ながおかドキドキ通信

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  小説「光る砂漠」ー夭折の詩人矢澤宰の生涯ー
      三條結核病院、宰の病室
 7月のムシムシする木造の病室。宰は寝巻き姿でベットに横になり中原中也の詩集をよみふけっている。そこに吉住先生がゆきを伴って入ってくる。
 「宰君、最近、血尿も出てないし病状も安定しているよ。どれだけ体力がついたか体重をはかってみようかね」という吉住先生。「ベットから降りてもいいんですか・・・」とうれしそうに吉住先生にたずねる宰。「ああいいんだよ。だいぶ体力もついたみたいだし、もう絶対安静じゃなくてもいいみたいだからね」と吉住先生。
 「よかったわね。じゃ体重をはかってみようね」とゆきもうれしそうにヘルスメーターを持ってくる。そして宰をベットから抱きかかえてヘルスメーターに立たせようとするゆき。宰が突然「一人で立ってみたいんです。ゆきさん」という。「大丈夫・・・」と心配そうなゆき。
 意を決してヘルスメーターの上に立つ宰。吉住先生、ゆきは目を凝らして宰の行動を見守った。左足、右足と恐る恐るヘルスメーターの上に立つ宰。メーターは41㌔を指針していた。「すごい!宰君、自分の足で立てたじゃない」と感動で涙ぐむゆき。隣の吉住先生もそれを見て目をしばたたせている。「出来た。今まで4年間、ベッドだけの生活たぢったのに!」と大喜びの宰。「よかった!。よかったわ!」と涙をこらえるゆきだった。
 夕刻、ベッドの上で食事を摂って休む宰。今日あった感動の出来事に布団の中でうれし涙にくれる。入院以来、続けて綴っている日記には「7月7日、水曜日。今日は一日、尿の具合は良かった。体重を測った。自分一人で立ったが41㌔。我、15歳の日を迎えん、本当に15年間生きたから、喜びとしなければいけない。親にも、今まで苦労、心配をかけたが・・・」と記した。
(続く)
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