「n_ext」展シンポジウム

 遅くなりましたが、面白かったので久しぶりにきちんと書いてみようと思います。4月より行われているICCの「n_ext」展のシンポジウムに行ってきました。出品者よりエキソニモ・徳井直生さん・澤井妙治さんが参加。司会はセレクターである四方幸子さん、コメンテーターに久保田晃弘さん。
 まずは四方さんより、エキソニモ→徳井さん→澤井さんの順番で、できれば展示作品とスパイラルで行われたライブを絡めて20分ほどでプレゼンテーションをしてくださいという導入。会場にはアーティストが持ってきたラップトップがプロジェクションできるようにしてあり、エキソニモの千房さんが早速URLを表示させて「ネット中継は始まっていますか?」との確認。そう、ICCのシンポジウムって毎回公開中継されているのです。
 指定されたのはhttp://www.exonemo.com/m/で、アクセスした人がそれぞれサウンドを生成するポップアップウインドウを作れるネット作品で、ブラウザの種類やウインドウの位置で生成されるサウンドと波形が変化するというもの。ウインドウをドラッグすると、その位置情報を自動的にループさせてサウンドが変化しながら反復運動を繰り返す。赤岩さんがログインして説明を加えている合間に呼びかけに応じて次々にウインドウが現れる。同時にアクセスしている人のウインドウとサウンドもモニターすることができるから、ネット中継を見ている人が千房さんの説明に反応してさまざまな位置にウインドウを動かして遊んでいる様などが分かる。自分もモバイルできる環境で来てたら渋かったなとか思いつつ、このシンポジウムの場でしかできない体験に早くも満足。ただ、今回の出品作品とは全く関係ないのですが。。。「アートビットコレクション」に出品されていたブラウザの作品や森美術館の「六本木クロッシング」に出品されていたGoogle絵画の作品もそうですが、彼らのネットを使った作品はかなり面白いと思います。四方さんが「サイトスペシフィック」ならぬ「メディアスペシフィック」という言葉を使われましたがまさにその通りで、いつどこから見ても完全に同一でありうるはずのものが、ちょっとしたアイデアを持ち込むことで驚くほどに一過性のあるものに変容しているのです。
 そしてやっと出品作品の《VHSM》について。これは複数のプロジェクターのレンズ前部にそれぞれ切込みの入った円盤をつけて、Max/MSPで回転を制御しつつ映像をプロジェクションするというもの。山口情報芸術センターでもバージョン違いを見ていたけど、展示を見ただけではどこが面白いのか分かりにくい。要は映像が点滅するんですが、元々PCでVJをする際に、ソフトの限界を超えてより激しく映像を点滅させるために考えたシステムとのことを聞いて納得。何でももない映像のフレームレートを擬似的に変えて見せたり、3重に映像を重ねてそれぞれにRGBを割り当てたりというアイデアは付随して生まれた試みだったとは。脱線したのもありこの辺りで早くも持ち時間オーバー。後半は駆け足で進む中、《VHSM》のシステムも用いたライブとの関係についての話とまとめ。どうやらデジタルツールを使っているけれども機械的な表現にならないよう、生物的なとりわけ動物的な感覚を大事にしているから、ライブでもアウトプットの一部に中吊りにしてターザン風に揺らしたラジカセを使ったということを「Fank」という言葉をキーワードに言いたかったらしいのだけど、展示との関係性をあっさり否定してしまったために四方さんの顔が曇る。まぁ別に関係なくてもいいのだけど、プロジェクターには回転盤つけてたらしいですからね。ともかく回転盤なりラジカセなりGoogle絵画なり、デジタルな力に頼りがちなメディアアートにおいて、「何か」を挟み込むことで表現として面白いものにしていく方向性がありますねということで四方さんがきれいにまとめる。
 徳井さんはうまく話をつないで、エキソニモが表現との間に動物的なFankを挟むのならば、自分はコンピューターの人工知能的な半自動のシステムを挟んでいるということで共通点があるかもしれないという前置きで、パワーポイントのプレゼンテーション。展示用に作り変えた《SONASPHERE》は、そもそもサウンドファイルをラップトップを使ってライブ演奏する際に、どこまでがライブでどこまでがプリセットなのか観客の理解を助けるために、同時プロジェクションするインターフェースに仮想3D空間のビジュアル使ってファイル制御の様子をダイレクトに伝えることができるソフトです。アップリンクでのイベント(http://hworks.readymade.jp/ev/)に出演してもらった時もこの切り口でお願いしたのですが、人工知能の研究をされていたのもあってか、ソフトウエア作品はプログラムであるが故にアーティストが制御しきれない部分がある点にも徳井さんは注目していて、その可能性はアーティストのアクション(=クリエイティビティ)と同値であるといっても過言ではない、といった立場らしいです。つまりツールとしてコンピューターを利用して作品を作っていくよという考え方も然りあるけれども、自分はむしろこれと対峙してせめぎあうものから表現を生み出したいという思想に基づいてやっていると。
 こういった形で見事に制作の根幹をなす思想の部分が提示され、後半は実際にライブ用《SONASPHERE》を動かして見せる。仮想3D空間の中で立体的に音が変わっていく様は何度見ても面白い。さらに展示用に作り変えるにあたって、ライブではないのである程度のプリセットをシビアに考えなければならなかったのでそのバランスの難しさと、観客のアクションというコンピューターの半自動性以上に予期できない要素、2D空間にプロジェクションすることで薄れてしまう3D情報の扱いなどが語られきれいに20分きっかり。久保田さんから楽器としてのソフトウエアの演奏を練習することについてなどの質問がいくつかあり。この辺り興味のある人はInter Communication No.47のおふたりの執筆を読むと軽い追体験ができます。
 澤井さんはラップトップを持ってきていないことの理由から。趣旨はメディアアートするを目的としてメディアアートを作ることの危うさと、機械を使う展示・イベントでの環境に対する問題意識の大切さ。久保田さんもよく語っていることですが、作品をつくるにあたって結果的にコンピューターを使ったり、メディアアートになることは良いが逆では駄目だと。そうなると副題に「メディア・アートの新世代」と銘打たれたこの展覧会は目的化されてるが故に澤井さんの批判の的になりうるのかもしれない。残念ながら作品鑑賞には予約が必要なのでまだ見ることができていませんが、無響室の中で聴覚で知覚する音波と鼓膜の触覚で知覚する振動波を使った作品とのこと。確かにこれはシンポジウムの場で再現どころか疑似再現すら不可能です。音波はもとより狙い通りの振動波なんて、無響室以外では知覚させることすらできないのでしょう。大学の講義で高周波を聞かされたことがありますが、その環境で再生できる帯域も限られるし、さらに聴覚にも個人差があることがよく分かったのを記憶しています。澤井さんの言う環境にはそういった個人差も当然含まれています。幸か不幸か会場のPAからは常時高周波のハウリング(もしくは仕込み!?)があり、うるさかったのですが聞こえなかった方もいたのでしょうか。
 澤井さんの挑戦的な(!?)問いかけから議論は急速にメディアアートがどうあるべきかという方向にいくも、断片的なネタが続きここからは特筆すべき展開はないように思われた。というのも九段下に行く用事があり残念ながら途中退席だったのです。プレゼンと議論がひと段落して徳井さんが「audio foma」出演でCAY行きのため抜け、ICCの畠中さんが加わったところで。会場で何人か知り合いを見かけましたが、どなたか追加レポートお願いします。あと、行けなかったライブも。
エキソニモ http://www.exonemo.com/
徳井直生 http://www.naotokui.com/