ブラックブック


<予告編>
ストーリー:第二次世界大戦末期のオランダ。裕福なユダヤ人家庭に育ったラヘルはナチの追及から逃れて潜伏していた。追っ手が迫り、エージェントのいいつけ通り、財産を身につけて船に乗る。しかしそれは罠だった。逃亡者たちは待ち伏せしたドイツ軍に殺され財産を奪われる。1人生き延びたラヘルはレジスタンスに合流してエリスと名を変え、美貌を生かしてドイツ軍の将校の愛人になり、占領軍司令部で働くようになる。
レジスタンスとドイツ軍、どちらにも裏切りものが潜み、作戦情報を盗み合う。エリスもその情報戦の一員になる。彼女たちを罠にはめた者たちのすがたもうっすらと見えてくる。けれど将校は彼女の正体などとっくに見切っていた......半年後。ドイツが降伏しオランダ全土が解放の歓喜に包まれる。レジスタンスは国の英雄だ。その中で、占領下ドイツ軍の協力者は裏切り者として制裁される。 ラヘルも例外じゃない。彼女の安住の地はどこに.....?

ストーリー紹介が長いです。さらにイスラエルのシーンもあるのだ。本作はストーリーの比重が大きい映画なのである。まさに「波瀾万丈」としか言いようがない主人公の運命の流転。占領下のユダヤ人たちの苦しみ、マタ・ハリ的女スパイもの、とにかく忙しい。ドイツ軍とレジスタンスの騙し合いに加えて、ユダヤ人を裏切ってドイツと手を組んだやつも絡むし、ドイツ軍の中でも対立があるから、サスペンスの行方も目が離せない。
監督ポール・バーホーベンのオランダに戻って以来の大作である本作は、ハリウッド期のたとえば『スターシップ トゥルーパーズ』あたりと比べてもすごくオーソドックスに、込み入った話を理解させる描写に徹している。もちろん「んん?そこ見せるー?」というシーンもあるけれど、彼ならではの「心地よいエグみ」みたいな要素は少ない。
画面もクラシックな印象で、ライティングもきちんと作りこんだドラマ作品のそれだ。1940年代風のヒロインの風貌やヨーロッパキャバレー文化的な乱痴気騒ぎとかの舞台立てによく合っている。はっとさせるような斬新な映像体験というのはない。『トータル リコール』のおばさんの顔が割れて....とか『スターシップ』の昆虫型宇宙人の殺傷力とか『氷の微笑』の有名すぎる足組み替えシーンとか、そういうアイコニックなビジョンはない。

たぶんオランダの映画界にとっても重要な作品だったんだろう。いままで英雄視されてきたレジスタンスたちの暗部を描き、ユダヤ人たちへの負の歴史も白日にさらす。監督もここは襟を正して臨んだのかもしれない。お話のトーンも真面目でオフビートな感じとか皮肉な笑いとかもない。
ただ、じっとり深刻かというとそうでもなく、そもそも主人公がわりと最強で、戦前はショービジネス界にいただけあって美女なうえ、舞台度胸もあり、頭も切れる。スパイをやらせても優秀だし、なによりものすごくタフだ。不幸の乱れ打ちでこれほど大変な境遇の主人公もなかなかいないのだが、同情心をかきたてるよりはサスペンスを引っ張っていってくれる頼もしいヒロインなのだ。
展開もジェットコースター的でだれない。そんな中で裏切りに次ぐ裏切り、主人公の視点に寄り添う観客が信頼できるかと思った人間も一皮剥くとぜんぜん違う真相を隠し持っていたりする。明快な正義なんてどこにも存在しない、そんなドライさがこの歴史サスペンスを新しい手触りにしている気がする。占領軍と女スパイの恋、『ラスト コーション』がもろにそのプロットだ。あとはその時代のボクサーの人生を描いたドイツ映画『ザ・ファイト』を思い出した。

イコライザー


<予告編>
ストーリー: 1人だけどきちんと暮らす初老の男、マッコール(デンゼル・ワシントン) 。 毎朝バスに乗ってホームセンターに勤務し、帰ると近くのダイナーでひとしきり読書にふける。ダイナーの常連、シンガーを目指しているテリー(クロエ・グレース・モレッツ)はロシアシンジケートの配下で売春をさせられ、客とのトラブルで組織にICU送りにされる。許せないものを感じた マッコール彼らのアジトに行く。ナイフも持たない丸腰だ。しかし彼の頭は「何秒で全員片付くか」だけだった.....


ま、TVドラマ発のジャンルムービーですからね。主人公は無双だし敵は小気味よくやられるためにいる。 敵の暴力性描写はクライマックス大勝負の手応え感を高める目的だ。戦いはスリリングではあるけれど爽快感に満ち、いい感じに脇役にも見せ場がある。
ロシアンマフィアと女性のヒューマントラフィックといえば名作『イースタン・プロミス』がある。あの冷んやりした組織の怖さ。今度の敵はお話的にははるかに巨大だ。構成員おなじみの全身タトゥーも迫力だ。でもいまいち怖くない。
終盤になると主人公の剛力ぶりが加速して、組織のコアな部分をあっさり1人で破壊していく。相当な難ミッションのはずなのに現場に行くと次のシーンでは片付いていて、主人公が振り向きもせず歩み去る後ろで、巨大な敵が崩壊していく。
というそんなこんなをマッチョなタフガイ系じゃなく滋味溢れるデンゼル・ワシントンがこなしてるのは、まぁいまのトレンドなんでしょうね。戦いの途中でみせるひょうひょうとした表情が独特のクールさの表現になっている。
ちょっと前に見た『狼の死刑宣告』は定型ではあるけれど、主人公の変容と暴力の正当性への疑問が一応あった。あとちょっとダサめのおじさんがじつは過去に....パターンは『ヒストリー オブ バイオレンス』がそうだ。あれだって暴力の行使はそれなりの何かを踏み越えた重みがあった。こちらの主人公は最初から完成してるし、敵の「処理」にもまるで悩みはない。能天気度1度高めのアクションムービーだ。