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Chikirinの日記 RSSフィード

2015-12-26 この一冊 2015年から2016年へ

今年もあと一週間で終わりですね。

今日は「新しい年を迎えるにあたって、ぜひ読んでおきたい一冊」をご紹介します。

それは、ロバート・アラン・フェルドマンさんによる日本経済についての分析、そして提言本であるコチラ

フェルドマン博士の 日本経済最新講義


日本経済の問題点と可能性を超わかりやすく解説する凄腕エコノミストのフェルドマンさん。彼が書いたこの本のクオリティは、前書き冒頭の一文に凝縮されています。

経済学とは何かと訊ねられれば、「希少資源の最適な利用の学問」と答えます。


さらにその目的は「希少性からくる争いを減らし、世界を平和にすること」と言えるでしょう。


国や人間が争ってきた歴史を振り返り、世界の現状を見れば、争いが希少な物や足りない物が原点になっている場合が多いことが分かります。


水や石油、食べ物や環境など、希少資源や希少商品をどうやって公正配分し、どうやって希少性を解消するか、それを考えるのが経済学です。


奇しくも今年は戦後 70年。資源を獲得するため満州から南洋の島々まで、死と滅亡への道を歩んだ大日本帝国の歴史はもちろん、

争いが絶えない中東だって、石油さえ出なければここまでの状況にはならなかったでしょう。

ロシアは不凍港を求めて常に南下を試みているし、その昔、西欧先進国が世界中を植民地にしようと考えたのも希少性のある資源を獲得するためでした。

自分が専門とする学問といえども、これほど簡潔かつ明確にその意義を表現できる人も多くはありません。


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(今回は書店で紙の本を買ったので、あちこち線を引きながら読みました)


16歳の時、アメリカから名古屋の高校に留学し、日本人家庭にホームステイをしたフェルドマン氏は、IMFやウォールストリートで働いた後、バブルがまさに弾けんとしていた 1989年末に日本に赴任します。

それ以来ずっと、日本人以上ともいえる深い愛情をもってこの国を見つめてきた氏の、日本経済への知見の豊かさと洞察の深さは、多くの日本人エコノミストのそれを遙かに凌駕しています。


特に彼がすばらしいのは、モノゴトの本質を極めて簡単な言葉で表現できる点にあります。

私には、野口悠紀雄さんや堺屋太一さん、大前研一さんなど、尊敬する洞察家がたくさんいるけれど、中でもフェルドマンさんの言葉は、最もわかりやすい。

今回ご紹介する本も、社会に興味がある子なら中学生でも読めるはず。私自身、この本を 12歳の時にこそ読みたかったと思います。


内容は日本経済と世界経済の現状分析と提言で、重要な分野はざっと網羅されています。

第一章 世界経済と日本経済

・グローバル化の日本への意味

・日本経済の強みと弱み

・米国、中国、欧州について

・TPPの意味、難民問題の意味


第二章 アベノミクス

・改革と景気

・財政再建と選挙制度


第三章 エネルギー政策

・温暖化

・原発の未来


第四章 労働市場


第五章 少子高齢化の煉獄

(↑煉獄という言葉にギョッとしましたが、少子化はまさにこの言葉にふさわしい 大変な事態 なのです)


第六章 地方再生と教育改革


(以上、私による内容抜粋であり、正確な目次ではありません)


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(メモを残したい時は該当ページにポストイットを貼って書き込みます)


たとえば、

日本の農業の作付け面積一平方キロ当たりの輸出額は 1100万円ぐらいです。ところがオランダは、同じ面積でおよそ 10億円の輸出額を誇っているのです。

面積も九州くらいしかないし、人件費だって日本と変わらない先進国のオランダが、農産物輸出で日本の 100倍、稼いでいる。こんな衝撃的な数字を、私達の多くは聞いたことさえありません。

だからこそ政府の「農業輸出額を 2倍にする」という目標について氏は、「あまりに野心がなさすぎる」と嘆きます。


懸案の選挙制度についても、

オーストラリアやシンガポール、ベルギーがやっているように投票を国民の義務にすること。2013年のオーストラリア総選挙の投票率はなんと 93%になりました。

そんなことが! って感じですよね。


私も 先日書きましたが、今後大きな問題になるであろう終末期医療に関しても、

(フランスでは)2015年 3月「深眠法」が、下院で通過しました。死を間近にした患者には延命措置を止め、昏睡状態におくというのです。


安楽死の隠れ蓑になるという危惧もありますが、国民の 96%もが支持しているという点に注目すべきでしょう。

他の先進国では既に法律ができはじめているのですね。

ちなみに日本の人口 1000人あたりの病床(病院のベッド数の合計)は、OECD 諸国平均の 2.8倍も多いのだそうです。

なぜ日本ではそんなに「病院で生きる人」が多いのか、私達はもう一度、よく考えてみるべきでしょう。


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それ以外でも、

氏がサウジの高官から聞いたという、

石器時代が終わったのは、石が無くなったからではない

=石油の時代が終わるとしても、それは石油が枯渇するからではない

=資源に関しては、枯渇が最も重要な課題なのではない

といった膝を打つような言葉があちこちに出てくるし、


日本経済が直面する様々な問題、たとえば、

・原発は再稼働すべきなのか、しないべきなのか

・外国人労働者を受け入れることと、移民を受け入れることはどう違うのか、どちらがよいのか

・日本の省エネは何が問題か

・解雇ルールができたら、本当に困るのは誰なのか

などについて、明確な答えを提示


他国の経済や体制に関しても、

・中国の共産党一党支配の体制の何がよくないのか

・大量のシリア移民の受け入れは、ドイツにとってプラスなのかマイナスなのか

と、知りたいことにキレイに答えてくれます。


★★★


ひとこと付け加えておくと、フェルドマン氏はアメリカ出身で、ずっとウォールストリートに席(&籍)を置いてきた人ですが、市場主義万歳の人ではありません。

彼はこの本で、

米国には成長戦略がない。

なぜなら共和党も民主党も「成長とは下から自然に上がってくるものであって、政府が決めるものではない。市場経済だから市場に任せる」という考え方だから

と指摘し、こういう考え方はアメリカ経済の弱みだと指摘します。


だから鉄道も整備されないし、ニューヨークでさえラガーディアのような前近代的な空港が放置されている。

州ごとに教育方針を決められるから、保守的な州では宗教的な影響を受けて進化論を教えないといった無茶が残ってしまう。これでは国際化からも取り残されてしまうと警鐘をならします。


その一方で、日本が抱える弱みとして人材育成を挙げ、

社会保障費の大半が高齢者につぎこまれ、若い人への教育投資が十分でないこと、

貧困下で基本的な教育さえ受けられない子どもが増えていることに深刻な懸念を示します。


世界に通用する人材を育てるためには、お金の投資先を変えなくてはならない。

日本は不要なインフラを整備しすぎだ。

本州と四国の間に橋を 3本かけたが、結果として四国経済はよくなったのか? 

と問うこの本に、私達はどう答えるのでしょう?


★★★


半藤一利氏の『昭和史』 が、過去を振り返るために不可欠の教科書だとすれば、この本は、未来を考えるために不可欠な一冊です。

電子書籍なら今すぐ読み始められるし、ダウンロードしておけばお正月の空き時間にでもさくっと読めてしまうでしょう。

フェルドマン博士の 日本経済最新講義
ロバート・アラン フェルドマン
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この本を読んで、2015年を締めくくりましょう。

この本を読んで、新しい年、2016年を迎えましょう。


日本にはとても大きな可能性があります。

でもそれを実現するためには、私達ひとりひとりが理解し、考え、選択しなければならないことも、たくさんあります。

それはいったいどんなことなのか。それらについて、本当に簡単な言葉で教えてくれる良書。

ぜひご家族みんなで読んでみてください。


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そんじゃーね


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2015-12-20 年齢差 10歳で出会わせよう!

「少子化を防ぐため、女性が働きやすくなる環境を整えよう」という話を聞くと、いつもアタマが“???”になります。

なんで女性が働きやすくなったら、子どもが増えるんですかね?


あたしはアタマの構造がシンプルなので、

「働きやすくしたら、働く人が増えるだけなんじゃないの?」

と思ってしまいます。


子どもを産んでほしいなら、働きやすくするんじゃなくて(もっと直接的に)子どもを産みやすくしたほうがいいのでは?


どうやったら、子どもを産みやすくなるのかって?

ずばり、「子どもを産みたい人が結婚しやすい社会」を作ればいいんです。

日本では、未婚で子どもを生む人はほとんどいないんで、結婚しないと話が始まりません。


とはいえ、50歳の女性が結婚しやすい環境を整えても意味はありません。

30代後半の女性が結婚しやすい環境を整えるのも・・・・まあ悪くはないですけど、できれば、「 30歳になる前の女性= 20代の女性が結婚しやすくする」のが、一番効果的です。


女性は「早く結婚すると、一生に産む子どもの数が多い」んですよね。

この傾向は 1970年代から今まで、全く変わっていません。

ほら↓

「結婚年齢別、生涯に産む子どもの数」は昔も今も、右肩下がりでしょ。

てか 2010年でさえ 28歳までに結婚した人は、ほぼみんな 2人以上の子どもを産んでるんです。

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資料出典


当たり前っちゃ当たり前。

若いほうが妊娠もしやすいし、ふたり、三人産もうと思えば、早めに結婚し、早めに産むほうがラクに決まってます。

だから出生率を高めたいなら、「女性が働きやすい環境を整える」のではなく、

「女性が若くして(できれば 20代で)結婚できる環境を整える」ほうが効果的です。


以上で結論は終わりなので、次は具体策ですが、


じゃー、どうしたら 20代女性の結婚が増えるか?


女性が一番「結婚したい」と思うのは、29歳と 34歳です。

特に最近は晩婚化からくる不妊問題が取りざたされることも多く、「 30歳になる前に結婚したい」と考えてる女子はかなり多い。


この年齢(= 29歳)になれば、既に就職してから 5年は働いてるんで、産休育休をとって働き続けるなり、いったん辞めて子育て後の復帰を目指すなり、「自分はこうしたい」という考えと「それが今の環境で可能か」という目処もついてます。

「最終的にはぜったい子どもが欲しい」と考えてる女性であれば、29歳の段階で「結婚する気、子どもを産む気」は、十分に高まってるんです。


んが、問題は男性です。

29歳の女性がつきあってるのが 29歳の男性だという場合、男性側も同様に「結婚する気、父親になる気が十分に備わっているか」というと、そういう男性は女性に比べてかなり少ない。


男性は「子どもを養う経済力」に自信のない間は結婚に躊躇するし、

加えて子どもに関しても、「生まれてみたらすごくかわいかった。子どもがいるとこんなに幸せなんだ」と理解する人は多いんですけど、

子どもが生まれる前にそれが想像できる(そう感じられる)人は多くないんです。

男性は、「子どもが実際に生まれてから、自分が父親に向いていたと気が付く」のであって、

「子どもが生まれる前から、自分は母親になってこそ幸せになれると確信している女性」とは大きく違う。


このため 29歳女子が同世代の男子とつきあっていると、男性側が決断できないがために結婚できない、という状況に陥りがちで、

30歳や 35歳を目前にした女性が、煮え切らない態度の同年代彼氏に「結婚を決断させる」ため多大な苦労をする一方、男性側はその判断をなんとか先延ばししようと涙ぐましい努力を・・・となり、まったくもって不毛です。


じゃあ、男性はどのタイミングで、29歳女子と同じくらいの気持ちになるかというと、あたしの仮説(てか勘)では、39歳です。

つまり男女の間には、10年のタイムラグがある。


30代後半になれば男性も、

・経済力も上がってきている

・精神的にも、そろそろ家庭を持ちたいという意欲や、家庭を持ってもやっていけるという自信(覚悟)が高まり、

29歳女子と同様に「 40歳までには結婚したい」という気持ちが強くなっています。


ちなみに「 30代後半の男性なんて、みんな既婚なんじゃないの?」と聞かれたのでデータを見てみたら、5年前の国勢調査で 35歳から 39歳の男性の未婚率は 37%でした。

今年の国勢調査の結果は来年発表なんで、どーなってるかわかりませんが、とりあえず 30代後半でも、男性の 3人にひとりは未婚だってことです。


★★★


なので子どもを増やしたいなら、30代目前の未婚女性と 40歳目前の未婚男性に限定した出会いの場を、ガンガン増やすべき。

たとえば、丸の内やら新宿やらのターミナル駅で、「 30代目前の未婚女性と 40歳目前の未婚男性しか入学できない MBAコース」とか作っちゃえばいいんです。

地方なら、それに該当する人しか参加できない「地方再生の勉強会」とか開催する。


もっと直接的に合コンでも結婚紹介所が主催する出会いパーティでもいいんですが、できれば「みんなで何かを作り上げていく機会」を作ったほうが効率がいい。

「何かを作り上げていく体験」を共同で行うと「この人と家庭を作り上げていくと、どんな感じになるのかな」ってのがわかりやすいのでね。


あと、20代( 29歳まで)に結婚した女性には 100万円、30代( 39歳まで)に結婚した男性にも 100万円、報奨金をあげればいい。

これなら、夫婦で 200万円もらえるから、相当のインセンティブになります。

女性側が 20代で結婚してくれたら、生涯で産む子どもの数は確実に多くなるんだから、それくらいの社会コストはすぐに取り戻せる。


大事なのは結婚意欲が高まるタイミングの男女差を理解した上で出会いの場を作り、時間を区切って結婚するインセンティブを与えることです。

子どもを増やしたいなら「女性が働きやすい社会にする」より、「女性が 20代のうちに結婚しやすい社会にする」ほうが圧倒的に効果的、

てか、なんでこんな自明のことがわからないのかな?


20代女子が「結婚したい」という気持ちが高まるタイミングで(= 29歳になった時に)、

同じように結婚意欲が高まってる男性ときっちり出会える環境を作ってあげましょう。



それ以外の年齢で結婚したい人はどうすればいいんだって?


んー

これを読んで、自分で研究してください。

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こんな本が婚活に役立つのかって?

役立ちますよ。このブログを読んだらわかると思う。

「婚活に行き詰まっている人は、ちきりんの「マーケット感覚を身につけよう」を読むべし!」


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そんじゃーね!


<関連エントリ>

結婚はオワコン?


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2015-12-11 次の50年で4500万人 減るということ

こちらこちら のデータによると、

2015年の日本の人口は、 1億 2689万人

2065年(50年後)の日本の人口は、 8135万人(推計) 

つまり、次の 50年で日本の人口は 4554万人減るってことです。


50年といえば、大学生が 20代から 70代になっていくまでの期間なので、「今、就活中の大学生が働いている間=定年を迎えるまでに、日本の人口は 4554万人減る」とも言えるし、

「今年生まれた赤ちゃんが 50歳になるまでの間に、日本の人口は 4554万人減る」とも言えます。

彼らは、そういう時代に働き、そういう時代に生きていくのです。


そういえば数年前、日本創生会議が「日本の自治体の多くに、消滅可能性がある」と試算して大騒ぎになってましたが、実際には消滅可能性都市どころか、消滅可能性地域、だってありえます。

てかさ、地方が衰退するのは東京の一極集中が原因じゃなくて、人口が大幅に減るからなんだってば。


★★★


同じデータに 、現在の各地方の人口も載ってます。↓

・北海道の人口  543万人

・東北地方の人口   910万人

・北陸地方の人口   536万人

・中国地方の人口   747万人

・四国地方の人口   391万人

・九州地方の人口   1452万人


これを合計すると(=関東、関西、中部以外の総人口は) 4579万人となり、

偶然にも、次の 50年で日本から消えていく人の数と同じなんです。


こんだけの人が消えていくんですね・・・。

今の大学生が働いている間に。



ちなみに 10年ごとで見ると、

・今から東京オリンピックの 5年後、2025年までに 623万人減る。これは北陸地方(新潟、福井、富山、石川の 4県)が消えるのと同じ

・今から 20年後の 2035年までに 1477万人減る。これは北陸と東北地方が消えるのと同じ

・ 30年後の 2045年までに 2468万人減る。これは北陸、東北地方の他、北海道 & 四国のすべてが消えるのと同じ

・2055年までに 3496万人減る。これは北陸、東北、北海道、四国、あと、中国地方+沖縄もすべて消えるのと同じ

・2065年までに 4554万人減る。これは北陸、東北、北海道、四国、中国、沖縄、九州がぜーんぶ消えるのと同じ


です。特に 10年後あたりからは、1年間に減る人数が急に拡大するため。過疎化も地方の荒廃も人手不足も、そのあたりから相当に深刻化するはず。


★★★


人口減少対策というと、すぐに「移民を!」という人がいるけど(あたしは移民を増やすことには賛成ですが)

こうやって数字をみると、移民だけで人口減少を食い止めるなんて(もはや)無理だとわかります。

上記の人口を全部おきかえられる規模の移民なんて、非現実的だと思いません?


★★★


この前、クローズアップ現代という番組が、「最近、都会から地方に移住する若者が増えています」ってのをやってて、

これはまさに先日のエントリに書いた“市場3”なんですけど、


「2014年は、都会から地方への移住者が 1万1735人に達しました。これは 5年前の 4倍です。ということは、5年後には、移住者は 4万人を超えるかもしれません」ってやってました。


4万人ですか。そりゃあよかったですね。

(念のタメ、ひとつの街や村に 4万人が移住するのではなく、各地のいろんな地方に移住する人の合計が 5年後に 4万人になるかも、って話です)


でも、50年間で 4500万人(単純に平均すると年 90万人)も人が減る国で、

年間 4万人の地方移住が実現しても、

なんのインパクトがあるのか、今ひとつ理解できなかったあたしです。



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そんじゃーね


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2015-12-05 東京一極集中と地方の衰退は無関係

「東京一極集中」と「地方の衰退」をセットで語る人が多いんだけど、このふたつって何の関係もないよね。

だって東京一極集中の対立概念は地方再生ではなく、2大都市集中、もしくは、複数大都市への集中なんだから。

ほら↓

<先進国>

・フランス=パリ一極集中

・イギリス=ロンドン一極集中

・日本=東京一極集中


vs.


・アメリカ=ニューヨーク,ボストン、ワシントンDC,シカゴ、サンフランシスコなど複数大都市集中

・ドイツ=ベルリン、ハンブルグ、ミュンヘン、ケルン、フランクフルトAMなど、複数大都市集中

・カナダやオーストラリアもこちらのタイプ

<中進国>

・韓国=ソウル一極集中

・タイ=バンコク一極集中

・フィリピン=マニラ一極集中


vs.


・中国=北京、上海、広州、深セン、武漢、天津など複数大都市集中

・インド=デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、バンガロールなど、複数大都市集中


・ベトナム=ハノイとホーチミンの 2大都市集中

・ブラジル=サンパウロとリオデジャネイロの 2大都市集中

こうやって例を見ればスグにわかるでしょ?

先進国にも中進国にも一極集中タイプの国と、複数都市に人口や経済力が分散してる国があって、後者は数都市への集中型と、二大都市型に分かれてるんです。

<都市分散タイプ>

1.一極集中型

2.二大都市型

3.複数都市への集中型


特定の国の姿がどのタイプになるかは、

・国土の大きさ

・歴史的な経緯

・国内交通機関の発達の度合い

などによって決まりますが、首都移転を実施することで一極集中から 2大都市型に移行させるなど、人為的に変更することも可能です。


日本でも大阪の橋下徹氏は、「東京一極集中はダメ」「大阪は東京と肩を並べられる 2大都市を目指すべきだ」と主張しており、

大阪での住民投票では、結果こそ「大阪は今のまま変わりたくないので、東京一極集中のままでいいです」ということでしたが、

得票数はかなり拮抗していたので、「東京と大阪の 2大都市型を目指したい」という人も、大阪にはかなり多いはず。


また道州制が実現すれば、福岡や名古屋などが東京・大阪に並ぶ都市へと発展し、複数都市型の国への道も開けます。

道州制が是か否かという議論は、「東京一極集中は是か非か」という議論と同じなんです。

なのに「東京一極集中に反対 + 道州制にも反対」の人がいたりするので困惑します。そういう人って、課題の全体図が見えていません。(もしくは“なんでも反対”の人です)


みなさんは、

・東京一極集中が好ましいと思ってますか?

・東京大阪の 2大都市スタイルを目指すべきという意見?

・東京大阪だけでなく、福岡や名古屋など複数大都市型を目指すべきと考えてる?


私は東京一極集中より、道州制による複数都市型(アメリカ、ドイツ、中国型)のほうがよいと思っていますが、

他都市にその気がないなら(=その地に住む人が変化が嫌いで今のままがいいというなら、)東京一極集中のままでも仕方ないとは思います。

自分が住むエリアを東京と並ぶ都市にしたいかどうかは、その地に住む人が決めることなので。


いずれにせよ!

限界都市だの消滅都市だのといった地方の衰退問題と、東京一極集中は完全な別課題です。


★★★


では次に、地方の衰退(地方の再生)問題について考えてみましょう。

まず理解すべきは、「都市と人のマッチング市場」が複数存在するということです。

具体的には、次の 3市場ですね。

1)多彩な文化が高度に集積する高刺激で高密度な大都市に住みたい人と、そういった都市である大都市のマッチング市場


2)過度な刺激や過密さがなく、生活に不便もない地方中堅都市に住みたい人と、そういった地方中堅都市のマッチング市場


3)自然豊かな環境に住みたい人と、そういった少人口地域のマッチング市場

※「同一分野の複数市場」「市場の選択」という概念については、『 マーケット感覚を身につけよう 』をご覧ください。


1)の市場にいるのは私のような人です。地方のイオンモールがいくら巨大でも、全く満足できない人。こういう「人」はたくさんいます。

ところが(人側はたくさんいるのに)、この市場の都市側には、東京しか存在していません。だから東京一極集中が起こっているんです。


したがって、福岡や名古屋や大阪など、他の大都市が本気でこの市場に参入し、今以上に拡大・発展して、東京と肩を並べるようになったら、東京一極集中は緩和されます。

アメリカなら1のタイプの人でも、ニューヨークに住みたい人、サンフランシスコに住みたい人、ボストンに住みたい人、と分かれているように。


んが、そうなった時には地方は再生するどころか、さらに衰退が進みます。

なぜなら、福岡や名古屋や大阪が東京と競える規模になる過程で、今以上にそれぞれの周辺都市から人を集積させてしまう(=奪ってしまう)からです。

結果として、「(大阪名古屋福岡など)地方の大都市の興隆 → 東京一極集中の是正 → それ以外の地方のさらなる衰退」という、期待とは真逆のことが起こるでしょう。



2)の市場は、人口が数十万人以上の中堅都市と、

・通勤ラッシュも激混みもない

・大都市にあるチェーン店はほぼすべて存在してる

・それなりのレベルの教育機関や、ちょっとした文化施設もある

・2000万円もだせば家族で暮らせる十分な家が買える

・そこそこの賑わいと、昔からの友達や家族が近くにいるという安心感の両方が手に入る

みたいなエリアに住みたい人が、マッチングされる市場です。


この市場は、人も多いし都市も多い、競争の激しい市場です。

そして近年この市場では、勝ち組と負け組がはっきりし始めています。


周辺の人口数万人の街や、山沿いの集落から高齢者がどんどん移り住み(多くの場合、一戸建てを売って駅前のマンションを買う形で転居)、

それらの人を目当てに、駅前に新たな商業施設、病院、コミュニティ拠点などが増え始めている街、

もしくは、

子育て支援策を充実させ、周辺の街から若い夫婦の転居が相次いでいる街、などが出現し始めているからです。

そういった街では、ひととき進んでいた「郊外型のショッピングセンターに車で通う」スタイルから、駅前で歩いて回れるコンパクトシティへの変化、いわゆる“駅前回帰”も起こっています。


この市場にいる都市は、私のような「とにかく大都市に住みたい!」人を東京と取り合っているわけではなく、

「便利だけど混乱も混雑もない快適な地方都市」に住みたい人を、周辺の街や山間部と取り合って、(結果として勝つことにより)地方の再生を成し遂げつつあります。


しかも、今は福岡も名古屋も大阪も、1)の市場ではなく、この2)の市場にいるため、彼らはこの市場での「一人勝ち」「一極集中」という美味しい立場を享受しています。

周辺地域で自然減を遙かに上回るペースで人口が流出しているのは、それらの勝ち組都市への一極集中のためです。

北海道だって、周辺部の過疎化が急速に進んでいるのは東京一極集中のせいではなく、札幌一極集中の影響でしょ。

さらにいえば、政府の掲げる「コンパクトシティ構想」とは、こういう地方における勝ち組的な街を、積極的に造っていこうという政策なんです。



最後に3)の市場は、すぐ近くに海や山など大自然が拡がっているエリアで暮らしたい!という人と、そういうエリアがマッチングされる市場です。

よく(都会から企業や若者が集まって活気が戻ってきたと)報道されてる徳島県の神山町や島根県の海士町は、この市場に属しています。


神山町や海士町に集まる若者が、東京や関西の大都市圏から来ていることも多いため、これらの街が1)の市場で東京と比較され、選ばれていると考える人もいますが、そうではありません。

1)の市場にいる人は、こういう街に遊びにいったり取材に行ったりはしますが、移住して、そこで子どもを産み育てたりはしないんです。


そういうことをする人は、もともと3)の市場の人(なんだけど、たまたま東京に生まれたり、たまたま京都で大学に行ったりした人)なのであって、

最初から猥雑で刺激の強い大都会より、「自然豊かな環境で暮らしたい、子どもを自然の中で育てたい、海士町は面白そうだな。神山町もいいかな」みたいに考えてる人なんです。


つまり、

・海士町vs東京

・神山町vs東京

で、人を取り合っているのではなく、


・海士町vs神山町vs他の(日本にいっぱいある)大自然のある過疎地

が、そういう人たち=大自然の中で暮らしたい人たち、を取り合ってるわけで、東京はなんの関係もないんです。


さらに言えば、ここ何年もの間、神山町と海士町以外「都市部から若者を集めている」とされる目立った成功事例が出てこないのは、

この3)の市場自体がたいして大きくもなく、かつ、規模として成長もしていない中、

ごく少数の町だけが「一人勝ち」し、「一極集中」を成し遂げていることを示しています。


市場規模が小さいままなのは、地方にマーケット感覚のある仕掛け人が少ないからなので、上手くやればもう少し大きな市場になるとは思います。

とはいえ、後いくつかの成功例が出てきても、東京一極集中の是正とはなんの関係もありません。

そもそも東京とは、取り合っている「人」のタイプが違うんですから。

もし今後、海士町以外に「都会から若い人を集めるのに成功する離島」がでてきたら、その離島のライバルは、海士町なのであって、東京ではないんです。


★★★


ここまでで、1)2)3)は異なる市場だと、おわかりいただけたでしょうか?

そして、成功している地域は東京に勝って成功しているのではなく、それぞれの市場における競争に勝って、近隣エリアでの一極集中を成し遂げることで、衰退を脱しているのだってこともね。


地方都市が衰退したくないと本気で思うなら、「東京への一極集中、よくないあるよ!」と唱えるばかりではなく、

・自分たちはどんな市場にいて、

・その市場にいる顧客はどんな価値を求めており、

・同じような価値を提供している競合はどの街なのか、

ということを、もっと現実的に考えるべきです。


衰退を続ける地方のライバルは、東京なんかじゃありません。

よく考えてみてください。

もし予算が無制限にあったとしても、いったい何を作れば(すれば)、衰退しつつあるその街が東京と競争できると思ってるんですか?

違う市場にいる都市との競争は成り立たない・・・それを理解するマーケット感覚が欠けていては、最初の一歩から躓いてしまいます。


藁にもすがりたい地方の人は「東京にはものすごい数の人がいるんだから、頑張ればその一部は我が街にきてくれるんじゃないか」と考えるのかもしれません。

それは私が「 AKB にはものすごい数のファンがいるんだから、頑張ればその一部はちきりんのファンになってくれるんじゃないか」と考えるようなものです。

そう聞いたら、誰でも「ありえん」ってわかるはず。どんだけ人が多くても、まったく違う市場にいる人との競争なんて成り立たないんです。


ちなみに1の市場では今、国際的な都市間競争が始まっており、今後は東京も彼ら(=東京を東京たらしめている1の人達を)を海外都市に取られないよう、頑張る必要があります。

東京にはもはや、日本の地方と競争しているヒマなど無いのです。


「自分は市場というものが、まだよくわかってないかも」と思われる方にこそ読んでほしい一冊


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<御礼>

2015/12/8 本書は、ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶ 今年のベスト経営書 2015 の 9位 に選ばれました。ありがとうございます。


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