝ムサシロード

機動戦士ガンダムF91、機動舞闘伝Gガンダム、機動戦士Vガンダム、新機動戦記ガンダムW、第08MS小隊、X

疾風!アイアンリーガー

勇者警察ジェイデッカー

黄金勇者ゴルドラン

勇者ガオガイガー


2000年代

機動戦士ガンダムSEED & SEED DESTINY

ヤッターマン


すごー!!


どの年代の人もひとつくらい見たことあるのでは?

ちきりんもヤッターマンシリーズのおもしろロボットが大好きでした。「そーか、あーゆーのを考えていた人なのねー」って感じで今回の展示を見始め、あらためてその素晴らしさに感動しました。

展示してあるのは、大河原氏直筆のメカの設定資料ということで、鉛筆書きの設計図からカラーのイラスト原画までいろいろ。ロボットが合体するときの仕組みや、変体(ロボットから乗り物になったり)の動きなどが細かく書き込まれています。


ちきりんはロボットメカに詳しいわけでもないし、大河原さんのことも今回初めてきちんと知ったようなものなんですが、それでも観ていて「すげー!!」って感じでした。

もとからのメカファンの人にはすばらしい展覧会なんじゃないかな。ショップでは「展覧会限定ロボット」とか申し込んでる人もいましたよ。数万円とかで・・


f:id:Chikirin:20130503021156j:image:w360

大河原邦男(おおかわら・くにお 1947- )は主にアニメーション作品に登場するロボットなどをデザインするメカニカルデザインという仕事を日本において確立した、生きた伝説とも呼ぶべき存在です。

(展覧会開催概要冒頭にて)


今回のを見ていてわかったのは、「アニメのメカデザイン」という職業(プロフェッション)は、大河原さんがスゴかったから出来た(=職業として認知された)」んだってこと。

これはスゴイことよね。


縄文時代から今まで、職業ってものすごく増えているはず(江戸時代と今を比べても激増のはず)と思うんだけど、新しい職業ってどうやってできるんだろう?

「新しい機能」は自然にできてくるんだけど、それが「独立した職業」となるプロセスにはいくつかのパターンがありそう。たとえば


・大組織が分業(もしくはアウトソーシング)を始め、特定機能が専門職化する

・新技術や規制変更で、突如として新たに膨大な社会ニーズが発生し、それに知見をもっていた人が専門家と呼ばれ始める

・資格が創設され、これまで注目されていなかった機能が独立職業として認知される

・アマの活動が、プロ化されることで職業ができる

・自分が得意なことについて、自分で「オレは○○だ!」と名乗る(←これは最近の流行りに見えますが、女性誌では今までにも数多く存在してました)

などなど。


大河原さんの場合は、これに加え、

・特定個人が卓越した才能を発揮してそれだけで食べていけるようになり、それに憧れる人が増えて、職業化する

ってパターンですね。


個人で新しい職業を創る。それくらい尖がった仕事をする。

すごいことだと思いました。


そんじゃーね!

2013-05-07 マンションの地震保険とか意味不明

この前、分譲マンション住まいなのに地震保険に加入してる人がいて、ちょっと驚きました。

マンションの地震保険って、

・管理組合で入る共用部分向けの地震保険と、

・個別の家庭が入る占有部分のための地震保険があるんですが、

どっちにしろ「なんでそんなもんに入ってんの?」って感じです。必要性があるとは思えません。

火災保険(&家財保険)には、もちろん私も入っています。でも火災保険と地震保険は、全く性格が違います。


きちんと理解したほうがいいのは、次の3点です。

1)地震はエリア災害であり、個別災害である火災とはまったく異なる


2)分譲マンションの管理組合には、一定レベルを超える意思決定能力はない


3)地震保険が支払われる全壊・半壊が起こったら、「修理や建て替え」なんてせず、他所に引っ越したい人もたくさんでてくる。もちろん自分自身も、そうする可能性がある。


これらの理由により、分譲マンションの区分所有者が地震保険に入るというのは、ほとんど意味がないんです。


★★★


ひとつずつ説明しましょう。まず、火事は個別災害ですが、地震はエリア災害です。

火事で自分の部屋が丸焼けになっても、修理すれば住めます。修理も、業者に依頼すればすぐに始まります。

ですが、地震で鉄筋コンクリ建ての(しかも新しい)マンションが半壊や全壊になる時は、その地域全体が甚大な被害を受けています。

したがって火事の時のように、リフォーム業者に電話したらすぐに見積もりに来て、来月から工事が始められる、なんてことにはなりません。


通常、大規模な地震が起こると、まずは道路や鉄道、電柱や水道管など、社会インフラの復旧が優先されます。

神戸の震災の場合、地震の数日後には住宅地の広い範囲に「開発制限」がかかりました。東北でも同様の例があります。

これはバラバラとした自宅再建を抑制し、区画再設定や道路拡張を行うため、一般住宅エリアの工事に制限を設けるもので、おそらく東京でも大地震があれば、直後にこの指令が出ると思われます。


もはや大都市では、大規模な地震でもなければ、首都高のルート変更や古い地下鉄駅の全面作り直しは不可能です。

だから大きな地震が起これば、自治体はそっこーで開発制限を出し、半年から場合によっては一年以上をかけて、まずは公共インフラの再建を進めます。

一般住宅エリアの開発制限が解除されるのはその後であり、その間、該当地域では勝手な工事はできません。


加えて「罹災証明」の入手にも時間がかかります。

被災地の自治体は、申請のあった家やマンションの被害をひとつひとつ個別に見に行って被害レベルを判定し、「全壊」「半壊」「一部損壊」といった証明書を出します。

支援金や補助金の分配、さらに税金の免除なども、この罹災証明に基づいて決定されます。

ところが、これに時間がかかるんです。

なぜなら罹災証明を出す役所は、大災害が起こるとそれ以外の仕事、たとえば避難所の運営から仮設住宅の建設まで、大忙しだからです。


被災したすべての住宅に罹災証明が出るまで、たいして人口の多くない地方でさえ数ヶ月かかっているのが現実ですから、

大人数が住む東京で大地震があったら・・・いったい罹災証明がもらえるまで、どんだけの期間がかかるのでしょう?

また、最初の判定が出た後、1割から 2割の家は判定に不満として再判定を訴えます。この場合はさらに時間がかかる。

当たり前ですが、罹災証明がでる前に建物を直す工事を始めることはできません。そんなことをしたら、その後の補助金も税金免除も受けられなくなります。


このように、地震でマンションが壊れた場合、建て直しに取りかかれるのは、相当に先の話となるのです。

にもかかわらず、地震保険は極めて高額です。

東京など地震多発地帯の場合、火災保険の半額の補償額にたいして地震特約の保険料は倍! つまり、同じ補償額にたいして火災保険の 4倍も高額なんです。

しかも地震保険でまとまった保険金が支払われるのは、建物が半壊か全壊の時だけです。


この意味わかります?

保険金が支払われるのは、事実上「住めない」状態になった時だけだってことです。

だから、今の家に住みながら保険金が出るのを待つ、みたいなことはできません。

状況的には、仮設住宅か避難所か、もしくは遠い親戚やホテルなど、どこか別のところに住みながら、保険金の支払い請求をするってことです。


★★★


しかも全壊や半壊のマンションを建て直して再び住めるようにするには、順調に進んでも 3年はかかるでしょう。

なぜなら前述したように

・まずは地域のインフラ復興が優先だから、

・罹災証明にさえ相当の時間がかかるから

・+ マンションには戸建てにはない特別の事情があるからです。


マンションの管理組合というのは、10万円ほどの予算で入り口ドアを交換するだけでも、住民総会を開き、住民からアンケートとって、複数業者から見積もりとって、また理事会で話し合ってと、やたらめったら時間がかかります。

ましてや鉄筋コンクリの建物が全壊だの半壊だのするほどの地震が起こったとき、「翌月に管理組合の臨時総会が開かれて、過半数の住民が出席して総会が成立し、超高額な修理を進めるための設計と工事プランに過半数の住民が賛成してすんなり採択される!」なんてありえません。


鉄筋コンクリのマンションに地震保険が支払われるような事態=巨大地震にその地域が襲われた場合、マンションにはもう住めませんから、

住民の多くは避難所や仮設住宅に移り、なかには遠方の親戚宅に避難する家庭も現れます。

管理組合の理事メンバーらが遠方に避難して(もしくは被災して)連絡がつかないかもしれない。

そうすると、まずは管理組合長を選び直す必要がでてきます。


わかるでしょ?

地震から数ヶ月の間に組合総会を開くということ自体、ものすごく難しいんです。

避難してる人はマンションに住んでないんだから、総会の成立に必要な出席数(や委任状)さえ確保できない。

てか、総会の招集通知を全戸に届けること自体、無理ゲーです。


それに鉄筋コンクリマンションが全壊・半壊になったら、たとえ地震保険に入っていても、保険金と積立金だけで修繕や建て直しが全額カバーできるケースはほぼありません。

たとえば「修繕建築費の半分」が地震保険でまかなえても、残りの半分は住民がお金を出し合わねばなりません。

一戸あたり、最低でも数百万円(積立金が少ないマンションなら一千万円を超える)お金を、どの家もみんな、すぐに出せたりするんでしょうか? 大地震の直後に? 


被災して何もかも無くしたその時点で「一戸あたり負担額は 500万円か。じゃっ、来週振り込みまーす」みたいな人、あなたのマンションにはどんだけ住んでます? 

管理組合で「誰がいくら出すのか」という合意ができないと、修繕も建て替えも始められません。


それだけ大きな地震に見舞われると、数ヶ月は余震も続きます。

そうなると、子供の学校のために引っ越す人や、これを機に施設に入る高齢者も出てきます。

元気な人でも「マンションの建て替えに 3年くらいかかりそう」となれば、「別の場所に新しいマンションを買いたいので、ここは更地にして売却し、その代金を分配してほしい」という人も現れるなど、更に議論はまとまらなくなります。


こうして、「建て直すか、否か」が決まらない間、地震保険は塩漬けです。

管理組合が保険金を受け取っても、被災住民の生活支援に使えるわけではありません。

「もうこのマンションには住まない」と決断した人は、「地震保険がおりたら皆に分けて欲しい。当面の生活費に使いたい、次の住居を確保するために使いたい」と主張するでしょう。

しかし、

3年かかってでも建て直したい人は「地震保険で支払われた資金は、当然、このマンションの建て直しに使うべきだ!」と主張します。


そんな意見対立の中、非常に高い確率で機能麻痺に陥っている管理組合が、地震保険の給付金の使途に関する合意を形成できると思います? 

私の予想では、大半のマンションにおいて保険金は相当に長い間、塩付けにされると思います。

そして、建て直しまでの数年を待ってでも再び同じマンションに住むという強い決意を持つ人以外は、地震保険金の恩恵を受けられないでしょう。


そもそも私はマンションの管理組合に、日常的なメンテを粛々とやる以上の意思決定能力があるとは思っていません。(これがわからない人は、まず管理組合の理事長を早めに経験したほうがいいです)

平常時に欠陥施工が見つかったマンションの建て直しに、だいたい何年かかっているか、いちど調べてみてください。

欠陥が見つかってから 1年で立て直しが終わるマンションなんてほとんどありません。

ゼネコンや販売会社に 100%の過失がある場合(=住民が追加資金を求められない場合)でも、数年かかるのが普通です。

ましてや大地震が起こったら、必要な期間は軽くその倍を超えるはず。


もちろん、

住民同士がものすごく協力的で、ほぼ全員がその場所に住み続けたいと考え、

住民に(住宅ローンとは別に)多額の追加出資をする経済的な余裕があり、

自分も被災してるのに、あれこれ文句ばっかり言う住民をまとめてガンガン働いてくれるスーパーパワフルな管理組合のリーダーがいれば・・・

地震後、3年目くらいには新しく建て直せるでしょうけど。


★★★


以上は、マンションの管理組合で入る共用部分の地震保険がいかに無意味かという話ですが、個々の区分所有者が入る専有部分の地震保険も意味がありません。

なぜなら、そんな大きな地震が起こった時、上記に書いたような理由で管理組合がマンションの共用部分の修理に乗り出せないのに、自分の部屋だけ修理できても、そんなとこに住めないでしょ? 

エレベーターや給水施設も壊れて使用禁止になったままですよ?

多くの人が避難してしまい、住民も減って管理費も支払われず、傾いたマンションの、自分の部屋だけ自分の地震保険の保険金で修理して・・・住み続けます??


ちなみに地震保険の典型的な営業トークには「火災保険で保険金が払われるのは通常の火事の時だけです。地震由来の火事の被害に関しては、地震保険に入ってないと保険金がでません」ってのがあります。

確かに神戸や東北でも、大きな地震が起こると火事が発生し、大規模な延焼が起こりました。

でもさ。

そういう火事が起こるほどの地震が起こったら、さっきから書いてるように「エリア自体が機能麻痺」になるんだってば。

マンションの共有部分には(地震由来の火事の)被害が及んでないのに、自分の部屋だけ地震由来の火事で焼けちゃいました、なんてことになる? 普通、マンションの共有部分だって火事で被害を被るでしょ?

それを修理しないとマンションには住み続けられません。そして共有部分を修理するにはめっちゃ時間がかかる。だから地震保険には(高い保険料に見合う)意味がないんです。


結論からいえば、地震保険が下りるような状況、すなわち、半壊か全壊なんていう状況になったら、分譲マンションは基本は「終わり」だと考えた方がいい。

それに大災害に遭うと、誰だって日々の生活がぐちゃぐちゃになります。ましてや家族の誰かが被害に遭ったりしたら?

そんなときに、現状確認をしてもらい、書類を揃えて・・みたいな、受け取りに時間のかかる保険に入っておく意味ってあるんでしょうか?


保険って、保険料を払ってる人は多いのですが、「保険金を受け取ったことがある」人は多くありません。

保険金の受取りは、相当にめんどくさいプロセスです。

あの手続きを何回か経験すると、現金を貯金にしておいて備えられる範囲なら、ぜったいに貯金のほうがいいとわかるはず。

結局のところ、ものすごい高レバレッジ(数千万円の死亡保障の定期保険など)で、「少々手続きが面倒でも、ものすごい倍率で保障が受けられる」もの以外は、保険なんて意味ないんです。


「せっかく買った新築マンションだから、たとえ大地震が来ても、地震保険をかけておけば安心!」と思ってるとしたら・・それはちょっと想像力なさすぎです。

実際には、マンションの築年数が新しければ新しいほど、地震保険に入る意味はありません。

なぜなら、新築のマンションが半壊するような地震が起こるとしたら、それは関東大震災並みの地震だからです。

すぐに管理組合の総会を開き、保険をもらって建物を再設計して立て直して同じ場所に住みましょう、みたいな話にはなりません。

そんなもん入らずに、地震保険料分を貯金として貯めておき、さっさと当面の生活を立て直したほうがよほど賢いです。

貯金なら、関東が壊滅しても関西に移動すれば、そちらの ATMから自由にお金が引き出せます。使途も自由、誰かと話し合う必要もありません。


分譲マンションを買って、「地震保険に入るべきか?」とお悩みの方は、まずは早めに管理組合の役員に立候補し、大災害が起こった時に組合としていったい何ができそうか、身をもって理解することをお勧めします。


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

 そんじゃーね


http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/

2013-05-05 「ちきりんぱーそなる」からのセレクション

先日は「Chikirinの日記」に関して、「読者が選ぶベストエントリまとめ」をお送りしましたが、私はもうひとつ、「ちきりんぱーそなる」というブログも書いています。

こちらには食べたモノや日常の雑感、おすすめグッズの紹介など、軽めのエントリを書いてるんですが、本体ブログと違い、あまり過去エントリを紹介する機会がないので、今日はいくつか(てきとーに)ピックしてまとめてみました。

GWもまだあと二日も休みがあるしね。どうぞお楽しみください。



・過去10年くらいで一番、恥ずかしかった体験はコレ。。

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20110126


・名言シリーズ)ダイエットとは・・

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20110304


・こんな靴履いてます・・・

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20110520


・ちきりんのお面コレクション

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20111123


・おばさん向け通販はマジでヤバい!

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20101210


・古都のスイーツ

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20110801


・ちきりんの生まれた産婦人科はここです。感謝!

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20110507


・お気に入りのお皿

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20101004


・コンビニで大人買いした!

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20120218


・自分で作ってる料理の写真がいっぱい

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20100822


・ちきりんの使ってる財布はコレ

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20120813


・最初の料理本にはこれがオススメ

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20120611


・ビーチで柿ピー!

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20120323


・重曹でコンロの掃除してみた!

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20111229


・草間彌生さんラブ

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20120123


・3年前のダイエット食の写真・・

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20100720


・もっとも笑えた仕事のメール・・・

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/20100619



おほほほほー!

2013-05-02 読者が選ぶ 「ちきりん過去ブログ」 ベストエントリまとめ

先週末、「一年以上前のエントリの中から、「俺は・私はこれが好き!」というのを教えてください」とつぶやいたら、たくさん回答(推薦)をいただいたので、まとめておきます。

おヒマつぶしにどうぞ!



1.未完の「能力リスト」

「頭がいい」とか「あの人はデキる!」、もしくは「能力が高い&低い」って、つまりどういうこと?というのを一覧にしてみました。


2.どっちが正しいか  

時代が大きく変わる中、大人の言うことはどこまで参考になるのか? について考えてみたものです。


3.得るモノ、失うモノ 

このエントリについては、日本語勉強中の中国在住の女の子からも「自分の主張を強く言えばいいってものじゃないとわかって目鱗でした」みたいなメールをもらいました・・


4.企業内・国際分業のススメ 

経営を技術より下に見るなら、いっそ外部に任せてしまえばいいんじゃないの? という大胆提案


5.まだいけるって思ってた? 

37歳で人生は決まる! という(一部の人には)こわーいお話し・・・


6.格安生活圏ビジネス 

日本は、健康で文化的な生活を送るために必要な生活費が高すぎる、という主張でした。「スラムを作れというのか?」と叩かれましたー。


7.ギリギリまでまとめに入らない能力 

「落としどころ」を探っているようではクオリティの高い仕事はできない、というお話。多くの人がこの話を、何かの締め切りを延ばす言い訳に使ったとか・・。


8.4月から新社会人になる人へ 

表題通り、新社会人向けのメッセージだったのですが、社会人経験数年目の人からの支持が多くありました。


9.人生を半分降りる 

ちきりんの座右の書に関するエントリですね。この本は本当に素敵


10.将来有望な若者の将来価値を毀損する大きな罠 

今の時代に、保守的な大企業に新卒で入ることのリスクも、意識しておきましょうというエントリです。


11.大人の条件 

年齢的には大人でも、子どもっぽいなと思う人はたくさんいます。ちきりん的「おとなの条件」3つとは?


12.守る組織・守る人 

強い立場で仕事ができることが、個人の成長を阻害するというパラドックスについて説明したエントリ。根強い人気のあるエントリです。


13.大惨事とミラクル 

311の大震災についてのエントリ。英語、フランス語、スペイン語などにも訳されました。


14.元漁民と戦う世界連合艦隊 

いかにもちきりんらしい、おちゃらけ風味で国際問題をぶったぎっています。


15.三菱と日興 愛と憎しみの物語 

一昔前の金融業界を知る人たちからの反響がすごかったです。


16.豊かになる意義 

私たちはなぜ経済成長を続ける必要があるのか? 私なりの答えです。


17.性格改造の歴史 

自分の性格が嫌いな人、変えたいと思ってる人、ぜひ読んでみてください。


18.あなたの文章を私は読んでいます 

自分のブログへのアクセスが少なすぎる・・とお悩みの方向けのエントリです。


19.一枚の葉書から 

ちきりんが社会派になったのは、なんと 6歳の時だった!



以上です。

回答してくださったみなさん、さんきゅー!


f:id:Chikirin:20150810175729j:image:medium

そんじゃーね。



http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+personal/  http://d.hatena.ne.jp/Chikirin+shop/