「シン・ゴジラ」を見た。 傑作だ。(ネタバレあり。)

夏休みっぽいことを一つでもしようと、評判のシン・ゴジラを見てきました。正直、あまり期待していなくて、まあ、怪獣映画だし、そこそこ飽きないで見られればお慰み、と言うような積もりだったのですが。
 私が浅はかでありました。これは面白い。とても面白い。とても興味深い。何通りにも解釈が可能な映画であります。いや、解釈は二の次なのであって、とにかく見ていて面白い、私の面白いと感じるツボをいくつも押してくれた作品でした。
 私は、エヴァンゲリオンは、知りません。世界系と言う言葉のニュアンスも分かりません。世代的にウルトラマンを子供の時に見た記憶はあります。でもアニメオタクでも、サブカルオタクでもありません。
攻殻機動隊は好きで、映画をわざわざ見に行ったこともあります。きわめて例外的な行動です。機動警察バトレイバーの映画第二作?、竹中直人が吹き替えをする斜視の警察官が戦後日本の安全保障についてなかなか説得力のある独白をするあの作品も、たまたま知人に教えて貰って見て好きになりました。私の好みと知識の度合いはその程度です。

で、シン・ゴジラを見ると、前半は「想定外」の出来事に対し、既存の政治組織が煩瑣な手続きに振り回されながら、なかなか的確な対応ができない様が描かれます。ゴジラを3.11の地震、およびそれによって引き起こされた原発メルトダウンと見立てて政治を批判しているという解釈は大いに説得力があります。しかし、官僚組織(民間を含む)というものは、一定の行動パターンでしかなかなか動けないものであるし、卓越した判断力や行動力をもった指導者を前提とした統治システムなどファンタジーというより、むしろ有ってはいけないものと思います。首相が愚鈍に見えるのも、超行政国家化した現代の政府において、全方向の配慮が必要ならやむを得ない、むしろ賢明な姿かもしれないとさえ思います。
途中主人公(らしき)若き官僚(長谷川博巳)が指摘する、第二次大戦においても、結果的に三〇〇万人を超す犠牲者を出した根拠のない楽観とそこからの希望的判断こそが責められるべきでしょう。眼前に起きていることが見えなくなってしまうのです。
また、平時と、非常時の意識的な組織の動かし方の違いもはっきりとさせておくべきです。そこのところがずるずるなのは、現実そのものであり、鋭い批判として見たいと思います。
 現実とは違うのは、主人公をはじめ、優秀な官僚、お宅ではあるが優秀なスタッフが解決策を見つけ、化学工場を稼働させ、各国のスーパーコンピュータをつなげて解析を行い、タンク車を調達して、ゴジラを倒すところ。
これは、物語として、エンターテイメントの視聴者のための落としどころ、敢えて言えば付けたりのようなもので、こうならなくてはヒットもしなかったでしょう。
だから、見るべきはそのような最終的な解決ではなくて、ゴジラの始末が付けられないでいる日本に対し、アメリカを中心とした国連が核爆弾の使用を通告してきて、日本政府がこれを受け入れてしまうところです。エリート官僚である竹野内豊は、その理由をここで同情をかって、後に莫大な援助を得る、と述べます。ああ、いかん。彼はエリート中のエリートですが、体制迎合的なエリートの思考方法を体現しています。幕末に、ロシアに迫られて北海道の割譲を考えた江戸幕府の官僚と同じです。そんな彼も、米政府の政府内駐在にはぎりぎり反対するのですが。この部分は、確かに3.11時の日本政府の対応への皮肉ですね。
竹野内豊演じる補佐官は、日本はアメリカの属国である、と言うことをはっきり述べます。そのような認識が、すでにこの国では当たり前なのかもしれません。彼の対応もそう考えれば属国のエリートとして当然なのかもしれません。どこで読んだか忘れましたが、ヒラリー・クリントンが、「中国の政治家は嫌いだが政治の話をしていると感じる。日本の政治家は、不動産屋と話しているみたいだ」とかつて言ったそうです。一国を本当に背負っているという認識が薄い政治家は、不動産屋みたいに見えてしまうんでしょうね。だから、竹ノ内豊がいくら優秀でも、すぐに利害に換算する不動産屋にしかなれないのです。

映画のディテールについて。特撮など、着目したい点は沢山有りますが、一点だけ。主要3人の、ごく僅かですが、英語を話す場面、それなりに頑張って練習したあとが見えます。こういうところは、映画のリアリティのために大事です。一番苦しかったのが石原さとみ。何しろ大統領も目指そうかという、日系アメリカ人の役だから、ほかの二人とは違って、本来べらべらの米国英語でなくてはならないのだけれど、それは無理な話。でもかなり頑張って良い線行ってたと僕は思います。米国で仕事をしているバリキャリの女性からの厳しいコメントも見かけたけれど、いや、日本人の英語としてはあれば立派ですよ。と擁護しておきます。

 最後に、私が個人的に一番ぐっときた台詞。いろいろ準備した事に対し、主人公から礼を言われた、自衛隊幹部(國村隼)が「礼は言わないでください。仕事ですから」と静かに微笑をたたえながら言うところ。かっこいい。あんな台詞言ってみたい。個人的にはとてもいえないばたばたのサラリーマンライフを送っている私ですが、それだけに、しみました。それだけ、私が、なんだかんだ言っても仕事大事なサラリーマンだって言うことでもあるのかもしれません。

 だらだらと書いてしまいました。今は、少し時間をおいて、もう一度劇場でみたいと考えています。