太宰治との出会い


        

         冨士には月見草がよく似合う


これは太宰治の「冨嶽百景」のなかに書かれている文章だ


小学校5年くらいの時に姉に買ってもらったのが太宰治との出会い


少々早熟だったかもしれぬが 亡母が月見草が好きだったので


身近に感じて読むことができた


母は月見草を摘んできて ぴんと張りつめて咲く黄色の花を見ては


これは良い花なんだよね〜と云い 私にはクリーム色の服を着せた


本は短編集だった その中の「女生徒」は実に私を惹きつけた


後年 それは太宰のところに送られてくる女性の日記を


ちょっと手を加えて発表したものと知ったが


それはもう 彼の手にかかって魔法の一文となったに違いない


何度も読みかえし それは二十代過ぎても読み続けていた


「一番好きな小説はなんですか」との作家たちへの質問に


高橋源一郎さんが「太宰治の(女生徒)です」と答えていて


実に実に嬉しかった


太宰治もまた裕福な家庭の生まれであり(山頭歌もね)


無心の限りを尽くして そして女性と心中未遂 そしてし遂げてしまった


玉川上水を彼は汚したと言ってよいと思う


誰彼の、多くの読者の、近隣の方々の心を暗くした


それは作家としてあるまじき行為だ


作家は読者にある種の希望をもたらす義務がある


それは責務である 時は過ぎても 残念至極である


「女生徒」これはお薦め本





     夜の花に魅せられてカラスウリから月見草へ


     昼に摘んできて挿しておくと夕刻に月のように咲く


     ほんとうに月見をするごとき心地なり






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