【+2】手に入れたかったもの

ストーリーの展開のさせ方がドラマっぽいのであるが、独特の雰囲気があり、またそれがこの業界のドロドロとした人間関係に合っているので、どちらかというと読ませてくれるという印象である。
まだ文章そのものの疎密さにムラがある(非常に細やかな描写になっている部分とかなり大まかに進めている部分の差が大きい)と思うので、その点は今後精進していただきたいところである(淡々とした記録文であれば少々ごまかしが利くのであるが、この手の書き方は手を抜いた表記をすると素人目にもすぐ分かってしまうから)。
怪異としてはむしろオカルティックな呪術にまつわるものとなっており、単なる超常現象だろうと高を括って読んでいただけに、この急展開は非常に驚きである。
ただ前半のディテールにこだわった内容と比較して、後半の急展開部分はやや内容を刈り込みすぎて少々粗な印象がある。
窮地を救った福田君絡みの部分が特に感じるところであり、彼の能力を示す内容が少なく、また札の謎解きの説明がかなりぞんざいになっているために、急展開の面白さと同時に唐突感が湧いてきたことも事実である。
登場人物の仕草など小説的な要素は書き慣れているという印象であるが、怪談として力点を置くべき箇所で内容の薄さを感じてしまうのは厳しいと言わざるを得ない。
怪異に関する表記については極端な不足感はないのであるが、それ以外の部分がかなり濃い書き方であるために、必要以上に薄まってしまったというのが原因ではないかと思う。
結構希少な怪異であっただけに、その部分のバランスを何とか解消して欲しかった。

【−1】びゅん

不思議なものの目撃談というものは実際このぐらいあっさりとした内容であると思うので、作品そのものはそれなりにまとまっているだろう。
ただその中で減点にした理由であるが、“びゅん”という表記が全てである。
体験者は、このあやかしが“5センチほどの大きさで半透明のもの”であると確認している。
しかも“ゴキブリやネズミでもない”と断定しているので、間違いなくその何かをある程度観察できているはずなのである。
ところがそれが移動している部分の表記が“びゅん”だけである。
容姿に関する情報と比べると明らかに不足していると言わざるを得ないし、高速で見えなかったのかというとそんなことは全くないほどしっかりと観察している。
感覚的な言葉で速さを出そうという試みだと推察するし、表記方法の上でも巧く書いていると感じる。
しかしその一語だけで速さを表そうとしたところに無理があると思うのである。
もう一言二言何か速さに関係づけられた文言が書かれてあれば、しっかりとした目撃談であると評価できるし、よくまとめられた作品であると感じることができたであろう。
我々の想像を絶するものであるから“あやかし”なのであり、その理解の範疇を超える存在を簡単な表記だけで描写することは至難の業であると思うし、それ故にある意味“言を尽くす”作業が必要だと思うのである。

【+4】硫黄島奇譚

硫黄島”という言葉が心霊マニアの中でどれだけの価値を持っているかを知っているならば、この評点は当然の帰結である。
むしろ、この評点は減点した上での結果であることを明言しておきたい。
それだけ硫黄島の怪異は凄まじく、そして滅多なことで体験できるような代物ではないということである(廃墟侵入が違法とかいうレベルではない。硫黄島にたどり着くことすら一般人では不可能なのである。だからこそ希少性で言えば、無条件で最高評価をするしかないのである)。
硫黄島関連の怪異は今まで自衛官のみの証言しか確認しておらず、民間人(施設工事などでまれに訪れることがあるとのこと)による証言は記憶する限り初めてである。
しかも記録されている内容が非常に凄まじい。
あれもこれも詰め込みすぎて焦点がぼやけてしまった感があるが(これが唯一の減点対象である)、漏れ伝え聞く怪異と内容的に合致する点も多々あり、尋常ならざる世界が展開していることは十分わかるレベルである。
特に地下壕の写真や、生身の人間を連れ回す日本兵の霊などは、圧倒的なインパクトを与えてくれる。
結構淡々とした書きぶりなのであるが、やはりそれでも読者にとって衝撃的であることは間違いないところである。
硫黄島の特殊性を考えると、その島の来歴について語らなければならないし(我々の先達たちが辿ってきた歴史を再確認することは“伝承”を継承する者にとっては必要不可欠である)、普段見聞することすらままならぬ場所での生活なども記録してこそリアリティーがあるというものである。
ただそういう点も考慮に入れた上で、やはり怪談として盛り上がりのあるエピソードを作り出すべきだったと思う(少々長くなったとしても、日本兵に連れ去られた男の話を核と据えて書き込むべきだっただろうし、十分できるだけの情報はあると思う)。