days of cinema, music and food

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Diary of the Dead


ジョージ・A・ロメロゾンビ映画最新作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』を観て来ました。
シネコンでの上映は公開初日の初回が14時50分という、観客が入りやすい時間帯もあってか、9割の入り。
男性率、男連れ率が高かったのは予想通りです。


卒業制作の映画を撮影中の学生達が、いきなり人肉を食らう死者大量発生という事態に直面し、記録を残そうとHDキャメラを回し続ける、というのがこの映画のプロット。
全編の多くが主観(POV)撮影なのは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や、『クローバーフィールド/HAKAISHA』同様。
もっともこちらは、Youtubeや携帯動画、監視キャメラ映像などを入り混ぜており、先の2本に比べると「普通の」映画に近いものとなっています。


映画の上映時間は90分少々と短いのですが、多少テンポが悪いように感じました。
自らのゾンビ映画に必ず批判や風刺を織り込むロメロらしく、今回もマスメディア批判、人間批判がダイレクトに込められており、今回はそれがもっとも直接的に描かれています。
『ゾンビ』は消費文明批判を、前作『ランド・オブ・ザ・デッド』がブッシュ政権を批判していたにも関わらず、娯楽映画としてのバランスが取れていました(『ゾンビ』北米版はやや長く、テンポが鈍重なところもありますが)。
しかし今回は娯楽よりも批判や批評が前面に出過ぎていて、娯楽としてのホラー映画としては出来が悪いように感じられたのです。
アーミッシュのギャグなど可笑しい部分もありましたが、全体に肩肘張って堅苦しいように思えました。


もっとも批評や批判、それにblogやYoutubeなどの使い方は鮮やかというか、感性が古びていないのには感心しました。
「主観が多くなると(客観性が失われて)真実が見えにくくなる」
「政府機関がソース元の情報はウソだ。若者たちがネットに上げる映像に真実は隠されている」
「大量に情報が投下される現代社会において、それらの虚実を選別出来るのは若者だ」
などといった主張は、徹底して左派且つ現代的感覚の持ち主ロメロらしい。
また、ネットでのアクセス数が評価に繋がり、その数を得るのが行動の動機となる若者の描写もリアリティがあります。


ゾンビは人間に噛り付くし、ゾンビ撃退場面はハードコアな人体破壊描写。
いわゆる「ゾンビ映画」としてはさすが本家本元だけあって、手抜きはありません。
主観映像ですから、”何気に”恐ろしい映像を撮ってしまう、というホラー場面も緊張感はそこそこあります。
しかし終幕の主観映像と監視映像を交錯していくくだりなどは、もっと徹底して描けば恐怖の増殖が感じられたのではないかと思いました。


かなり厳しく書いてしまいましたが、これもロメロ作品ということで期待値が高く、また大概のホラー映画を観ても恐いと感じずに、どうやら神経がいかれてしまっているらしい私の感想です。
よって肝試し代わりにホラー映画を観に行く観客もしくはカップルであれば、結構恐いかも知れません。
しかし彼ら彼女らが期待した娯楽映画としてのホラーよりも、社会派映画を観させられてしまったとあれば、やはり期待とは違う映画を観させられたと感じるのではないでしょうか。


ロメロは現在、『...of the Dead』というゾンビ映画を製作中です。
年齢からしても、リアルタイムで彼の作るゾンビ映画を劇場で観られるのは、あと2-3本でしょうか。
今度は孤立した島でのゾンビ映画ということで、まさかエピゴーネンの『サンゲリア』みたいにはならないでしょうが、やはり期待してしまうのです。