ケイト・ブッシュ

 12年ぶりの新作「エアリアル」が出た。唯一無比の彼女のボーカルを軸とした、透明感と躍動感の奇妙な同居とでもいうべき、その音世界は何にも変わらず、いや変わったからこそ、変わらないように12年間を超越したのか、何ら不自然さなく、しかし明らかに他とは違う輪郭を持って、大脳に押し寄せて来る。その音世界。
 素晴らしい。
 今でも明石家さんまの「恋のからさわぎ」のオープニングに19歳の彼女のミラクルボイスが響く。そう「嵐が丘」の衝撃から28年。
 47歳になったケイトの声は、深みを増したのだろうが、驚くべきことに、あのきらめき透明感を全く損なっていないことに驚く。
 子育てと主婦に全てを捧げ、今またこうして音楽シーンに戻ってきたケイト。永遠の少女性というものがあるとすれば、それが彼女の世界なのだと思う。
 少年とは違う、すこし性的な、男からすればドギマギする、生々しい血のにおいの混じった世界。
 ああ、何かとても安らぐ。恋愛バラード歌手には絶対に醸し出せない大いなる安らぎ。三文フォークシンガーには絶対に提示できない、躍動する肉体性。
 至福なる傑作に賛美を惜しまない。