第1051回 池田市商業祭 二日目

 前日の池田商業祭打ち上げは、実に華やかに盛り上がり、最終、服部笑鬼師(関大落語大学OB会長)宅になだれこんだところまでは前回記した。
 明けて日曜。この日は商業祭二日目であると同時に、池田の社会人落語名人決定戦本戦の日である。予選の結果は、われらが部の至宝、千里家圓九君が勝ち残り本戦出場、その他ご懇意を賜るマイミクからこやし師、猿君らが進出されたと聞いた。この場を借りて、大会出場へのご努力と、あふれる才能に衷心から敬意を表したい。僕は、あなたがたの天賦に大いに憧れる一人である(後にこやし師優勝、次席猿君と伺う。奉祝)。
 師の服部ご本宅で心づくしの朝食を頂く。奥様お手製の炊き込みご飯だ。ワシワシと二杯をせしめ、茶をグビグビ飲んで洗面する。鏡の向こうには、まだ二日酔いでにやけているアホが映っている。
 身体を点検する。深酒の翌日の習慣だ。右肘の損傷は軽微、既に表面はかさぶたを形成し自力の白血球による応急的処置は完了している。右膝の損傷は甚大、ひざぼん中央に巨大な裂傷、また向こう脛に一部打撲とみられる内出血と腫れが見られる。まあ実際、この程度で済んでよかった。損傷の度合いは、先日の中国漁船に攻撃された日本国海上保安庁の巡視船なみであるが、自力航行可能である。口と顔に損傷がなくてホッとした。口は表現舎の源、顔は女優の命である。源と命さえあれば、なんとか今日も乗り切れる。
 
 一宿数飯の礼もそこそこに乱坊登録国際観光旅館・服部ご本宅を出陣。池田に向かう。九時着。
 さあ、今日もノンストップパワープレイな一日だ。昼前、ようやく血中アルコール濃度が車の運転をしても免許取り消しにならない程度まで回復(未だ免許停止レベル)。そして昼飯を詰めて正常に戻る。
 この日のてるてる広場でのメインの総合司会は、昨日の高丸君、やまは嬢に続いて、烏龍君、チャイナ服嬢である。両日とも混乱を極める進行の難しい司会を努力してこなしてくれていたと思う。敬意を表する。また、地元の高校生の放送部員たちの協力も見た。すばらしい若者たちで、表現舎、学ぶところがたくさんありましたぞ。烏龍君に、「お前のお顔は、舞台中央業務連絡員のM氏にそっくりだ」というと、悲しそうな顔をしていた。心配するな、顔だけだ。
 情宣、てるてる広場での大喜利、サカエマチ巡りは昨日と同じであるが、今日は引札寄席がある。出番がトリ前で、トリに失礼の無いように盛り上げてバトンをお渡しせねばならぬ。トリはわれらが爪田家粋花師である。だんだん力が入ってくる。
 一時開演であったが、阪大のこしあん嬢とサカエマチ巡りを二時まで喋りきり、会場へ走る。袖で打合せしてすぐに大喜利のコーナーへ。人生で最大の陣容だ。片翼六名、計一ダースの生徒を引き連れ舞台に上がる。立ち、だ。ダークダックス、ボニージャックス、玉出の角打ちスタイルで並んで、やる。
 いつも中央後方左五度にどっかと座られる大きな大将、山口の義理の母に似た奥様とお友達三人組様、孫とおばあちゃんコンビ、そして常に出演する寄席を見に来てくださるYご夫妻。ほぼ満席に近いお客様の中に常に、いつも暖かくご支援下さるおなじみのお顔を見出しホッとする。
 大喜利は、若い学生諸君のキャラクターがいきいきとお客様に伝わり随分と盛り上がった。僕は彼らとやってて最近舞台でマヂ笑いしている時がある。先生役の僕にしっかりと噛み、委ね、突っ込んでくる朗らかな彼らの嬉々としたさまを見ていると大変頼もしく思う。僕は君たちと共に舞台に立てて幸せだ。ありがとう。

 仲入り。出囃子を総覧する役にある高丸君は、実に毎回、出番の前にいつも聞いてくれる。
 「乱坊さん、出囃子、何で出はります?」
 僕は、毎回、同じことを言う。
 「何でもええ、君の好きな曲で」
 鳴っていることが有り難い。表現舎の通常は、無音に自発の「どうも、どうも」しかない。礼節に謝する。
 昼ママに送られ壇上へ。枕「表現舎の休憩時間はまたもお喋り」「自転車と戯れる男」、「親子酒」。
 親子酒はまだ胆から出来ていないことを痛感。11月のヘビーローテーションとすることを舞台上で決する。

 降りて、粋花師のおごろもち盗人を客席側から堪能しようと裏へ出ると、まだサカエマチ巡りが一本残っているという。前述のこしあん嬢とサカエマチ一番街へ再び走る。二人で二周目をじっくり巡る。
 一周目とは視点、内容を変えて延々喋るのだが、昨日のぶきっちょ君と同じで、彼女の詳細をほじくりながら店の紹介をこれでもかと続けていくと、なんだか同志のような心持ちになってくる。
 僕は、彼女の嗜好と異なる点を見つけると、
 「合わないねえ、そんなこと言ってると、君は、僕と、暮らせないよ」という。
 すかさず彼女は、
 「ええ、私は、乱坊さんとは、暮らさない」と返してくる。
 「いや、暮らせない、んだよ」
 「ええ、暮らさない、から大丈夫です」
 これを繰り返して笑う。完全に午前二時の居酒屋の会話である。二人とも頭が逝ってしまっている。
 美容室の説明をしていたときに、ノッた彼女が壊れたのを見た。
 「まさに、美容室というのは『こころのヘブン』ですからね!」
 そう言い切った後、彼女は顔を赤らめた。
 「…わ、私、今、『こころのヘブン』って言いましたね…」
 「ああ、言ったよ。言ってしまったね、『こころのヘブン』と。はっきり聞いた。で、『こころのヘブン』、って一体何だね?」
 「キャーッ、恥ずかしい!『こころのヘブン』だなんて」
 「ああ、なんともすごくダサい言葉選びだな、勉強になるぜ、メモしておこう。『こころのヘブン』、と。」
 「メモしないでぇ!」
 メモしておくところがないので、ここにメモしておこう。「こころのヘブン」と。

 一六時三〇分、ジャストスジャータでマイクを置く。引札寄席からお帰りの皆さんが、巡りをしている僕たちにお声掛けしてご支援ご声援を下さりお帰りになる。追い出し玄関口でのお礼ができずに残念に思っていた。答礼ができてよかった。
 打ち上げ。引札屋二階ではYご夫妻の御来駕を受け、粋花師の乾杯ご発声で全員の自己紹介を回す。一次はねて二次会は家族亭。本戦観戦後の皆さんが合流して下さった。
 十巣前会長から一言労いの言葉を賜ったとき、不覚にも男泣きに泣いた。十巣さんから褒められるというのは、男、いくつ何十になっても嬉しいものである。お後、Yご夫妻と出会えた喜びを語り合う。感謝。
 この日の打ち上げは、まさに僕の「こころのヘブン」であった(この単語、言うたびに恥ずかしいな)。