『お気に召すまま』


 シェイクスピアの時代よりずっと以前から、ヨーロッパの人達は森や田舎での暮らしに憧れを抱いていたという。街を遠く離れ、不便ではあるが自然の懐の中で自由に暮らす、羊飼いの青年と純朴な乙女の恋を描いた詩や小説、絵画や戯曲が書かれた。実際の牧童の暮らしは決して「牧歌的」なんてものではなかっただろう。詩や小説、絵画や戯曲を楽しむことのできる裕福な人たちの夢想、無いものねだり、田舎者が都会に憧れを抱くのと同じだ。シェイクスピアの戯曲『お気に召すまま』を読んだ。全5幕の内第1幕以外は森の中が舞台という牧歌劇。宮廷を追われた貴族の男女、純朴な牧童と田舎娘が登場し恋をする。まぁ何とも明るく楽しいお話だ。

 この物語のヒロインは追放された公爵の娘ロザリンド。訳あって男の姿をして森の中に住むことになる。彼女のお相手となる男はオーランドーという貴族。勇敢で賢いのだが兄と仲たがいをし、老僕と二人で森に逃げてきた。そこで出会った若く美しい男がまさか憧れのロザリンドとは思わない・・・・。牧歌劇とは言うものの、そのまま宮廷劇にも使えそうな機知にとんだ台詞のやり取り。宝塚を思わせる男装の令嬢ロザリンドの魅力。おしゃれで肩のこらないエンターテイメントだったのだろう、シェイクスピアの時代から人気が高かったというのもうなづける。演出家気分でロザリンド役を誰にやらせようか・・・などと想像するのも楽しい。そんな一冊だった。

お気に召すまま (白水Uブックス (21))
作者: ウィリアム・シェイクスピア
メーカー/出版社: 白水社
ジャンル: 和書