『ロミオとジュリエット』


 14歳のジュリエットと16歳のロミオの恋を描いた悲劇。有名過ぎるほど有名な物語なのだが、今まで読んだことがなかった。舞台を見たこともないのだけれど、なぜか身近に感じるのはドラマや映画の劇中劇として何度も目にしてきたから。そういう人って多いんじゃなかろうか。

 解説によるとこの戯曲は1595年、シェイクスピアが30を超えたばかりの頃に書かれた。原型となった物語は、古くから語り継がれてきた民話。誰もが知っている話を芝居にするというのは、簡単なようで緊張する仕事なのだろう。皆の持っているイメージにそぐわなければ不評を買うし、全く同じでも新鮮味が無いといわれる。シェイクスピアがこの難事を成し遂げてくれたおかげで、古い民話が400年以上後の現代まで伝わり、地球の反対側の異国人を感動させるのだからえらいものだ。

 読んでみて意外だったのは、主人公の二人をとても純粋に描いているのとは対照的に、脇役たちによる結構下品なやり取りが随所に見受けられる点。古くから伝わる民話が題材なだけに、シェイクスピアとしては「現代的」なエッセンスを振りかけたのだろう。観客の多くはこのお話の結末をすでに知っていたのだろうから、こういったアレンジはきっと嬉しかったのではないだろうか。

 街を二分するモンタギュー家とキャピュレット家という対立の図式の真ん中に修道士ロレンスがいる。そのロレンスによってロミオとジュリエットが夫婦となったのだが、彼がもうすこししっかりしていれば若い二人は命をおとさなかった。対立の嵐の前の無力な中道派を象徴しているようで面白い。もう一人の中道派がヴェローナの大公。対立するニ大勢力を前にし、大公として街をまとめあげられないのだが、物語の最後で、死せるロミオとジュリエットを前に皆に呼びかけるところはカッコイイ。「その叫びたい胸、しばらくおさえてくれい。まず不明の点を明らかにし、事の源、その原因、その真相をたしかめねばならぬ。そのうえでわしみずから悲しみの先頭に立ち、まっさき駆けて嘆き死にもしよう、それまではがまんせい、不幸を忍耐の前にひざまずかせい。疑わしいものをここに連れてまいれ」殺人事件の現場なのだから、当然の処置なのだろうが、セリフの後半「わしみずから悲しみの先頭に立ち・・・」という所は感心する。上から力で抑えるだけでなく、皆と悲しみを分かち合う気持ちを表明している。伝えるべき事柄に自分自身の思いや気持ちを添える。このことで皆は納得し従うものだ。上に立つ人間として大切なことだよなぁ。


ロミオとジュリエット (白水Uブックス (10))
作者: ウィリアム・シェイクスピア, 小田島雄志
メーカー/出版社: 白水社
発売日: 1983/01
ジャンル: 和書