『多読術』

 「千夜千冊」で有名な松岡正剛。以前から気になっていた人なのだが、本を読んだのはこれが初めて。本を読むという事について、インタビューに答えるという形で書かれていて、まるでテレビの対談番組を見ているような印象を受ける。『多読術』というタイトルではあるが、本を沢山読むためのノウハウが書かれているわけではない。ましてや速読法の本などではない。著述家であり、編集者であり、読書家である松岡正剛という人が、本というメディアについて考えていることが優しい語り口で書かれている。

 松岡正剛は読書を崇高な行為とは考えない。服を着たり食べ物を食べたりすることと同じ、アレを着たり、コレを食べたり。その日その時の天気や気分や体調で選ぶものだし、嗜好が変わることもある。時間をおいて食べてみたら以前と違う感想を持つことも当然ある。だから読書に貴賎はないともいう。新聞も雑誌もマンガも、どんな本も読書することに変わりはない。しかし本というものを軽んじているのかというとそうではない。読書するにあたっては、書物に対してリスペクト(敬意)を持つことも必要だ、と説く。さらに、読書というのは書いて在ることと自分が感じることとが「まざる」ということ。読書の頂点は「全集読書」。本はすでにテキストが入っているノート。吉本隆明は「文章の男前」。ときには「変な本」も読んだほうがいい・・・・。てんでバラバラな事を言っているようだが、一冊通して読むと十分理解できる。

 「なるほど、こういう本の読み方をしよう」と自分の読書人生の参考にすることもできるが、それ以上に書物と人間との関りを論じた松岡流「読書社会学」として読むと面白い。読書とは一体何なのか?地球上の生物の中で、人類のみに許されたこの営み(多分)について、一つの明確な回答がここにある。

多読術 (ちくまプリマー新書)
作者: 松岡 正剛
メーカー/出版社: 筑摩書房
ジャンル: 和書