『ニッポニアニッポン』阿部和重

ニッポニアニッポン (新潮文庫)
本木桜……どこかで聞いたような名前だと思ったらそっちですか。
日本一萌えに詳しい精神科医斉藤環さんが解説でなにか色々言っちゃってるので、妙に感想書きにくい本になっちゃってますね。作品ひとつに対して一意的に正しい読み方が定まるわけでもなし、あんまり気にしすぎないのが一番ですけど。

ネットの実情が……とかひきこもりが犯罪に走る様を……という言い方をされることもあるようですけど、どうもそのあたり順番が逆な気がします。これでネットひきこもりの犯罪性とか言い出すのは、「日本の性犯罪者のほとんどが毎日米を食べていたことから、米は性犯罪を助長することが分かる」みたいな主張と似たようなものです。必要条件と十分条件

それにしても読んでいて辛い小説です。主人公の妄念システムにあまりにも心当たりがありすぎて、終始グサーとかグササーみたいな効果音が頭の中で響いてました。「自分は優れていると思い込む」→「自分の知識をひけらかす」→「周りから疎まれる」→「大衆は馬鹿だと思い込む」→「ますます自分は優れていると思い込む」の悪循環。悪しきサーキュレーション。(同じ) デフレスパイラル。(別物)
程度の面でこそ決定的な差がありますけど、この手の妄念にとりつかれた経験のある人は決して少なくないはずで、そういう人にとって本書は非常に耳の痛い、心に刺さる内容です。その当時のものの考え方を突き詰めていったら、あなたたちもゆくゆくはこの主人公のようになっていたのですよー、みたいな。頭の痛い話ですね! ぎゃあ!(ヤケ) 以前の話を引っぱりますけどこのあたりの「友達がいないことに対する世間への逆恨み」から「本人の自覚」をまるっきり欠いてしまった状態が、まさにこの主人公なのだと思います。

あと裏表紙の紹介文はさすがにちょっといただけません。「日本という「国家」の抱える矛盾をあぶりだし、研ぎ澄まされた知的企みと白熱する物語のスリルに充ちた画期的長編!」いくら何でもこれはまずいです。お話の中で批難されているのは国家や大衆を身勝手な理屈で逆恨みする主人公自身の「浅はかさ」ですし、その企みは徹頭徹尾愚か者のそれとして書かれてますし。まあたしかにそう書いた方がイメージしやすくはありますけど、『デスノート』を「主人公の夜神月が次々と犯罪者を成敗する勧善懲悪もの」と紹介するくらい無理があります。