落としどころが見えない「電子出版権」をめぐる議論

今年の著作権界の一大トピックとなった感がある「電子出版権」問題。
そして、年末の押し迫ったタイミングで、日経紙が、“ついに”といった感のある記事を掲載した。

文化審議会の小委員会は20日、現行法で紙の書籍のみを対象にしている「出版権」を電子書籍にも認めるよう求める最終報告書をまとめた。インターネット上で電子書籍海賊版が出回った場合、出版者も裁判で差し止めを請求できるようにする。文化庁は最終報告を踏まえ、来年の通常国会への著作権法改正案提出を目指す。」(日本経済新聞2013年12月20日付夕刊・第14面)

これまで、多数の論点において様々な意見が出され、一時は混迷のまま夜明けを見ることはないのでは・・・とすら、思えた状況だっただけに*1、これは来年に向けて明るいニュース・・・と思った人も多いことだろう。

だが、この記事のソースとなったと思われる、文化審議会著作権分科会出版関連小委員会のサイトに掲載されている「報告書(案)」(http://www.bunka.go.jp/Chosakuken/singikai/shuppan/h25_09/pdf/shiryo_1.pdf)を見ると、ちょっと印象が違ってくる。

決まったこと、決まっていないこと

この報告書、確かにステータスとしては「最終とりまとめ」だし、「検討の結果として一定の方向性が得られた」ということも、報告書の中では強調されている。
しかし、良く読むと、出版社とそれ以外のステークホルダーとの間でもっとも意見が分かれていた点について、何ら結論を出さないまま、まとめられていることに気付く。

具体的には、「紙媒体での出版と電子出版に係る権利を一体とした制度設計が適当かどうか」という制度設計の大元となる論点について、

「以上のとおり、小委員会における検討を踏まえれば、一体的な権利として制度化する場合と別個の権利として制度化する場合との差異は特段ないと考えられる。しかしながら、本件について関係者の意見に隔たりがあるのは、電子出版についての契約慣行が十分に確立していないことが一因となっていると考えられる。出版権制度が著作権者と出版者との設定契約を基礎とする制度である以上、今後は、出版界として、出版者と著作権者が協力して契約慣行を形成していく努力を行うとともに、実際の契約締結の過程においても、出版者が著作権者に対し、契約の範囲を説明し、契約上明示していくことが極めて重要となると考える。こうした出版界の取組等を通じ、著作権者と出版者との間に信頼関係が構築されれば、多大な労力と資本を投資し、企画から編集、制作、宣伝、販売という一連のプロセスを引き受ける出版者と著作者との密接な関係の下で創作される著作物については、紙媒体での出版と電子出版に係る権利が、おのずと同一の出版者に一体的に設定されていくことが想定され、そのことにより、出版者が、紙媒体での出版及び電子出版を行うだけでなく、インターネット上の海賊版に対応できるようになることが期待されるところである。これらを踏まえ、電子書籍に対応した出版権の立法化に当たっては、小委員会で示された関係者の意見や出版・電子出版の実態、出版者の役割等を考慮することが必要であると考えられる。」(23〜24頁、強調筆者)

と、極めて玉虫色な表現にとどまっているのである。

「契約慣行の形成」や、それによる「信頼関係の構築」という点にわざわざ言及し、それによって「おのずと・・・一体的に設定されていくことが想定され」る、という言い方をしているところからすれば、“一体的ではない制度設計”を行うことを暗に示唆している、と読めなくもないのだが、それを明確に言い切っていない、というのが、この報告書の巧いところ、かつ、ずるいところで、その結果、上記日経紙の記事においても、

著作権法改正案の条文の構成は文化庁の判断に委ねた。」(前記)

と報じられることになった。

主体も客体も決めたし、出版社側が強く要求していた「特定の版面に対象を限定した権利」だとか、「みなし侵害」規定だとかいったややこしい提案もすべて退けた、しかも、再許諾や出版義務、といった権利とセットになる様々なツールの採否まで方向性を示している・・・ということで、文化庁サイドとしては、これで十分だろう、という思いも当然あることだろう。

ただ、大手企業同士が取引を行う場合とは異なり、零細企業たる出版社と、純粋な個人であることが多い著作権者との関係の中で、「契約慣行の確立、形成」をいかに求めたところで、そう簡単にはいかないだろう・・・というのは、筆者自身の経験からも察しが付くところで、そうなると、“デフォルト・ルール”がどうなるのか、というのは、学者や大手企業の担当者が想像している以上に重要な問題になってくるのではないだろうか。

それゆえ、最終的に、法案化の段階でどのような落としどころを文化庁が見出すのか、は分からないけれど、最終的にどこに落ち着くのかは、まだまだ予断を許さないのではないか・・・と思えてしまう次第である。

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