AFVクラブ「1/48 タイガーI 重戦車 後期型」

AFVクラブ製のヨンパチタイガーI、前期型もリリースされていますが今回取り上げるのは後期型のキットです。


ちょっと米軍車両を思わせるようなオリーブグリーンの成形色はいかにもAFVクラブ製品らしい雰囲気ですね。

転輪関係Cランナーは2枚入りです。


車体裏側、砲塔各部の機器類も細かくモールドされています。


通常のプラセメントで接着可能なベルト式履帯が標準装備です。


デカールエッチング、転輪に使用するビスが付属します。デカールについては5種類のパターンが選択できますが、ボックスサイドの完成見本、“ネズミの騎士”で有名な第505重戦車大隊は含まれていないのでご注意ください。ボックスサイドにはデカールシートのサンプル写真もあるので見比べればわかるのですが、どうしてメーカーは完成見本にこの個体を選んだのでしょうね?


さて本キット、日本国内では2013年9月のAFVクラブ新製品なのですが、実際にはもうちょっと複雑な履歴をたどったプラモデルです。知ってる人は知ってる話ですけれど、元を正せばかつて台湾に存在した模型メーカー「スカイボウ」社が開発し日本では「オクノ」ブランドで流通していたものでした。(いまでも検索すれば名残りがあります)タミヤがヨンパチMMを本格的に展開した2005〜6年ごろに追随して市場に登場したもので、特にこちらの後期型は当初から砲塔・車体ともツェメリットコーティングモールド済みので話題となりました。当時まだドラゴンのスマートキットが存在しなかった頃の話、時代を先取りしすぎた感もありますが……。


あらためてパーツを見てみるとコーティング以外の圧延鋼板テクスチャーなども充実していて非常に良くできたプラモデルで、開発当時のスカイボウの技術力が伺えます。詳しい事情は存じ上げないのですがスカイボウは本製品を開発した直後にかAFVクラブに吸収され、残念ながらオクノ版のキットも早々と姿を消してしまいました。その後AFVクラブ版のヨンパチミリタリーとしては251ハーフトラックや本キットバリエーションのシュツルムタイガー(考えてみれば実車同様の再生品ですな)などは日本国内でも流通していたのですが、何故か2種類のタイガーIは長らく入手難だったのでした。デカール著作権表記を見れば2006年にはすでにリリースされていた本製品が何故これまで日本で流通しなかったのか、それが今になって入ってくる理由は何か、その理由を考える行為は地雷原に直結する道なのでどんな重戦車でも進んではいけませんよ?


砲身はスライド金型を使用してマズルブレーキまで含めた一体成型。スカイボウ版発売時の模型誌のニューキットレビューなどでも「一体化」はキーワードのように多用されています。惜しむらくは当時(いや今でもかなあ)ヨンパチミリタリーモデルの位置づけがまだ不明瞭で、一体化すなわち省力化のように誤解されてた面もあったのではないか……と。


昔の話はそれぐらいでいまの製品を組んでいきましょう。シャーシー下面までオールプラ製の非常に素直なプラモデルです。サスペンションアームは深く沈み込んだ位置で車体側に固定されています。


取説の手順とは異なりますが、最初から後部パネルも取り付けてきっちりと車体を作ってしまったほうが何かと楽です。


前照灯の配線部分もディティールが在ります。最近出たタミヤの後期型は省略してるんだよねーこれー。


誘導輪は車体にビスをキリキリねじ込んでいく方式でちょっと怖い……よりも、車体と袖部をつなぐ補強板がモールドされていることに注意。


ポリキャップを使わずに各車輪を回転させるためのビス止め処置なのですが、プラセメントで固定しちゃっても特に問題はないかと思われます。


排気管のパーツもスライド金型使用で断面部分に細かいモールドが入ってます。


牽引ワイヤーも大変繊細な出来栄えでコーティング面との接合にもなんら問題は無い、実によくできたプラモデルだと唸ることしきり。


驚かされたのは車体上面のなにか接着ガイドのようにみえた四角いモールドが実は各種OVAの固定クランプだったことです。ブラボー!おお…ブラボー!!なんだかそんな気分だ。


スコップやワイヤーカッターなど車体前方の工具類もほとんど別パーツ化されていて、決して「一体化」だけでは語れないキットなのだなぁ……


オクノ版ではオプション扱いだったエッチングがAFVクラブ版では標準装備、ラジエーターグリルのネットは編み込みモールドも再現されたものです。


車体はこれで完成。やっぱりエッチンググリルが有ると違うなあ。有る事のプラスよりも無いままで済ませたときのマイナスが大きいのでしょうね。ヨンパチミリタリーモデルでこのあたりの再現をどうするべきか、タミヤのJS-2がやってる「最初からモールドしちゃう」のもひとつの解決法だとは思いますが。


(参考までに、こんなのです)


ここから砲塔部分です。前述の通り砲身は一体成型、ごく薄いパーティングラインをアートナイフでささっと削れば加工終了実に早い。思うにこのキット、一体化も別パーツ化もそれが必要とされる箇所に応じて適材適所を振り分ける、実にメリハリの効いた設計が成されているんじゃないでしょうか。


微妙に左右非対称なタイガーIの砲塔形状もちゃんと再現しています。繰り返しになりますがよくできたプラモデルですぬう……


新発売当時は「予備履帯固定具が一体成型」されていることが喧伝されていましたけれど、それもおそらく予備履帯だけ別塗装してあとから砲塔に接着しても歪み無く位置決め出来るとか、意味があってのことでしょう。全パーツ取り付けてから塗り分けるAFVモデリングの主流技法ではあんまり意味が無い分割かも知れませんがなにしろ非主流派は息を潜めて存在するものでな。


対空機銃架をスライドレールと一体化させているのは却って設計を大変なものにしてるんじゃないでしょうか、一体化イコール省力化ではない良いサンプルです。


MG34の対空表尺もエッチングが予備含めて3個付属します。ワンポイントでよいアクセントになるエッチングの配置は、90年代のタミヤ1/35キットに似た雰囲気を感じます。


すべて含めて完成です。思いのほか「ちゃんとした」プラモデルでっていうかタミヤのヤツより全然出来いいジャン!!」というのが正直な感想である。思うにタミヤがヨンパチ展開はじめた時期に、ユーザーサイドが求めていたのってこんな感じのプラモデルだったのではないでしょうか?


この素晴らしい出来栄えの割には旧オクノ版の評価があまり高くないように思えるのは、ボックスアートを使わずウインドボックスタイプで直接ランナーを見せていたパッケージデザインと、若干チープトイ的な印象設ける派手なグリーンの成形色、加えてただのペラ紙一枚だった取説など、パーツ以外のところで異様に安手の印象を持たれたからではないでしょうか。製品コストを削減していたのはよくわかるのですが、ちょっとそれが顕著に出すぎていたのではあるまいか……と。自分もあんまり良い印象を持たなかった用に思うんですよねどうもね。


ベルト履帯はティッシュペーパーとプラセメントを用いる方式で転輪に固定しています。いささか不自然になってしまったので一層の出来を求めるならば現在では連結可動履帯もリリースされています。これはAFVクラブのフォーマットに乗ったための良い発展ということかな。それもまた旧スカイボウの設計がよかったからでありましょうが。


オクノ版リリース当時のライバルであったタミヤの初期型のみならず、現在市場で競合している後期型と比べてもまったく遜色ないキットで「温故知新」とはこのことか。今回記事の参考としてオクノ版を製作されいる方のレビューをいくつか検索してみましたら、ちゃんと手を動かして作っていたひとは当時からキットのポテンシャルを正しく理解されていたのですねえ。あの頃の自分自身の不明をいささか恥じ入るキブン。


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