シング




<公式>
ストーリー: かつての栄光の時代の面影もなくさびれた劇場。オーナーのバスター ムーンは起死回生の新人発掘オーディションを企画する。最終選考には、日々の生活をこなしながらも夢をあきらめきれない男女が集まった。再起をかけたステージ。でも彼と出演者たちの夢は大量の水と一緒に流れ去った。いったん散りじりになったかれらは「もう一度!」と集まる…
美少女の顔をひたすらデフォルメして抽象化していくクールジャパンとは逆に、ピクサーもディズニーも人ならぬものにどう人っぽさを自然に見させるかノウハウを積み上げ続けている。クールジャパンの擬人化は美少女にモノの記号をくっつけるという方法で切り抜けているけど、ちなみに「なんじゃこりゃ?」と思うこのやりかたも、じつはルネサンス以降のヨーロッパ絵画のアレゴリーと同じ手法なんだよね。
それはともかく、本作はいろんな動物が擬人化されて歌って踊る、まぁわりと常道のパターン。でもいいんだよねじつに! デフォルメと演出がとてもていねいで、元の動物たちのキャラクターは残しつつ役の面影がちゃんと感じられるようにできてる。女性キャラクターはいわゆる美人キャラはいない。ブタにゾウにヤマアラシだ。やりやすいのはネコとかキツネとかじゃない? でも3匹とも、ほんわかした奥さんと、ポップカルチャーは好きだけど内気な少女と、小柄で目ヂカラがあるパンキッシュな女の子と…の顔立ちがほんのり浮かんでくるのだ。
ストーリーはシンプルに気持ちいい。主要人物、順番に拾っていってそれぞれ好きにならせる。あと、歌のチョイスもね。いい具合に新旧入り混じり、シメは……言ってもいいよね、スティーヴィ・ワンダーのアレだ。
ぼくはブタの奧さんのシーンでやけにじーんときた。スーパーマーケットでジプシーキングスがかかるのだ。空耳のクラシックでもあるあの曲。奥さんは歌もダンスもあきらめたはずだったのに気がつくとエンターテイナーになっている。「好き」がすべてさ、ていうね。

フォックスキャッチャー



<予告編>
ストーリー: デイヴ・シュルツとマーク・シュルツは1984LAオリンピックのレスリングで兄弟そろって金メダルを獲得した。でもアマレス選手のその後はきびしい。つぎのソウル準備に困っていたマークにいいオファーが来る。アマレスに情熱を持つ富豪、デュポンがチームを立ち上げるのだ。場所は田園風景が美しいペンシルベニアフォックスキャッチャー
とにかく静謐な映画で、画面のトーンだってそうだ。アメリカだとそれなりに知られてる事件なんだろうか? オリンピックメダリストが大富豪に殺される… ただアマチュアレスリングは、どう考えてもアメリカじゃマイナー競技。日本だって吉田沙保里はともかく男性の金メダリストの名前って思い出せる?まして、アメリカはLA大会では80人以上金メダリストがいたのだ。事件の細かいところまで覚えている人はわずかかもしれない。
そんなこんなで映画では登場人物の関係も事実を脚色して、時系列もより凝縮してドラマを成立させている。だから葛藤を呼ぶある人とある人の出会いは実際には起きていなかったり、微妙な味わいをもたらすある人とある人の関係は、実際には別の人間とのそれだったりする。モデルになったマークからするとBL風味さえかもし出す映画の関係性はだいぶ違うぜ、と言いたくなるだろう。実際、チームにいたブルガリアの選手がはるかにデュポンと深い関係になったのだ。
カポーティ』もなんとも寒々とした映画だったけれど、本作もそんな感じはある。レスリングというスポーツを題材にしているのに、汗だく感もなく、温度が低いのだ。監督独特の、冬の林みたいな品のある寒々しさだ。
作品はおもにペンシルバニアで撮影している。たとえばこんなお屋敷街、というか広大な屋敷が散在している高原だ。デュポンほどじゃないけれど、どの家もゆうに1ha以上ある。うーん….

ロリータ


<予告編>
ストーリー: アメリカの大学で文学を教えるためにやってきたフランス人作家ハンバートは、下宿先の未亡人にがっつり惚れられる。でもかれが一目見て夢中になったのはその家の娘、 ドロレス・ヘイズ(愛称ロリータ)だった…
キューブリックの古典温故知新。『現金に体を張れ』の数年後だ。まずはロリータがやたらと髪が盛り上がったたんなる女子校生なところで既にインモラルな妖しさはない。むしろ主人公に惚れる母がエキセントリックである。それもあって、ところどころよくある艶笑コメディ風の演出になっている。エロ要素の隠ぺいはもちろん当時の表現コードに合わせたから。脚本は原作者ナボコフだけど監督キューブリックが時間を切り詰め書き直したという。原作以上にジョーカー的な、というよりすべての糸を引いていたみたいなライターの男が奇妙に大きい存在感だ。演じているピーター セラーズ(ある世代以上には『ピンク パンサー』でおなじみだ)はまだ若いけれど、すでにつかみ所のない怪しさを見せている。 2年後にキューブリック出世作博士の異常な愛情』の一人二役で独特の芸と存在感を発揮することになる。
ちなみにこのお話はロードムービー要素も結構ある。少女と父的男のロードムービーはベンダースの『都会のアリス』がフォローしただろうし、隠すしかない愛と旅と車+モーテル の絵面は最近だと女性どうしの旅『キャロル』で再現していたね。

ステイ・フレンズ




予告編
ストーリー: LAのウェブデザイナー、ディラン(ジャスティン ティンバーレイク)はNYの人材スカウト、 ジェリー(ミラ クニス)の紹介でGQの編集部に入る。仕事友だちだった2人はムラっときたのがきっかけでセフレに。その後もチャットやセックスを楽しむ2人だけれど、じつはどちらも性格に問題ありで恋人とどうしてもいい関係がつくれないのだった…
セックスフレンドからはじまる友情。NYとLAのカルチャーギャップネタもおりまぜて、フラッシュモブも要所に見せて。主人公は ミラ クニスとジャスティン ティンバーレイク。ミラは『ブラックスワン』の黒鳥、というか主人公のライバル役のひと。ジャスティンはキャラクターからするとマッチョ過ぎて、童顔とのバランスもヘンだ。だいたいウェブデザイナー経由、ファッション雑誌のアートディレクターなんだよ。あれ、編集長だっけ? NYが 舞台だから はお上りさんテイストもじゃっかんかもし出すんだけど、こういうキャリアの人にしてはお堅いスーツだったり妙にトラッド調の野暮ったいカジュアルだったりで、なんだからしくない。ミラがキレのいい可愛さタイプだから、少しもさっとさせるバランスなのかね。
話はそれぞれの親との問題に広がっていき、2人とも親との葛藤がいまの「この感じ」につながってるところがていねいに描かれる。「この感じ」の殻をやぶろうと決心できるのもそれぞれの葛藤にすこし光が見えるからなのだ。ディランの同僚でオープンなゲイ役のウディ ハレルソンが味わい担当。なかなかいい。