Cinefex #2: Blade Runner 2020 Foresight
昨年11月に観た『ブレードランナー ファイナル・カット』の余波が続いている様子は、ここやここにも書きました。
しかしこうなったら、手持ちのブレラン関連書籍を総当りしてみようではないですか。
今回読んだのは、バンダイが1983年12月付けで発行した『シネフェックス』日本版第2号です。
読み返すのは十数年振りではないでしょうか。
全100ページ弱の内、80ページ強を占める特集は、『ダグラス・トランブルvsシド・ミード=「ブレードランナー」』。
原題は「Blade Runner 2020 Foresight」です。
もう1つの記事は『特撮界のニューパワー、ドリームクエスト=「ブルーサンダー」』
こちらは15ページ程度の記事です。
さて、ここは記事の原題に注目して頂きたい。
そう、まだ脚本上では2019年ロスアンジェルス・・・ではなく、2020年メガロポリスだった頃に書かれた記事のようです。
よって文中には2019年もロスアンジェルスも一切出て来ません。
記事は『シネフェックス』発行人でもあるドン・シェイ。
この特撮専門誌の与えた影響は日米共に業界的には大きかったようですが、最近ではDVDの特典映像に押され気味とか。
日本では版元を変えて細々と続いています。
版元が変わって残念なのは、版サイズの変更です。
原版では、トップ画像のバンダイ版同様に若干横長の変形サイズ。
実はこれ、35mmフィルムのスタンダードと同じ縦横比なのです。
それが日本版ではバンダイ撤退後は普通のA4サイズになってしまっています。
コスト面の問題もあるのでしょうが、こういったコダワリが失われるのは寂しいものです。
裏表紙は劇中に登場するブリンプのミニチュア。
言わば広告塔飛行船といった代物なのですが、「愛の終わり」「有名人そっくりさん18組」「結婚はしない。でもこの愛は貫きたい!」といった日本語がベタベタと貼られています。
『女性セブン』からの切り抜きなのですよね。
さて、現代にはDVDの特典映像が氾濫しているのだから不要な雑誌なのでは、と思っていた方がいたら、それは大間違いです。
DVD特典映像が不特定多数の観客を想定しているのに対し、こちらは特撮の知識がある程度ある人向けに書かれているのが分かります。
言っては何ですが、一般の人が読んでもチンプンカンプンではないでしょうか。
『シネフェックス』の記事の基本は、まず最初に映画の企画や製作の動機などをかなりはしょって紹介して行き、その後は特撮関係に絞って進めて行きます。
本記事もそう。
脚本家ハンプトン・ファンチャーへのインタヴューなど無く、いきなりリドリー・スコットのコメントから始まります。
そしてダグラス・トランブルと彼率いるEEG(Entertainbment Effects Group)の苦闘や、シド・ミードのコメントや仕事振りが紹介されていきます。
製作当時の1981年にコンピュータが使われていたのは、合成用に全く同じ動きを何度でも繰り返せるモーションコントロール・カメラくらい。
よって後は手書きのマット絵、光学合成、ミニチュアなどが多用されていきます。
近年の『シネフェックス』が当然のようにCGI中心の紹介になっているのに対し、こういった記事は懐かしくも楽しい。
今だったらコンピュータで簡単に出来る映像も、手作りで作り上げていくのですから。
でも当時特撮を担当していた人たちの幾人かは、時代の波に取り残される事無く、視覚効果監督を務めていたりしています。
自分の古い技術の上に新しい技術を積み重ねていく芸術家であり、技術屋でもあるのです。
1980年代前半から後半にかけて、中子真二の名著『SFX映画の世界』によって、日本でもSFXブームが起こりました。
お陰さまで様々な書籍の発行や、実際に映画に使われたミニチュアなどが展示された展覧会の開催など、楽しい思いをさせてもらったものです。
本作に登場するタイレル・ビル本社のクロース・アップ用ミニチュアも、現物を見ることが出来ました。
エッチングなどで非常に細かく装飾された表面に感動したものです。
本誌では、一流の技術屋でありながら超一流の芸術家でもあったダグラス・トランブルの数々のコメントが読めるのが嬉しい。
1980年代、彼とよく比較されていたのがILMのリチャード・エドランドでした。
エドランドは超一流の芸術家でありましたが、ILMという会社のカラー同様に無個性でありました。
しかしトランブルは個性的な視覚効果監督でした。
思い出してみましょう。
『2001年宇宙の旅』のスターゲイト、『サイレント・ランニング』の宇宙船、『未知との遭遇』のマザーシップ、『スター・トレック』のワープ。
彼の特撮は光の芸術とでも呼べるものでした。
本作では、当初から監督作品『ブレインストーム』の製作の為に、途中で抜けることが予定されていました。
よって彼のコメントが読めるのは少ない。
それに残念ながら、『ブレインストーム』を最後にハリウッド映画からは身を引き、ユニヴァーサル・スタジオの『バック・トゥ・ザ・フューチャー・ザ・ライド』などの巨大映像を専門に製作するようになってしまいます。
CGI全盛の現代では、ハリウッドで無個性なのは映画監督だけではなく特撮監督もそう。
トランブルこそが最後の個性的な特撮監督だったのかも知れません。
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