企業法務戦士の雑感 このページをアンテナに追加 RSSフィード

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2011-12-08

[][]最後の最後で使われた切り札。〜北朝鮮映画著作権事件の決着

平成19年の年末に第一審判決が出され、結論の是非をめぐって、マニアックな知財業界の一部で盛り上がりを見せた北朝鮮映画著作権侵害事件。

その1年後には、知財高裁が、映画の著作権による保護を否定しつつも、一般不法行為の成立を肯定し、放送局(一審被告)側に12万円の支払いを命じる、という衝撃的な逆転判決を書いたこともあって、渉外的な観点からも、著作権による保護と一般不法行為による救済との関係を考える、という観点からも、いろいろと注目された事件であった*1

あれから3年。

双方が上告受理申し立てを行ったこの事件に最終決着を付けるべく最高裁が示した結論は、原判決を破棄し、原告全面敗訴(被告であるテレビ局側の全面勝訴)とする当たり障りのないものとなったが、最高裁が示した判決理由の中には、原審までの間に出てきそうで来なかった本件の重要な本質も、僅かに含まれているように思われる。

そこで、以下では、この最高裁判決を簡単に見ていくこととしたい。

最一小判平成23年12月8日(H21(受)第602号)*2

上記のとおり、本件では一審原告、一審被告の双方が上告受理申し立てを行っており、いずれの申立に対しても裁判所が一定の判断を示しているので、それぞれについて順に見ていくことにする。

北朝鮮映画は我が国において著作物として保護されるのか?

一審原告は、原審の

本件各映画が著作権法6条3号の「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」とはいえない

という判断に対して、上告受理申立てを行った。

第一審から主要な争点として争われてきた点ではあったが、第一審、控訴審と、ほぼ同様の理由で原告の主張が退けられていたことを考えると、元々原告にとって苦しい状況だったのは間違いないところで、最高裁も以下のように、原審までの判断を是認する判断を行っている。

「一般に,我が国について既に効力が生じている多数国間条約に未承認国が事後に加入した場合,当該条約に基づき締約国が負担する義務が普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは格別,未承認国の加入により未承認国との間に当該条約上の権利義務関係が直ちに生ずると解することはできず,我が国は,当該未承認国との間における当該条約に基づく権利義務関係を発生させるか否かを選択することができるものと解するのが相当である。」

「これをベルヌ条約についてみると,同条約は,同盟国の国民を著作者とする著作物を保護する一方(3条(1)(a)),非同盟国の国民を著作者とする著作物については,同盟国において最初に発行されるか,非同盟国と同盟国において同時に発行された場合に保護するにとどまる(同(b))など,非同盟国の国民の著作物を一般的に保護するものではない。したがって,条約は,同盟国という国家の枠組みを前提として著作権の保護を図るものであり,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負担させるものではない。そして,前記事実関係等によれば,我が国について既に効力を生じている同条約に未承認国である北朝鮮が加入した際,同条約北朝鮮について効力を生じた旨の告示は行われておらず,外務省文部科学省は,我が国は,北朝鮮の国民の著作物について,同条約の同盟国の国民の著作物として保護する義務を同条約により負うものではないとの見解を示しているというのであるから,我が国は,未承認国である北朝鮮の加入にかかわらず,同国との間における同条約に基づく権利義務関係は発生しないという立場を採っているものというべきである。」

「以上の諸事情を考慮すれば,我が国は,同条約3条(1)(a)に基づき北朝鮮の国民の著作物を保護する義務を負うものではなく,本件各映画は,著作権法6条3号所定の著作物には当たらないと解するのが相当である最高裁昭和49年(行ツ)第81号同52年2月14日第二小法廷判決・裁判集民事120号35頁は,事案を異にし,本件に適切ではない。」

(5-6頁)

原審までの判断のように「権利義務関係が発生しない」と述べるにとどまらず、「権利義務関係を発生させるか否かを選択できるが日本国政府が発生させることを選択しなかった」という丁寧な書き方をしているところに、若干の真新しさを感じるものの、基本的に述べられていることは、これまでと何ら変わりはない。

判決が「事案を異にする」とした最二小判昭和52年2月14日は、旧商標法の下で、当時未承認国であった「東ドイツ」の法人に相互主義を適用した(審判請求の当事者能力を肯定した)ものであり、一見、本件とどこが違うのだ?という疑問も湧くところではあるが、そこは、制度の性質の違いや実質的要件充足性等も勘案しつつ、今回の判断に至ったのだろうと思う。

いずれにしても、我が国においては、北朝鮮の著作物については、著作物として保護されない、ということが明確にされた。

このような結論がハレーションをもたらす恐れについては、既に第一審判決後のエントリーで書いたので繰り返さないが、本当にこういう結論が妥当だったのか、ということについては、今後議論すべきではないか、と思うところである。


 原告著作物の利用が不法行為を構成するか?

さて、一審被告側が上告受理申立てを行ったのは、専ら、知財高裁が認めた、“まさかの”「不法行為に基づく損害賠償」の是非を争うためであった。

そして、そんな被告側の期待どおり、最高裁はこの部分について原審を破棄し、新しい判断を示している。

著作権法は、著作物の利用について、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に独占的な権利を認めるとともに、その独占的な権利と国民の文化的生活の自由との調和を図る趣旨で、著作権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、独占的な権利の及ぶ範囲、限界を明らかにしている。同法により保護を受ける著作物の範囲を定める同法6条もその趣旨の規定であると解されるのであって、ある著作物が同条各号所定の著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に使用する権利は、法的保護の対象とはならないものと解される。したがって、同条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」(7頁)

ここまでの説示は、かつてギャロップレーサー事件(最二小判平成16年2月13日)で、最高裁不法行為の成立を否定する際に示した判旨*3をアレンジしたような内容であり、一応は理解できるところ。

そして、最高裁は続けて、

「本件映画は著作権法6条3号所定の著作物に該当しないことは前記判示のとおりであるところ、1審原告X1が主張する本件映画を利用することにより享受する利益は、同法が規律の対象とする日本国内における独占的な利用の利益をいうものにほかならず、本件放送によって上記の利益が侵害されたとしても、本件放送が1審原告X1に対する不法行為を構成するとみることはできない。」

とする。

知財高裁が、「著作権の保護の対象とならない著作物について一切の法的保護を受けないと解することは相当でない」と述べたのにはそれなりの理由があったと思うし、本件のように、本質的な著作物性そのものには何ら疑う余地はなくても、単なる相手国家承認の有無、という理由だけで著作権法上の保護を否定されてしまう“かわいそうな”作品の場合は、なおさらそのように解する意義はあったのではないかと思う。

ただ、ギャロップレーサー事件以降の、知的財産権による保護と不法行為による保護の関係の整理状況を踏まえるならば、「知的財産権の行使と重なるような独占的利用形態」について、あえて不法行為で保護する必要はない、という結論になってしまうのもやむを得ないところなのかもしれない。

そして、原告側が、「映画を利用することにより享受する利益」として、単なる独占的利用の利益以上のものを裁判所に示せなかったことも敗因の一つだったのではなかろうか・・・と、この結論を見て改めて思うところである。


なお、個人的には、裁判所がある種の“サービス”的に述べた以下のくだりを読んで、ようやく・・・という安堵感を抱いている。

「仮に、1審原告X1の主張が、本件放送によって、1審原告X1が本件契約を締結することにより行おうとした営業が妨害され、その営業上の利益が侵害されたことをいうものであると解し得るとしても、前記事実関係によれば、本件放送は、テレビニュース番組において、北朝鮮の国家の現状等を紹介することを目的とする約6分間の企画の中で、同目的上正当な範囲内で、2時間を超える長さの本件映画のうちの合計2分8秒間分を放送したものにすぎず、これらの事情を考慮すれば、本件放送が、自由競争の範囲を逸脱し、1審原告X1の営業を妨害するものであるとは到底いえないのであって、1審原告X1の上記利益を違法に侵害するとみる余地はない」(7〜8頁)

本来であれば、適用を検討すべき場面であるにもかかわらず、被告側がこれまで抗弁として立てなかった(?)こともあって、日の目を見ることがなかった権利制限規定、著作権法第41条。

「写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、・・・著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができる。」

本来的な抗弁としてではなく、不法行為の成否を判断する場面で、しかも「仮定的な原告主張に対して考慮すべき事由」という極めて地味な扱いで用いられている一節であるが、それでもニュース番組中の映像使用、という事件であるにもかかわらず、「報道」の抗弁が出てこないところに強い違和感を抱いていた自分としては、最後の最後で、この切り札的権利制限規定のエッセンスが登場した、というのは、まぁ良かったのではないかな・・・と思う次第で。


今回の判決が、フジテレビのニュース番組内での“北朝鮮面白映像“の利用をエスカレートさせる方に働くのか、それとも、かの偉大な首領様の国で、我が国の著作物がやりたい放題複製される事態を招くことになるのか(苦笑)は分からないが、まずは今後の実務がどうなるのか、テレビを眺めながら影響を探っていくことにしたい。

*1:第一審判決につきhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20071227/1198948773控訴審判決につきhttp://d.hatena.ne.jp/FJneo1994/20090114/1232062118

*2:第一小法廷・櫻井龍子裁判長、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111208164938.pdf

*3:その後、下級審でも同様の説示(知財権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め・・・)が好んで使われた時期もあった。

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