シートン俗物記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2017-01-07 晴れ

[]挨拶

このブログを読んでくださる奇特な方々、本年もよろしくお願いいたします。

昨年は、ギリギリ頑張って書いた方ですが、今年以降はやはり厳しくなりそうです。

ネタは尽きなくなりましたし、草稿も割と簡単に書けるのですが、何せ仕上げるのに余裕がありません。

それでも、チョコチョコはマイペースで頑張ります。

[][]意味不明安倍政権

日本政府駐韓大使一時帰国させるのだそうです。


駐韓大使一時帰国へ 少女像設置に対抗「即時撤去を」

菅義偉官房長官は6日午前の記者会見で、韓国南部釜山日本総領事館前慰安婦問題を象徴する「少女像」が設置されたことへの対抗措置を発表した。長嶺安政駐韓大使森本康敬・釜山総領事一時帰国日韓通貨スワップ協定協議中断など4項目。2015年末慰安婦問題をめぐる日韓合意の着実な実施を迫る姿勢を鮮明にした。

http://www.asahi.com/articles/ASK163SX8K16ULFA00M.html


ぬらりひょん、こと菅義偉官房長官

日韓関係に好ましくない影響を与える」と指摘し、対抗措置は「極めて遺憾であるということを示した」と説明。措置を講じる期間については「状況を総合的に判断して対応していきたい」

のだそうです。まったく意味不明ですね。


元々、日韓合意では、

1 岸田外務大臣

 日韓間の慰安婦問題については,これまで,両国局長協議等において,集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき,日本政府として,以下を申し述べる。

(1)慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性名誉尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府責任を痛感している。

 安倍内閣総理大臣は,日本国内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省気持ちを表明する。

(2)日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団設立し,これに日本政府予算で資金を一括で拠出し,日韓政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

(3)日本政府は上記を表明するとともに,上記(2)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。

 あわせて,日本政府は,韓国政府と共に,今後,国連国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/na/kr/page4_001664.html


とあります。従軍慰安婦問題に関して、“多数の女性名誉尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府責任を痛感して”おり、“心からおわびと反省気持ちを表明する”つもりならば、「慰安婦問題女性に対する性暴力の一例」、として世界が克服すべき普遍的課題として少女像を設置することに何の問題もあるとは思えません。むしろ、日本こそ少女像の設置を積極的に進め、自らが“心からおわびと反省気持ちを表明する”方が良いと思えるわけですが。


まさか、“多数の女性名誉尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府責任を痛感して”おり、“心からおわびと反省気持ちを表明する”つもりなのに、「もう、済んだ話だろ、思い出させるような真似すんな」などという、「記憶暗殺」という言葉ですら生ぬるいゲスな真似をするつもりではありますまい。


もちろん、歴史修正主義、が目的ならば(つまり、「慰安婦問題は嘘だ、ねつ造だ、そんな問題なかった」と振舞いたいのなら)意味は通じますが、そうでないのならば、駐在大使一時帰国、などという真似は諸外国からも懸念の目で見られることになるでしょう*1

では。

[]続 自由貿易は究極の保護貿易

先日のエントリーに対してブクマでこんな意見が付きました。

TPPが「実際貿易をする場合利益分配」ではなく「対中国意識した貿易プロトコル」である側面っていうのは、この記事ではまるっとスルーされているよね。

http://b.hatena.ne.jp/eirun/20161117#bookmark-308399315


この意見にはちょっと驚きました*2エントリー内で、大恐慌期の英仏のブロック経済圏とは「自由貿易圏」のこと、と書いたのですが、ブクマ意見に則るなら、事実上TPPはブロック経済圏による環太平洋各国の囲い込み、中国の締め出し、だと認めたも同然だからです。ブロック経済は「保護貿易」であり、“ファシズムへの扉を開いた”というなら、到底看過出来る意見では無いと思いますけど、確かに各紙にはそうした意図意見が載っています。

まさに、「自由貿易は究極の保護貿易」を認めてくださったようですが、もちろん、それを支持する気には当然なりませんね。


さて、前回のメキシコに続いて自由貿易犠牲者について述べましょう。それは韓国国民)です。韓国日本よりも各国とのFTA(自由貿易協定)を結ぶ事に熱心で、先行しています。これは、韓国通貨危機後、産業政策として「自由貿易を推進する事で韓国産業が発展し、経済成長する」という考えに基づくものでした。実際、韓国の方針に対して日本においても(サムスン韓国企業拡大への警戒と共に)「韓国に遅れを取るな」的な意見が聞かれました。

自由貿易協定締結が進められ、輸出産業への積極的な支援、財閥を中心とした産業界への規制緩和、確かに韓国経済は発展しました。現在韓国経済における海外貿易の占める割合は、日本よりはるかに高い状況にあります。

で、韓国国民はその恩恵を受けたのでしょうか?実際には起きたことは、格差の増大、地域経済の低迷、若年層の就職困難、etcでした。今、世界中で問題になっていること。それが韓国事情から浮き彫りになります。


以前、私は前政権李明博政権発足時にこんなエントリーを上げました(考えたら、すでに10年前に指摘していたのですね)。

韓国経済は確かに各国とのFTAによって好調を保ち続けました。

でも、それは経済格差を生み、若年不正労働者層を増やしたとも思われるのです。

そう考えると、李明博氏の公約皮肉なものです。

彼は一層の規制緩和による経済の伸びを唱っています。たぶん、公約の7%はともかく、高い経済成長は維持されるでしょう。でも、選挙で票を投じた若年層の願いが叶えられるかは疑問です。

それとも、「いや、もっと規制緩和を進めれば、自由化を進めれば、豊かになれるのだ」と考えますか?

自由貿易によって各国経済が“ダイレクトに”グローバルな経済接続されれば、労働環境一方的に悪化します。第二、三次産業について云えば、さんざん見てきたとおり。

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20071221/1198225874


実際の結果も私の懸念を裏付けるもので、韓国の若年層の経済的苦境について、こんなエントリーも上げています。

韓国でも新自由主義を売り文句にしたイ・ミョンバク政権は追いつめられ、政策が見直されています

韓国米国欧州連合(EU)とそれぞれ自由貿易協定(FTA)を結び市場拡大を目指す。今でもサムスンとLGのテレビ欧米日本製を圧倒し、現代自動車シェアを広げる。

 李明博大統領グローバル化の先頭に立ち、自らアラブ首長国連邦を訪問して原発プラントの輸出に成功した。核安全保障サミットなど大規模な国際会議もいくつか主催した。国民が期待した「CEO(最高経営責任者大統領」の役目を果たしている。

 ところが、支持率は低迷している。大企業収益を飛躍的に伸ばしたが、生産拠点は海外に移り中小企業がなかなか育たない。格差は拡大し、若者失業率は高いままだ。与党セヌリ党でさえ、李政権の政策とは一線を画して雇用と福祉重視を打ち出した。

 最近大統領の側近が収賄などで訴追されたり、辞職している。韓国の知人は「先進国入りを目指すと言いながら、人事や政策決定縁故主義がひどい。開発独裁型の古い政治だ」と言い切る。

 李大統領ソウル市長だった二〇〇五年にインタビューしたことがある。「国家発展の原動力は輸出だ」「国民は富を分配せよと主張するが、もっと経済成長をしないと世界では勝ち残れない」と言っていた。

 大統領は「信念を貫いた」と自負するだろうが、国民の関心は、年末大統領選で誰が当選するかに移っている。 (山本勇二

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2012052102000115.html

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20120529/1338302858


ですので、前回大統領選で、有権者がどのような判断を下すのか興味深く見ておりました。結果は、「漢江奇跡」と呼ばれ韓国経済を飛躍的に発展させた(ことになっている)、父親の「遺産」を背景にパククネ氏が選ばれました。その選択はどうであったのか、については明らかでしょう。現政権経済産業政策に対して、韓国国民の不満は募る一方だったのです。つまり、トリクルダウンは無かった。その不満は現在政権危機の遠因ともなっているでしょう。


自由貿易(とそれによる産業振興)は格差を拡げ、大多数の人々には恩恵とはなりません。国際分業化が進み、競争が激化し、効率向上・生産性向上が進むほどドメスティック経済は停滞ないしは衰退していくことになります。

貿易自由化の進んだ韓国は、日本の先行例です。自由貿易を進めるほどに、その結果は韓国国民の苦境に近づいていく事でしょう。

さっさと自由貿易、なるものに見切りを付けた方が良いと思うのですがね。あくまで、TPPに拘る連中が哀れです。


この他にこんなコメントも付きました。


比較優位と絶対優位を取り違えています

あれこれ新書に当たるまえに、ミクロ経済学なり国際経済学教科書を一冊読んで下さい。

あなたの言っていることは「相対性理論の欠陥を発見した!」みたいなネットでよく見る日曜物理学者の与太話とかわりがありません。

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20161115/1479216689#c1480820823


私が経済学の素養が無い事はその通りですが、比較優位に関して言えば、それが国際貿易において成り立たない、ことを述べたのであって、それは絶対優位です。と言われてもちょっと困りますね。

経済学教科書ではありませんが、比較優位、に関して(例えば、wikipediaでは)前提条件が必要であることが指摘されています。


http://qq1q.biz/AHFK


つまり、現実はもともと比較優位(とそれに基づく自由貿易)が成立するような条件では無いのです。資本自由に移動し、生産設備移転可能、相場は固定されず金本位制でもない。リカード考察した前提ではありません。リカード過去の人ですから、現在の状況に想像が及ばなくても仕方ありません。問題は、現実を受け入れられず、理想状態でのみ成り立つ論を現実に当て嵌めようとする事です。


現実どうでしょうか。

また、メキシコアメリカで見てみましょう。比較優位という点で、アメリカ農業メキシコに対し優位にあります。逆に自動車産業は劣位にある(メキシコが優位にある)。しかし、どちらもそこから得られる富を得るのは多国籍企業とそれに投資する国際金融です。国単位で考えても無駄だということです*3


また、比較優位論は、二国間では成り立ちますが、三国間、他国間では一般解が困難と指摘されていますね。

私がなぜ、三体問題を取り上げたか、といえば、この事が頭にあったからです。(経済学者が大好きな物理学アナロジーでいえば)三国間貿易では一般解は存在せず、混沌的な状況、つまり動的状態だということになります。多国間貿易でも同様であって、その数からいっても統計的取扱が可能なほど多くもありません。


現実と違っても数学モデル信仰してしまう経済学者たち

http://data11.web.fc2.com/jiyuuboueki5.html


ちなみに、こちらの方も書いていらっしゃいますが、いわゆる経済学ラグランジュの未定乗数法が使われる、と知った時に愕然としました。これを現実世界に当て嵌めようというのは、あまりにヒドイ話です。

経済学者が褒めそやすほど自由貿易が素晴らしいモノではない、というのは、こういう事です。彼らは経済学に対して自然科学手法を模倣することで、自然法則のような「真理」に見せかけます。ですが、経済学の数理テクニックは、仮定した理想状態でのみ成り立つものであって、現実状態にはまったく当て嵌まらないのです。

そんなことはない、と文句を言いたい方々は、とりあえず、リフレは是か非か、財政支出は是か非か、について「正しい」答えを解析的に出してから、私のところへ来てください。


こちらでは小島先生が宇沢先生についての主流派経済学者の評価について書いています。


宇沢弘文先生は、今でも、ぼくにとってのたった一人の「本物の経済学者

http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20140928/1411891840


宇沢先生経済学世界で数理テクニックによって高い評価を受けましたが、しかし、(公害問題等を通じて)その限界というものを考えるようになりました。その宇沢先生の姿を主流派経済学者達はこう評したわけです。少なくとも私は、後期宇沢、と揶揄される宇沢先生姿勢共感し、経済学というもののスタンスはそこにある、と考えます。

では。

始まっている未来 新しい経済学は可能か

始まっている未来 新しい経済学は可能か

*1トランプ米新大統領ならば、女性に対する性暴力を問題として捉えない、いう点で安倍政権同意出来るかもしれません。ウマが合ってよかったですね。

*2:もちろん、これは修辞法というもので、少しも驚いてはいません。実際、TPPはブロック経済の一種に過ぎないことは判っていたので

*3メキシコ経済成長率は16年は2%前後。“参考:https://www.jetro.go.jp/biznews/2016/12/10d15331d315573c.html”高いとは言えないが、悪くもない。では、なぜ危険な思いをして国境渡り不安定危険な立場の「不法移民」が多数いるのか、が数字からでは見えてこない。

2016-11-24 雪!?

[]人を殺すのが大好きな日本

まさかとは思いましたが、酷い判決が出てしまいました。


干物強盗殺人、元従業員死刑判決 静岡

 静岡県伊東市干物店で2012年12月、女性社長男性従業員遺体業務用大型冷凍庫から見つかった事件裁判員裁判で、静岡地裁沼津支部斎藤千恵裁判長)は24日、強盗殺人罪に問われた同店元従業員肥田公明被告(64)=同市大原3丁目=を求刑通り死刑とする判決を言い渡した。肥田被告は一貫して無罪を主張していた。

http://www.asahi.com/articles/ASJCR5JLHJCRUTPB009.html

この事件被告が当初から一貫して無罪主張していただけでなく、直接的証拠がありませんでした。状況証拠の積み重ねで“死刑”に持ち込んだわけですが、その状況証拠の一つが酷いものだったのです。

被告の着衣や車に付いた血痕のDNAの鑑定結果が証拠の一つとされたのですが、

血痕に「被害者DNA」 伊東強殺公判検察側鑑定

鑑定に当たった検察証人の県警科学捜査研究所職員は「血痕に被害者のDNA型が含まれていると考えて矛盾しない」と証言した。

http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/288522.html

ずいぶんと迂遠な言い方してますよね。つまり、“被害者と同じ型の一部を含んでいた”ということなのです。

一般的にはDNA鑑定完全に一致してこそ証拠と言えると思いますが、“その一部”が含まれている、ということで証拠とみなすそうです。(しかも、判決もそれを追認していることになります)

一致している、とみなされるDNA鑑定ですら、次のような話があるのに。


https://twitter.com/sinwanohate/status/799402047153897472

テレメンタリーDNA鑑定の闇(3)〜崩れる”証拠”の王の座〜」

アメリカのDNA研究所が驚くべきリポートを発表した。“同じ『9カ所』のDNA型を持つ人間複数人いた”というもの。実は、日本では『9カ所』を調べたDNA型が決め手で、実刑・服役中の事件がある。…


警察検察裁判所癒着問題となり、冤罪事件をこれほど起こして、取返しの付かない結果を引き起こしておきながら、裁判員もそれに加担する。「疑わしきは罰せず」という裁判原則など簡単に踏みにじられています。

もう、真犯人か否かについてなどどうでもよくて、取り敢えず“死刑”にしておけばいい、と考えているのかもしれません。

まあ、世界に冠たる人権後進国シャラップ日本ですからね。

では。

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

殺人犯はそこにいる (新潮文庫 し 53-2)

2016-11-19

[]メディア業界の無残な認識の例:朝日新聞真人氏の場合

アメリカ大統領選でのトランプ氏の当選が未だ尾を引いているようですね。とりわけメディア業界のショックは大きいようです。認知的不協和極致、“実はトランプ大統領、そんなに悪くはないんじゃね?”みたいな戯言が並び始めましたからね。まあ、トランプ氏の“本当の”問題点は、安倍晋三共通しますから、そこへ踏み込めないのは判ります。

後出しじゃんけんのようですが、私はおそらくトランプ氏が当選するだろうと思っていました*1。なぜなら、町山智浩さんらが伝える没落したアメリカ中間層、特に“ラストベルト”の人々の姿は、EU離脱直前のイギリスの姿に良く似ていたからです*2トランプ氏の暴言が致命的、という意見もありましたが、支持者が暴言すらも好意的に受け止め(もしくはメディアによる印象操作トリミングと見なすか)、問題視しないのは、日本における安倍政権閣僚の“失言・失態”の嵐が致命傷になっていないことから伺えます。トランプ氏を際物扱いするのは、鏡に映った自分に気づかないようなもの、と私は書きました。同じことが、アメリカでも起こっただけです。


ドナルド・トランプの何が問題なのか?

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20160214/1455409657


さて、アメリカでは、イギリスEU離脱と同じく“取り残された人々”とメディア業界乖離が衝撃を与えており、日本でもそのような認識が出てきていますが、その無残な実例、というべきものに出くわしました。


朝日新聞の原真人氏です。


真人氏は以前から、新自由主義自由貿易を礼賛し、消費税増税緊縮財政による財政規律の維持を説くような人でしたから、基本的相手にすべき存在ではありません。しかし、この11/14付けの一面記事における言葉は、そのダメさ加減が溢れているので、サンプルとしては丁度良い。


トランプショック どう考える:4)自由貿易制限する前に

(略)中国は15年前、世界貿易機関WTO)に加盟し、自由貿易市場に仲間入りしてから飛躍的に国民生活の水準を高めた。世界の再貧困人口は5年で3億人以上減った。貿易をてこに成長を遂げたアジア途上国で多くの雇用が生まれたからだ。米国恩恵を受けている。この20年で経済規模は6割も膨らんだ。

http://www.asahi.com/articles/DA3S12657951.html


こんな認識なのだと呆れるばかりです。この前々日、11/13にトランプ当選の背景について、やはり朝日新聞金成記者が“ラストベルト”のルポを載せていました。そこで、こんな部分があります。


トランプ王国、反エリート情念 ニューヨーク支局金成隆一

学歴がなくても、まじめに働けば、子どもは親の世代より豊かになれる。明日暮らし今日より楽になる。米国の勤労精神を支えた「アメリカンドリーム」が色あせている。米国実質賃金は50年ほどほとんど上がっていない。

http://www.asahi.com/articles/DA3S12656491.html


原氏は、この15年でアメリカは(自由貿易推進を方針とする)WTOに加盟した中国との貿易によって6割も経済規模を増やした、と述べます。しかし、金成氏はこの50年ほどアメリカ労働者実質賃金はほとんど上がっていない、と示しました。であれば、中国との貿易アメリカ労働者に何の恩恵も無いということになります。自由貿易によって創出された富は、中間層のものにはならない、というのが、同じ新聞の中で明らかにされているのですから。むしろ、仕事を奪う、と述べるのは当然のことでしょう。新自由主義者は、今は苦しくても創出された富はそのうちやってくる、と説きます。つまり、“トリクルダウン”です。ですから、アメリカ中間層も今まで自由貿易否定まではしていなかったわけです。ですが、50年も恩恵が無い、自分だけでなく、子、孫の世代でも恩恵が無いとすれば、“トリクルダウン”は空手形だ、と見なすのは当たり前です。


原氏は自由貿易否定するのではなく、社会保障対応すべき、と述べます。しかし、原氏はその社会保障の財源をどこに求めるのでしょう。原氏は散々、消費税増税を説き、財政出動否定し、財政規律重視を説いてきました。再分配どころか逆進性のある消費税社会保障、となれば、中間層貧困層はより追い詰められます。原氏は何一つ判っていないのです。


私自身は自由貿易には反対であり、保護貿易で構わないと考えます。でも、もし自由貿易を進めるのであれば、世界的な再分配の仕掛けが必要になるでしょう。自由貿易を推進する側こそ、自由貿易世界的に富を創出したのだ、保護貿易になれば経済が縮小し*3、害を被るのだ、などとシャバいハッタリで脅しを掛けるのではなく、効果のある方策を考え、それを提案し、実行すべきなのです。


EUが自壊の道を歩むように*4世界自由貿易を推進しようとすれば、より広範囲で徹底した“叛乱”に直面する事になるでしょう。

その時に、まだ原氏のようなメディア業界人は、その認識ギャップに気付かないのでしょうか。無残ですね。では。

新・反グローバリズム――金融資本主義を超えて (岩波現代文庫)

新・反グローバリズム――金融資本主義を超えて (岩波現代文庫)

*1:一度、自分から見える様相は明らかにトランプ氏の当選可能性は結構高いのに、なぜメディアクリントン氏が有利と伝えるのか不思議になり、「過去大統領選を的中させた」という ネイト・シルバー氏のサイトを覗きましたが、そこでもクリントン氏が約70%の勝率で有利、とあり、「そんなものかなぁ」と思ったことがあります 参考:http://bylines.news.yahoo.co.jp/yoneshigekatsuhiro/20161109-00064269

*2:町山さん自身クリントン氏の勝利確信していたようだったが

*3自由貿易推進論者がおかしいのは、現在、各国の貿易基本的自由貿易ではなく保護貿易なのだが、それで何か問題があるだろうか?逆に自由貿易協定締結したところには問題が生じている。状況に応じて関税を変えるで充分であり、差異無視した「自由貿易」が素晴らしいというのは理解しがたい

*4EUエリートは未だに問題理解していないか、判らないふりをしているのか、共通通貨ユーロ問題と各国の中間層貧困層の怒りを無視しています。おそらく、巨大なしっぺ返しが起こるでしょう。

2016-11-15 曇り

[]自由貿易は究極の保護貿易

なぜ自由貿易は反対が強いのか?

だいぶ前のことになりますが、石原慎太郎が米大統領になる前のドナルド・トランプ氏に対して 「トランプなどという訳の分からぬ男が大統領候補になり「日本は不要」などと口走るのは無知というより滑稽ではないか?」と云った事がニュースになっておりました。


トランプなどという訳の分からぬ男が大統領候補になり「日本は不要」などと口走るのは無知というより滑稽ではないか?

http://www.sankei.com/column/news/160815/clm1608150005-n1.html


豊洲市場の件と併せて「お前がいうな物件ここ十年でNo.1」的な話ではありますが、内外から危険視されるトランプ氏も、“本命候補”だったクリントン氏の二人とも一致している政策公約があります。すなわち、TPP(環太平洋貿易協定)への反対。

興味深い話ではあります。なぜなら、TPPは元々アメリカ政財界からの強い押しがあって進んできたものであり、オバマ大統領は在任中に可決する気満々だったからです。トランプクリントン氏共に反対の理由に挙げているのが、TPPはアメリカから雇用を奪うものだ、という事であり、有権者の支持を取り付けるためにTPPに反対するということは、アメリカでも一般的な人々からTPPは脅威と見られていることを示します。


クリントン安倍首相にTPP反対の考え伝える

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160920/k10010695811000.html


別にアメリカに限った話ではありません。日本においても野党時代の自民公明両党はTPPに反対していました。政権奪回すると掌返しをしたのは、原発なども含め、もはやお家芸とでもいうべき態度です。つまり、選挙においてはTPPは一般有権者には反対される事が判っているが、政権を取れば向く方向が変わる、ということでしょう。


自民党ポスターウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」の結果

http://www.huffingtonpost.jp/yuichiro-tamaki/tpp-agriculture_b_8283352.html


この点、アメリカでも同様であって、トランプ氏は大統領の座に就けば掌返しをするのでは、との観測もあります*1


ことほど左様にTPPは一般人の批判を招きますが、政治家は詐術を用いても実行したいと考えるものであるようです。すでにTPP自体が崩壊の崖っぷちにあるのに、自公は強行採決してまで進めようというのですから、呆れたものです。

マスメディアもTPPには賛成のスタンスが目立ちますが、これは、新自由主義と一対の存在である、自由貿易至上主義に染まっているからでしょう。現在主流となる経済学においては、無関税の自由貿易は素晴らしいものであり、それを目指すべき、という事になっています。第二次世界大戦後の世界貿易においても自由貿易は目指すべき原則とされてきました。

その論拠は何なのか、といえば、リカードの「比較優位の原理」です。


自由貿易比較優位

http://kezai.net/global/free


参考サイトの表現を利用させて貰うならば、アインシュタインと家政婦にそれぞれ作業をしてもらうよりも、アインシュタインは頭脳労働、掃除婦は家事に従事してもらう方が生産性が上がる、ということになります。まあ、個人レベルでも若干異論はありますが、とりあえずリカードの論が成り立つとしても、それを国や地域レベルに拡大して成り立つわけではありません。国や地域は、個人をそのままスケールアップした存在ではありませんし、地域や国の産業も、個人の労働をスケールアップしたものとは異なります。


それからアインシュタインと家政婦の例えでも判るように、単純な「生産性」の話にしか帰着しない、と思っていることに驚きます。同じ例えで考えてみましょうか?アインシュタインは確かに家事全般に長けているとは言い難いかもしれません。しかし、それゆえに家事のプロが思いもよらない家事の新方法を思いつく可能性があります。また、家政婦も学習によって思いもよらない才能を発揮する可能性があります。つまり、「多様性」と「潜在能力」というものは、リカード比較優位論では扱われないのです。


さらに、保護貿易によって保護されている(と主張する)ドメスティックな産業はしばしば「ガラパゴス」と呼ばれます*2

しかし、実際の自然環境というものにおいては、風土の差異による生態系の違いは当然あってしかるべきものです。それこそが、環境に適していく「進化」の結果であり、可能性であり、多様性です。そのような多様性が保たれている生態系に外部から動植物を無制約に持ち込むような真似は、「環境破壊」として非難されます。「多様性」とは、変化の可能性と生態系の豊さを反映するものです。その意味では、世界全てが「ガラパゴス」だったのであり、世界中環境破壊に晒された中で、ガラパゴスは希少な多様性を保っている珍しいケースなのです。決して、遅れた、取り残された存在なのではありません。


各国の産業政策も同じことであり、保護貿易下での産業振興は様々な多様性潜在的可能性を持ちます。自由貿易下では、一強の製品・サービスが他を席巻し、潜在的可能性も多様性も潰されてしまいます。

自由貿易は究極の保護貿易である、と云われる*3所以です。

このへん、いわゆる経済学者の態度というものに疑問を持たざるを得ないのですが、なぜ彼らは驚くほど単純な、理想状態で成り立つような理論を、現実世界に当て嵌めようとするのか*4

物理学の世界では、理想状態は基本的に成り立たない世界と考えられています。高校の力学教科書では、落下実験で“空気抵抗は無いものとする”と前提をおいたりしますが、実際には空気抵抗を考えない実世界はありません。理想状態を記述する数式を実際に当て嵌めてみたりはしないのです*5

物理で最も簡単な例としては「三体問題」があります。

近代物理学の祖であるニュートンは、“万有引力”について考察しました。そこで、二体の質量間について働く力学的関係、つまり引力については解析的に説明しましたが、これが三体間の関係となると解析的に解く事が出来なくなるのです*6

三体間の動きは調和的(コスモス)ではなくなり、混沌的(カオス)になります。

三体間の関係、という単純なレベルでさえも複雑で解析的に解けない。多体問題になれば、今度は統計力学(≒熱力学)の世界となりますが、統計力学でさえも、各粒子間の相互作用が強い場合は、複雑な様相を呈するのです。

物理学と比しても各人の違いが大きく、相互作用(各人の交流)が大きい人間社会の営みを、単純な線形関係で見ようという経済学者の態度には、正直恐怖さえ覚えます。どれだけ傲慢なのか。


閑話休題


理論と現実のギャップから考えて比較優位論に基づいて自由貿易が理想的、などというのはクソみたいな話でありますが、もう一つ比較優位論には、「どちらが主導権を持つのか」という問題があります。これも、参考サイトに載せられている懸念ではあります。つまり、比較優位に基づいた分業では、他より優位な立場になる者が現れることになります。別に全体の生産性が上がるのだからいいじゃないか、という意見があるでしょうが、そうはいかないのです。その懸念をシンプルに描いた文章から引用させて頂きます。

超大国がつくりあげた経済支配のネットワークに組みこまれ、分業の名のもとに特定の農産物工業製品の生産を強制されるわけだ。造反をおこせば、流通システムの咽喉もとをしめあげられ、商品は売れず、自国で生産できない必需品は買えず、国全体が窮乏化する。恐竜のように巨大なメカニズムの一細胞として生きるしかないのだった。

とはいえ、限度というものがある。人間は貧困には耐えることができても、不公平には耐えられないという部分が、たしかにあるのだ。

(上下ともに 戦場の夜想曲 田中芳樹 徳間文庫


つまり、分業論でいえば、頭脳や心臓にあたる部分、すなわち情報や金融を押さえたところが、他に対して支配的状態を恒常化させてしまうのです。もちろん、その情報、金融を支配する層が倫理的紳士的、利他的に振舞うのであれば問題は無い。しかし、非倫理的で強欲で私利を優先するように振舞ったら最悪です。悪意が無くても、認識がずれていたら恐ろしい事になります。

そのへんが示されたのが

Q.E.D.の34巻「災厄の男の結婚」で示された、W銀行エピソードも含めて世界銀行を示していることは明らか)の所業です。世界銀行過去、IMFと共に自由主義自由貿易の旗振り役としてあちこちに影響を及ぼしています。そこでは、根強い批判があるわけです。


さて、自由貿易体制になった場合、誰が恩恵を得る事になるのか、そして、誰が不利益を被るのか。大体お分かりですよね。情報、金融を握るのは、先進国でもごく僅かな富裕層です。彼らにとって自由貿易体制は他を支配する強力な武器となります。ですが、他の人々、中間層は淘汰されて貧困層が拡大することになるのです。現在先進国で生じている格差増大は、自由主義自由貿易による当然の結果でしかありません。


これは今に始まった話ではありません。自由貿易に反対すると、なぜか「鎖国をするのか」的な非難を浴びたりしますが、自由貿易の反対は鎖国ではなく、関税貿易・保護貿易です。そして、「鎖国」を解いて「開国」した日本が目指したのは、関税の自主決定権を取り戻し、産業を保護する事でした。当時の日本にとって自由貿易は殖産振興の障害となったからです。

逆に、日本植民地獲得として朝鮮半島に干渉を始めた際に推しつけようとしたのが「自由貿易」でした。自由貿易とは、立場が強いものがその立場を強化するために、押し付けるものなのです。

それは、対外的な、国同士の場合だけでなく、国内でも立場の違いによって変わります。


では、現在の一番惨い自由貿易の犠牲はどこか?それは、メキシコです。


メキシコNAFTA北米自由貿易協定)によってアメリカカナダとの自由貿易体制を取りました。アメリカメキシコ政財界が目論んだように、アメリカ二次産業はメキシコ移転を進めました。なにせ人件費が安いですから。日本企業も、特に自動車産業メキシコへの進出が相次いでいます。トランプ氏(やその支持層)が「メキシコ仕事を取られた」というのは正しいのです。一般的な労働層に関して云えば、確かに職を奪われた。では、メキシコの側がウハウハか、というとそれも違います。


メキシコメキシコ革命*7の際に不徹底ではありましたが土地の分配政策を進めました。大荘園で小作農をしていた貧農を救うためです。

以後、自営農民はほぼ自給自足に近い生活を送っていたのですが、メキシコへの企業進出はその農村の荒廃を招いたのです。企業進出によってメキシコのGDPは増大しましたが、自営農の生産には関係が無い*8。ですから、物価上昇によって貧しくなり、工場労働への移行が進みます。工場労働者になれればいいのですが、全員がそうと云う訳にはいかない。併せて資本自由化により企業経営の大農園が他のラテンアメリカ諸国と同じように農地を買い占めます。僅かばかりの土地で行う農業も不可能になった農民が、国境を越えてアメリカ不法移民となるのです。

もちろん、アメリカメキシコの格差は激しかったですから、NAFTA締結以前からも越境は問題となっていました。しかし、NAFTA締結以降は拍車が掛かっています。アメリカに大量に流れ込んだ人々はどうなるのか。これも、不法滞在の立場の弱さから、過酷な労働、特にアメリカ側の低賃金労働者となります。アメリカ低賃金労働はメキシコ移民によって支えられている、と云っても過言ではありません。でも、それはアメリカの労働層が望んだ事でも、メキシコの自営農民が望んだことでもありません。恩恵を受けるのは、もちろん両国富裕層なのです。


この構図、どっかで見た事がありませんか?これは、イギリスにおける東欧移民の話とピッタリ重なっているのです。イギリスの労働層は東欧移民によって職を奪われた、と不満を募らす。東欧移民もEU内の自由貿易によって故郷での生活環境を奪われて移民としてイギリスに渡るのです。世界中でこのような構図は見られます。ですから、格差拡大に対して手を打たなければならないのですが、自由貿易信奉者は有効な手を打つ事が出来ない、というか打つ気が無い。結果として、移民へ憎悪の眼が向けられるようになるのです。

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特に問題なのが、不法滞在という立場の弱さゆえに、メキシコ人移民社会犯罪組織の温床になっている、ということです。昨今、メキシコ麻薬組織の残虐な犯罪行為が話題になり、メキシコ北部アメリカ国境近くの都市では警察や行政さえ麻薬組織の抑え込むことが出来なくなっています。

麻薬組織にとって、現在の状況では運び屋に事欠きません。また、銃社会アメリカから強力な銃器を手に入れる事も出来る。このような事態は、NAFTAによって引き起こされた、といって良いでしょう。ちょっと前に新聞記事に出ていた話ですが、麻薬組織警察自治体首長さえ襲撃するのに、外国企業の社員は襲わないのだそうです。何が自分達の存立基盤を作り上げたのか、良く分かっている証拠でしょう。


さて、このような自由貿易批判を行うと、お決まりなのが「保護貿易ファシズムを生んだ」というエピソードです。1920年代後半の大恐慌時に、イギリスフランス植民地とのブロック経済圏を構成し、外の製品・サービスを排除した。そのため、“持たざる国”だったイタリアドイツ、そして日本右傾化したのだ、みたいな話ですが、デマもいいところです。

まず、一つにはイタリアファッショ化は第一次世界大戦直後には始まっています。そして、ドイツでも大戦直後に萌芽が見られますし、不況の結果伸長してきたのはナチスだけではありませんでした。最終的にナチスの後押しをしたのは、共産化を恐れ(反共産主義としての)ナチスを支持してドイツ投資した内外の資本や支配層だったのです。

日本に関しては、保護貿易かどうか関係ない事は判りますよね?明治維新後、“順調に”進んできた帝国主義政策の当然の結果と呼べるものでしかありません。

保護貿易ファシズムを生んだ」というのは、あまりに歴史的経緯を雑に解釈したものなのです。

それどころか、大恐慌時にイギリスが強いた「ブロック経済」とは、英連邦内部における「自由貿易」体制だったのです。現在のEUと同じですね。結果として各植民地経済に対するイギリスの支配が強化されました。第一次世界大戦後、各植民地では独立運動が盛んになりますが、本国経済立て直しのために植民地にツケを廻した結果も一因となっているのです。

自由貿易は素晴らしくありません。そして各国が経済状況を鑑みて関税を自主的に決めることは、何も問題ありません。むしろその方が産業の多様性を生むことになるでしょう。もちろん、関税を決めるにあたり、その基準や選定プロセスに関しては透明性を上げる必要はあります。でも、皆の反対を押し切ってまで自由貿易を進めなければならない理由は何一つ無いのです。

では。


追記:

最後に新自由主義自由貿易について、朝日新聞アメリカ総局長の認識のくだらなさを示すとしましょう。

ラガルドIMF 譲れぬ一線

何という変身だろう。最近の国際通貨基金(IMF)をみてそう思う。

財政の緊縮策や規制緩和を唱えつつ、先進国政治的に論争になっている政策にはなるべく口を出さない。それが長年のIMFのイメージだった。

ところが、クリスティーヌ・ラガルド専務理事率いるIMFは、「富の偏在」や所得格差の拡大を批判する。米国に対しては最低賃金を引き上げるよう勧告した。日本に対しても、女性の登用や賃金上昇などを勧告している。

今年6月には、IMFの3人のエコノミストが、「ネオリベラリズム新自由主義)、過大評価?」という刺激的なタイトル論文を出した。

資本自由化など一部の新自由主義的な政策は、所得格差を拡大し、社会の安定性を損ねて、経済成長を妨げていると指摘する。十数年前、私がワシントン駐在の経済記者だったころ、IMFは新自由主義の権化のようにみられていた。隔世の感がある。

IMFのエコノミストの中には「ラガルドは政治的だから」と、シニカルな見方を漏らす人もいる。

フランス出身のラガルド氏は、5年余り前、女性初のIMFトップに就任した。シンクロナイズド・スイミングの仏代表選手弁護士、仏財務相など華麗な経歴だが、エコノミストではない。

機をみるに敏で、「格差批判」や「女性登用」が政治的に受けるから前面に出している、との見方である。

だが一方で、ラガルド氏は政治的リスクを取っている面もある。

大統領選が終盤に入る中、最低賃金の引き上げは、民主党ヒラリー・クリントン氏が主張する目玉政策の一つだ。経済紙インタビューでは、共和党トランプ氏の保護主義的な貿易政策について「かなり破滅的だ」と批判。ヒラリー支持とみられても仕方ない。

注意すべきは、「IMFの変身」といっても、自由貿易についての考えは変えていない点だ。

第2次世界大戦の苦い教訓を踏まえて、米国欧州主導で戦後経済の枠組みは作られた。IMFは、国際的な通貨システムを安定させる役割を担い、貿易自由化は、欧州に本部を置く国際組織が旗を振ってきた。ただ、自由貿易はIMFのDNAの中にも埋め込まれている。ラガルド氏もそこは譲れない。

先進国労働者にとって、途上国と賃金で競い合うのは、確かにきつい。だが、主要国が保護主義へと傾けば、経済全体が落ち込む。失業者は増えて格差はさらに拡大し、ナショナリズムも台頭しがちである。トランプ氏の保護主義的な政策で貿易戦争となれば、3年後に米国雇用が480万人も失われると試算したシンクタンクもある。

IMFの最大の出資国は米国だ。もしトランプ大統領になったら、ラガルド氏は、「大株主」と厳しく対立することになる。トランプ氏は当選しないと踏んでのことか。いや、トランプ氏を大統領にしたくないとの思いが、つい出てしまうのだろうか。

アメリカ総局長)(山脇岳志)

(風 ワシントンから 2016.10.15 朝日新聞

世界の99%を貧困にする経済

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宇沢弘文のメッセージ (集英社新書)

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*1トランプ氏はその背景から、クリントン氏は一応当選後もTPPに反対するとは云っていたが、内容に含みを持たせている。

*2:私も閉鎖的で世界的潮流から外れた日本エネルギー政策を「ガラパゴス」と呼んだ事があります。判りやすいタームとして利用しましたが、本文中にあるように、この言葉は適当とは思っていません

*3水野和夫氏の著作に何度も取り上げられている。氏のオリジナルかどうかは不明だが、的確な警句だと思う

*4http://data11.web.fc2.com/jiyuuboueki6.html  のような研究もあるようですが、にも関わらず自由貿易がもてはやされるのか不明

*5:影響が極めて小さい場合は、単純な数式、いわゆる線形力学を利用する場合もあるが、スケールアップやスケールダウンに伴って、大概、非線形でなければ利用できなくなる

*6:ただし、三体のうち一つが極端に大きいか小さい場合は、二体間運動を揺らがせる摂動として扱う事が出来る。また、三体間の配置関係が特別な場合、特異解として記述できる。これの一つが、SFでおなじみのラグランジュ点

*7:北部からはパンチョ・ビリャ、南部からはエミリアーノ・サパタ首都に進攻しようとしたが、オブレゴンらに敗北したため革命は不完全となった

*8自由貿易体制によって、一次産業従事者が二次、三次産業従事者より不利になることは、一般的経済学教科書にも示されています

2016-10-29

[][]沼津市鉄道高架事業は止めるべき

だって沼津市について取り上げましたが、ちょっと状況がヤバそうなので、エントリーを上げることにしました。


自滅する地方 沼津三島伊豆

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20150712/1436692086


沼津駅周辺の鉄道高架事業の件です。

前回エントリーでも取り上げましたが、沼津市では駅周辺の高架事業を巡ってバタバタしております。市当局はかなり強引に高架事業を進めようとしていますが、貨物駅移転候補片浜地区住民同意が一部取得できないため具体的進展はありません。ただ、静岡県知事鉄道高架事業へ前向きになったため、今回の市長選次第では強制収用も含めて事業が進められる事になるでしょう。

ただ、その結果はどうかといえば、おそらくは沼津市に大打撃を与える事になると予測されます。

つまり、エントリータイトル通りの、沼津市の「自滅」となる、ということです。

これほど、ハッキリとした失敗例は今後の参考となると思われるので、指摘することにしました。


1.人口交通予測に見合った計画ではない


鉄道高架を進めようとする理由ですが、沼津駅周辺の道路トンネル式になっており、自由な往来が難しく慢性的渋滞を招いている事が挙げられています。自由な往来を阻むことが、沼津市の発展を阻害するので、高架事業によって沼津市が大きく発展する、的な話です。

もともと、私は「自動車利用による」交通拡大には批判的ですが、それは後にしましょう。市当局の述べる理由に限っても効果の程は疑わしいのです。

まず、沼津市に限らないことですが、今後人口減少が確実です。鉄道高架事業は、最短であっても10年以上掛かることが計画段階でも明らかです。現時点では移転土地取得が済んでいませんから土地強制収用に踏み切ったとしてもそれより早くなる可能性はありません。

また、人口推移以上に自動車保有率や免許保有率を考えても自動車走行台数は大幅に減り込みます。つまり、駅周辺の三か所のトンネルでも渋滞問題にならなくなる、と予想されるのです。

もちろん、市当局は、高架事業が行われれば、沼津市が発展し、産業雇用を呼び込み、人が増える、と主張するでしょうけど、もともと企業進出に至る理由として交通の便は重視されていないのです。たかが駅周辺が高架化されたからといって、それほど市が発展し、(日本の大半のトレンドに反して)人口増加すること自体が考えにくい。

むしろ、身の丈に合わない事業となるでしょう。事業費は約1000億だそうです。これだけの資金、他の教育福祉介護等へ使った方が有意義だと考えます*1


2.観光客を過大視している


もう一つの問題として、沼津市観光地である沼津港へのアプローチの悪さ、を挙げています。しかし、沼津港周辺はすでに県内外のクルマ慢性的に混雑しています。高架事業によって駅南北の車の通行がスムーズになれば、沼津港周辺の混雑が悪化するだけです。

そして、現在もそうですが、クルマによる訪問客を当て込みすぎるために、逆に港の魅力を損ねようとしています。クルマの往来が激しく、自由散策が難しい。小さな港町なのにクルマに風情を邪魔されているのです。

観光地はどこもそうですが、いい加減、無理してクルマ訪問客を呼び込もうとするのを止めた方が良いと思います。沼津あたりだとクルマ客は宿泊が少なく、お金も落としません。やみくもな訪問客数を増やそうとするより、利益率で考えた方が良い。クルマによる訪問を全面否定はしませんが、道路改善すれば客が増える、的な発想は無意味だと思います。


3.計画と見込が矛盾だらけ


前回も記した話ですが、沼津市は愛鷹山麓近く富士市から商圏を奪える位置に大型ショッピングモールららぽーと」を誘致する予定です。わざわざ用地転換や固定資産税減免措置まで優遇して郊外大型商業施設を誘致し、沼津駅周辺の高架事業を進めるわけですから、人口減の時代に一層の「郊外化」を進めよう、ということです。

ですが、沼津市は「コンパクトな街づくり」を進めるのだそうです。


第4次沼津市総合計画の一部追加修正

http://www.city.numazu.shizuoka.jp/shisei/keikaku/sogo/tuika.htm


意味がさっぱり分かりません。*2何度も説明してきた事ですが、(道路拡張・延伸・新設と区画整理事業等の)郊外化を進めるなら、(複合商業施設商店街事業補助等の)中心市街地活性化事業はムダになります。それは、相反する作用をもたらすからです。どこの地方も大体こうした事業を進めて地域経済を縮小させ、市中心市街地固定資産税収入を落ち込ませ、財政悪化させ、人口流出を招くのですが、未だ懲りる様子は無いようです。沼津市事業はその典型例でしょう。


今後の人口減少・高齢化社会においては、都市をコンパクトにする、事は欠かせないだろう、と私は思いますが、それは私の意見です。都市をコンパクトに保つ事に興味が無いのなら、それはそれで良いのです。道路拡張・延伸・新設と区画整理事業を進めて郊外化に拍車を掛けても、それが望ましいと思うのなら、それもありです。ただ、それならば、中心市街地活性化事業は止めるべきです。

逆もまた然り。都市をコンパクトに保ちたいなら、自動車を中心とした交通手段からは決別すべきです。道路拡張・延伸・新設と区画整理事業は中止ないしは凍結し、人が徒歩で移動できる圏内生活インフラアクセス出来るような都市構造を再構築すべきです。


沼津市の駅南側は、駅北側より多少まし、と以前述べました。時々メディアにも登場する上土(あげつち)商店街なども、駅の南側にあることが未だ救いになっています。


ようこそ 沼津あげつち商店街

http://www.roy.hi-ho.ne.jp/i846/agetsuchi-s/


もし、高架事業が行われて自動車交通スムースになり、市郊外大型商業施設の利用が容易になれば、こうした僅かばかり残った商店街も壊滅するでしょう。


4.ではどうしたらよいか


どこでも基本同じことではありますが、自動車を基本とした交通手段と決別するのが一番良いでしょう。

少子高齢化による人口減少。パリ協定自動車EV化/自動化という自動車への逆風。ライフスタイルの変化。どれをとっても、自動車を中心とした交通インフラは、将来の負債にしかなりません。先を予測するなら、コンパクトな都市とすべきですし、そこまで踏み切れないなら、せめて過去立案された都市計画を凍結するくらいの事はした方が良いです。

沼津駅周辺の高架事業よりも、沼津駅南北自由連絡橋の方が適当です。希望を述べるなら連絡橋というレベルでは無く、連絡広場と云える広さのものが出来れば面白いかもしれません。


無駄鉄道高架中止で市長申し入れ! (共産党市議 中田たかゆき議員ブログより)

http://blogs.yahoo.co.jp/syominnnohikari/65545307.html


地方はいい加減、拡大していく都市、のイメージから脱却した方が良い。もう、人口が増える可能性はありません。今後、どんな少子化が打たれるかは判りませんが、少なくとも今後2,30年内に人口増になる可能性は無いのです。とすれば、人口減、生産年齢層減、の前提で基礎自治体を維持することを前提にしなくてはなりません。60〜70年代に立てられたマスタープラン固執し続ければ、願望と現実ギャップはどんどん膨らみます。

幸いなことに先行例はあります。良い例も悪い例も。

皆様、今一度、自身の住む自治体はどうしたらいいのか考えてみましょう。

では。

*1:これは、国全体でも見てもそう考えます。「国土強靭化」や「雇用創出」と銘打った公共土木事業効果が薄く、その分を教育福祉介護等へ使う方が経済成長すると予測します

*2:ちなみに、この沼津市の挙げている市の計画像はさっぱり意味の通じないものです。流行りとなった「コンパクトシティ」を現状に無理矢理差し込もうとするので、こういう訳の判らない像になっています。