『親不孝長屋』


『親不孝長屋』池波正太郎平岩弓枝松本清張山本周五郎宮部みゆき
 サブタイトルに「人情時代小説傑作選」とある。5人の作家の人情話がそれぞれ1作ずつ、親子の心の触れあいやすれ違いが生き生きと描かれる。一流どころの競演なのだから面白くないはずがない。短編というのも良い、短い紙幅に並ぶ一語一語はどれも研ぎ澄まされてムダがない。

 CDを買うとき、オムニバス形式は好きじゃない。ポップスの場合、1枚のアルバムのカラーというか匂いのようなものを大切に味わいたい。それはそのアルバムのコンセプトであったり、アーティストのその時期の心情や志向性、力量や勢いの結果だったりする。その意味でベスト盤というのもめったに買わない。クラシックの場合は1枚のCDが一人の作曲家の曲で占められていることが多いのでその点助かる。抜粋ではなく『作品X(全曲)』というのが望ましいし、全曲集や全集はもっと良い。

 さて、オムニバス形式の『親不孝長屋』。自分では絶対に購入しないタイプの本だが、いつも面白い本やCDを紹介してくれる職場の後輩のお勧めで手に取った。冒頭に書いたとおり、一流の作家達による「いい話」ばかりだ。江戸時代の庶民の暮らしを描いているが、子を思う親心、親を思う子の心、親の心子知らず、若い頃の無茶・・・知らず知らず引き込まれ胸にジーン。一作一作が味わい深く、続けて二つの話を読むことができない。

 200ページに満たない薄い新潮文庫、評論家の縄田一男という人が編者。最後まで読んで思ったのだが、この本は縄田一男が送り出す5人の刺客のようなものだ。女性が一人いるところなど、ナントカ戦隊の隊員5人のようでもある。さしずめ縄田一男が隊長ということか。この戦隊は読者の心の奥深いところをくすぐる。一人ずつ順番に違う角度から攻めてくるのだが、攻める場所は寸分たがわない、さすがだ。隊長と隊員が優秀であるのなら、オムニバス形式も悪くないと思った。

親不孝長屋: 人情時代小説傑作選 (新潮文庫)
作者: 池波正太郎, 松本清張, 山本周五郎, 宮部みゆき, 平岩弓枝, 縄田一男
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 2007/06
メディア: 文庫