『テレビの大罪』


 大阪に来てからテレビの無い暮らしを堪能している自分だが、こんな本を見つけて思わず買ってしまった。著者の和田秀樹は東大医学部卒の精神科医精神科医というと、穏やかで優しいイメージだが、結構過激で熱い文章を書く人だ。

 前書きは「偽装問題」の話から始まる。「偽装問題」は耐震偽装や食品の賞味期限や産地の偽装など、テレビが徹底的に追求してきたテーマで、当時これらの業界は袋叩き状態だった。しかし著者によると、これらの問題で死んだ人はいないという。一方、表沙汰にはなっていないが、数々の偽装や情報操作で多くの人の命を奪っている業界があり、それはズバリ、テレビ業界だという。冒頭から過激だ。

 女性タレントのウエストはどうやら「偽装」であって、それらを裏づけなしに放送するテレビの影響で、過度のダイエットに励む十代女性の体を蝕んでいるという話、テレビで元ヤンキーが教育を語ることのおかしさから日本の教育問題に発展する話など、興味深いテーマが並ぶが、過激な医療過誤報道が小児科医や産科医の減少を招いているという話や、自殺報道が自殺増につながるという話は笑い事ではない。

 大人になり、仕事をするようになって初めて「スポンサーがお金を払うから、タダで色々な番組を見られるのだ」「スポンサーからお金を沢山もらえるように、テレビ業界の人達は一生懸命番組を作っているのだ」・・・ということが理解できるようになった。その結果テレビとの間にある程度の距離をおいて接するようになったのだが、それまではもっと真っ直ぐにテレビを受け止めていた。本当は間違っていても「テレビで○○が言ってた」というと、それ即ち真実であり絶対だったような気がする。テレビの無かった江戸時代でも「庄屋さんが言ってた」とか「じいさまが言ってた」というのが真実・絶対だったこともあろうが、テレビは日本中の人が見ている、影響力の大きさを考えると恐ろしい。

 少々過激ではあるが、テレビの影響をまともに受ける若い世代の人には一度読んで欲しいと思った。願わくば新書ではなく、もう少し若者の目に留まるような本で出版してくれたら良かったのになぁ。

テレビの大罪 (新潮新書)
作者: 和田秀樹
メーカー/出版社: 新潮社
発売日: 2010/08
ジャンル: 和書