『荒鷲の要塞』


荒鷲の要塞アリステア・マクリーン
 先に紹介した土屋賢二『汝みずからを笑え』の中で絶賛されていた。土屋賢二によると、筋がこみいっていて、予断を許さない。最初から最後までスリルとサスペンスの連続でたるむところがない。展開がきびきびしていて無駄がない。そして文章も良く、意外性、スリル、論理性、爽快さがこの本にはあるという。そこまで言うならと読んでみたらそのとおりだった。

 タイトルからわかるように戦争ものだ。イギリス軍のスミス少佐ら7人が爆撃機で猛吹雪の中を輸送されていくところから始まる。時は第二次大戦中、彼らはドイツ南部、オーストリアとの国境近くにあるシュロス・アドラー(鷲の城)へと向かっていた。シュロス・アドラーは南ドイツにおけるドイツ情報部とゲシュタポの合同司令部、『荒鷲の要塞』だ。ここに捕らえられているアメリカのカーナビー将軍を救出するのがスミス少佐ら7人に課せられた使命なのだ。

 主人公に心の迷いがないためだろう、余分な心理描写が書かれていない。スミス少佐は葛藤や悩みとは縁がないようだ。敵の本拠地深く潜入する特殊任務、いちいち心を動かしていては仕事にならないのだろう。魅力的な女性が二人登場するが彼女達も百戦錬磨の工作員、甘ったるいロマンスもない。しかしすべてが順調だったら小説にならない。次から次へ、これでもか、これでもかと降りかかってくる障害をバッサバッサと片付けていくのが小気味よい。目的に向かって着実に進んでいく充足感が次のページをめくらせる。1967年の作品なのだが古くささは全く感じられない、ただ入手したのが古い文庫本だったので活字が小さく、一ページの文字数が多い。眼がショボショボしてくるが、それでも一日で読みきってしまった・・・というか読みきらずには眠れない。映画化されておりDVDも出ているようなので、こちらも観てみたい。

荒鷲の要塞 (ハヤカワ文庫 NV 162)
作者: アリステア・マクリーン
メーカー/出版社: 早川書房
ジャンル: 和書